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国の論争

「すでに議論の最中ではあるが、整理を兼ねて改めて言及するとしよう」


 陛下の言葉をオステノヴァ公爵閣下……ルスタン様が引き継いだ。


「議題は最近暴れている安息領についてだね。奴らが狙っているものは何か、そして我々がどう対処すべきかを決めるための会議だ」


「奴らの狙いについては議論の余地があるが、対処方法は一つのみ。徹底的で無慈悲な殲滅のみだ」


 フィリスノヴァ公爵閣下……パロム様の言葉だった。まさに彼らしいね。


 ルスタン様は苦笑いを浮かべたけれど、その笑みの意味は否定ではなかった。パロム様の豪快さがあまりにも単純明快すぎて出た表情に過ぎず、根本的にはむしろ同感の立場だった。


「表現が直接的すぎるけど、根本的にはそうだね。我々がすべきことは安息領どもの謀略を正面から打ち砕くことだよ」


「反逆者の意見に同意を示すのは不快なことでござるが、今回ばかりは拙者も同意見。奴らの犯罪はすでに一線を越しておる」


 ルスタン様も総団長も、そこまでは異論がなかった。そもそも安息領が敵であり殲滅対象だということは、ここにいる誰も否定しないのだから。


 問題はその先だった。


「だが」


 その時になって父上が発言された。


「安息領を討伐するという基本方針に反発する愚か者はこの場にはおらん。そしてこの場がそのような当然の事実を再確認するためだけの場だと考える無能者もありはしないのだ」


「兄上の仰る通りですの。重要なのはどのように情報を収集し、どのように整理して対処するかです。その方法論に異論があったからこそ、今まで無意味な言い争いを繰り返していたのでしょう」


 父上の言葉に続いたのはオステノヴァ公爵夫人のベティ様だった。


 父上の妹、つまり私にとっては叔母上。同時にオステノヴァ公爵閣下の妻であり、テリアとアルカの母上様。けれどこの場には騎士団総本部の教育部長の資格で出席されていたためか、座席は総団長の隣だった。


 総団長が重々しく頷いた。


「黎明騎士団長と総本部長の言う通りでござる。我ら騎士団は人員と資源の現実性を考慮し、奴らの主要拠点に関する情報を確保した後、優先的に叩くことを主張するものよ」


 黎明騎士団長は我が父上だ。四大公爵のうち、フィリスノヴァと我がアルケンノヴァは騎士団を直接率いている。


 父上は黎明騎士団長として総団長の方針に賛成の立場だけれど、もう一人の公爵にして騎士団長の意見は正反対だった。


「愚かな。安息領はしつこく数の多いネズミどもだ。それに今はそのネズミどもが大量に発生している。奴らを確実に撲滅するには、すべてのネズミを同時多発的に一掃する方法しかないぞ」


「反逆のような愚かな行為を考える者は戦略案も浅はかきわまりないな。騎士団及び全軍の戦力ではそれを達成できぬ。敵の出現地点と規模を知れ」


「貴様と部下どもの無能のゆえのことをこのわしに転嫁するな、千三つめ。わしが提示しているのはわしと月光騎士団の力があれば十分に可能な目標である。弱音を吐きたいなら貴様の死んだ母親の墓参りでもしてくるがよい」


「反逆者らしく下品極まりない戯言だ。こんな奴がこの国の公爵の座を占めているから安息領のような輩が跋扈するのだ」


 ……息が詰まる……!!


 席に集まった面々だけでも重圧感で腹が重くなりそうなのに、極めて個人的な嫌悪感と敵愾心で互いを攻撃し挑発し合うのを見ていると倒れそうだ。


 せめてそんな雰囲気をルスタン様が少しは和らげてくれた。


「どちらにも一理あるよ。できるものならフィリスノヴァ公爵の言うように全体を一網打尽にするのが最も確実だ。しかし総団長の言う通り、騎士団と軍の人員と資源はそれを実現できるレベルではない。安息領が全国各地で暴れているからね」


 ルスタン様は穏やかに笑いながらそう言った。


 しかしそれは単なる仲裁ではなかった。


「言い換えれば、規模を賄える方法があれば十分に可能だということでもあるんだ。だから先ほど提案したじゃない? 我がオステノヴァにはそれを実現できる方法があると」


「それを実現するための前提条件として要求したのが全国の作戦介入と領地情報照会権限ではないか。このような状況でも抜け目なく利益を得ようとするのは相変わらずである」


 そう指摘したのは、今まで一言も発していなかったハセインノヴァ公爵閣下――メノード・コバート・ハセインノヴァ様だった。


 外見はシドがそのまま成人になったような御方だったけれど、明るく活発なシドとは雰囲気が全く異なっていた。漆黒の装いの上に月のように白く浮かび上がった顔は背筋が凍るほど無表情で、やや長めの前髪の陰に覆われた目は不気味なほど暗かった。


 こんな考えは無礼かもしれないけれど、暗殺と裏工作に特化したハセインノヴァ公爵家の当主らしいと思わずにはいられなかった。


 ルスタン様は一見優しげに見える微笑みを浮かべた。


「そういう意図もあることは否定しないよ。でも目的はあくまで大義のためだ。他の領地に害を及ぼすことはないと約束しよう」


「無駄な真似ぞ。お前の力など無くともわしと配下の力だけで十分なのだ」


「オステノヴァ殿の協力の意思には感謝する。しかし騎士団は騎士団の戦力と作戦のみでも現下の状況を解決できると確信しておる」


 パロム様と総団長の意見が珍しく一致した。直後に総団長はその事実が不快そうに舌打ちしたけれど。


 一方ルスタン様は苦笑いを浮かべながらも、冷ややかに沈んだ目だけは全く笑わないまま二人を見た。


「おかしいね。若者たち以外はここにいる皆がクラセンを直接覚えているはずなのに。また同じ目に遭いたいというのかい? それともクラセンを覚えているからこそ僕を牽制したいのかな? どちらにしても今のような危急の状況でそんなことばかり考えている馬鹿はいないことを願うけどね」

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