クラセンの屈辱
クラセン。
その名前が出た瞬間、私と友人たち――ルスタン様が言った若者たちを除く全員が沈黙した。
私の世代にとっては歴史書でしか見たことのない話だけれど、それはほんの数十年前の出来事だ。ここにいる偉い方々は皆その時も生きていた人たちで、ほとんどの人が直接その事件を経験している。あのような反応も当然だろう。
「今この場にいる全員を挑発するというのか?」
パロム様がそう言ってルスタン様を睨みつけた。でもルスタン様の態度はまるで微風を受け流すかのように軽やかだった。
「そう聞こえたのなら、それは劣等感のせいだよ。自信があるなら、わざわざそんな風に考える必要はないと思うけどねぇ?」
「愚かな。クラセンの事件の時、わしは別の任務を遂行中だった。わしがその場にいれば、そもそもそんなことは起こらなかったぞ」
「その言葉は団長が直接出向かなければ月光騎士団が無能になるという事実を認める発言だよ?」
ルスタン様がもはや露骨に挑発しているじゃない!?
一人でそんなことを考えながらオロオロしていると、私の隣にいたシドが肘で私の腕をつついた。彼の父親であるメノード様が近くに座っていたおかげで、シドも私の隣に座っていた。
何か言いたいことがあるようなので、体をシドの方に少し傾けた。するとシドは私の耳に顔をぐっと近づけて囁いた。
普段なら耳に触れる息遣いに戸惑っただろうけど、今回は別の意味で愕然とせざるを得なかった。
「クラセンって何だ?」
「あんたってば……!」
思わず大声を出しそうになったけれど、場所を思い出して何とか我慢した。
とにかくこいつは本当に……!
「アカデミーの歴史の授業でもあったじゃない。覚えてないの?」
「歴史の授業はちゃんと聞いてなかったんだよ」
「……はぁ……」
ため息が出るね、本当に。
幸い他の方々は会議の主役ではない私たちにあまり注意を払っていなかった。おかげで小さな囁き声でも会話を交わすことができた。
「クラセンはリディアたちが生まれる前にあったクラセン戦争のことよ」
「戦争? あー……そういえばクラセン王国っていう国があったような気がするな」
「ええ。今は滅んじゃったけどね」
私たちが生まれるずっと前、昔にはクラセン王国という強大国があった。
当時はバルメリア王国とも競争できるほど強い国だった。政治や商業だけでなく、物理的にも。
クラセン戦争はそのクラセン王国がバルメリア王国を大規模に侵攻して勃発した戦争だ。
当時パロム様をはじめとする騎士団のトップクラスの強者たちが緊急の任務で不在だったこともあり、クラセン王国軍は止まることなく進撃した。残った騎士団と各公爵家及び王家はクラセン軍を食い止めると豪語して出陣したけれど次々と敗退した。
当時、唯一オステノヴァ魔道兵団だけが防衛戦に参加しなかった。
オステノヴァの功績は膨大だけど、国防分野に限っては他の公爵家と王家に軽視されていた。オステノヴァは研究者としての役割だけが重用されるばかりで、魔道兵団も長らく実戦を経験していなかったから。
そして王都タラス・メリア陥落直前の状況になってようやくオステノヴァ魔道兵団が出陣し……バルメリアは勝利した。
そうとしか言いようのない快進撃だった。オステノヴァ魔道兵団は強力で質の高い軍勢とルスタン様の優れた戦略を掲げ、瞬く間にクラセン王国軍を撃退し、そのままクラセン王国本土まで攻め込んで焦土と化させてから帰ってきた。その余波でクラセン王国はそのまま滅亡し、バルメリア王国に正式に帰属した。
『先祖様の譲歩のおかげで軍権を握った似非連中が図に乗って戯言を吐くのは我慢できないんだよ。今後オステノヴァの前で戦い上手って偉そうにする馬鹿はいなくなることを願うよ』
当時のルスタン様の言葉だった。騎士団と他の公爵家と王家はその言葉に何の反論もできなかった。
軽視されていたオステノヴァに防衛を依存し、逆に散々軽視されても文句一つ言えなかったということで付けられた名前が『クラセンの屈辱』。その事件以降、オステノヴァ公爵家の軍部での影響力も非常に高まった。
それを要約して説明すると、シドは理解したように頷いた。そして彼の顔に疑問の表情が浮かんだ。
「クラセンについては分かったけど、今なんでその話が出てんの?」
「それは私も分からないけど、察しはつくよね」
『クラセンの屈辱』事件以降、オステノヴァ公爵家は新たな分野にも影響力を広げていった。しかしそれは他の公爵家と王家にとって軽く受け止められない問題だった。
オステノヴァ公爵家が軍に関連する分野で軽視されていたのは事実だ。しかしそれでも四大公爵家だった。つまり、軍分野での弱さを含めても他の公爵家と対等な権勢を誇っていたということだ。
実際、オステノヴァ公爵領はバルメリア王国でも最も技術発展が優れた場所だ。その特徴と政治的な位置を基盤に他の公爵家と対等な権勢を維持してきたオステノヴァが軍と関連分野の影響力まで広げるということは、ある程度拮抗して維持されてきた四大公爵家の権力バランスが崩れるということでもある。
そんな状況を警戒してきた権力者たちにとって、ルスタン様が今提案している方法は簡単に受け入れられないだろう。でなくても権力バランスを崩しているオステノヴァ公爵家が他の領地の情報まで手に入れることは重大な問題だから。
ルスタン様はそれを全て理解した上でなお引かなかった。
「一度聞かせてもらおうかな。月光騎士団と騎士団総本部がそれぞれ考えている作戦が何なのかを。納得できる作戦なら、オステノヴァ公爵家も全力で支援しよう」
納得できない作戦ならこちらも引く気はない――あえて言葉に出さなくてもそんな意図が底に潜んでいることを、おそらく皆が感じているだろう。
最初にパロム様が口を開いた。
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