偉い人たち
……どうして私がここにいるのかしら。
「それでは卿は南部の対処が…….」
「今は北部の海岸にも問題が…….」
「とんでもない話だ。ここではそんなことよりも…….」
非常に広い会議場と多くの人員を配置できる長方形の巨大テーブル。巨大な規模に比べれば参加者の数は少ない方だったけれど、集まった面々の圧迫感は広い会議室を埋め尽くしてもお釣りが来るほどだった。
そんな中、隣の父上がテーブルの下でそっと私の手を握ってくださった。
「緊張を解きなさい、リディア。お前は前面に立つ役割ではないのだから」
「……はい」
父上からこのような慰めを受けるのは珍しいことなので嬉しいけれど、一方では微妙な気持ちもあった。
ディオスの奴が私をいじめている間、まともな対策など何一つしてくれなかった父上だから。
もちろん父上は本家に戻ってくることがほとんどなく、本家の使用人はほぼ全てディオスの奴が掌握していた。しかしいくらディオスが本家の情報を遮断しようとしても、たかがそれくらいで本家の状況を知らないはずがない。四大公爵の目と耳がそれほど鈍いはずがないのだから。
そんなことを考えれば父上に対して感じる感情も否定的なものの方が大きかったけれど……今はそんなことを置いておいて父上に頼りたいほど、重圧で胸が苦しかった。
もし誰かが今の私を見ても非難はできないだろう。
「皆落ち着くのだ。無駄な言い争いで時間を無駄にしようと召集したわけではない」
テーブルの上座を占めている人物はこの国の支配者。バルメリア王国国王。
「そもそもこの会議自体が時間の無駄だ。今この瞬間にも安息領のクズどもが跋扈しておるというのに」
不快感を隠さずに露わにする人物は月光騎士団長にして四大公爵の一人、フィリスノヴァ公爵。
「反逆者が良くも言うものだ。今この時間を最も有益に使う方法は、この場で貴様を討伐することだぞ」
フィリスノヴァ公爵に敵意に満ちた視線を向ける重厚で素敵な老人は騎士団全体の長にして総本部の長、騎士団総団長。
「まあまあ、使える札は多い方がいいだろう。それに本当にフィリスノヴァ公爵を討伐しようとしたら、手に負えない内戦になってしまうよ。そうなれば安息領だけが笑う結果になるじゃないか」
にこやかに笑いながら仲裁する人物はオステノヴァ公爵。
主に発言する人物はこの四人だったけれど、その他の面々も皆すごい人たちだった。
それもそうだろう。この場は国王と四大公爵たち、そして各騎士団の団長たちが全員集まっているのだから。はっきり言えば、この国の公式な最高指導者たち全員がここにいるんだ。
……普通ならこのような偉い方々の集まりは危険性のためにも控えるだろうけど、この国の偉い方々ってのは皆が人間を超えた化け物たちなので安全について気にする必要がない。奇妙なことだ。
このような場に一介の公爵令嬢に過ぎない私がなぜ同席しているのか今も理解できない。せめてハセインノヴァ公爵閣下の隣にシドが、国王陛下の隣にケイン第二王子殿下が、オステノヴァ公爵閣下の隣にジェリアがいたおかげで私もなんとか耐えているだけだ。
……フィリスノヴァ公爵令嬢であるジェリアの席が間違っているって誰か一人くらいは指摘するだろうと思ったけど、誰も何も言わないね。
そのジェリアがちょうど口を開いた。
「反逆者のくせにこんな重要な場に厚かましく顔を出すのが気色悪いぞ。貴様に良心などないことはよく知っているものだが、最低限の分別くらいはつけろ」
「親に向かって態度がなっておらぬな。後継者としての自覚を持つようにせよ」
「貴様が譲る席なんぞに興味はない。そもそもボクを娘だと思ったことがあるのか? いや、貴様の頭の中に家族という概念があるのか?」
「力の象徴であるフィリスノヴァの主たる者は最も強き者でなければならぬ。子らが正当な資格を備えることを願うのは親として当然の心構えだ。そしてお前は十分に資格を証明した」
ジェリアは返事の代わりに今にも唾を吐きそうに顔をしかめるだけだった。
わぁ……ある意味すごいね。こんな場で他の人たちをよそに親子喧嘩に神経を使えるなんて。ジェリアが強い人だってことは知っていたけど、改めて尊敬する。
親子喧嘩に割り込むために口を開いたのは国王陛下だった。
「止め。彼の反逆と処罰については既に交渉を終えた。協定の内容についても皆に伝えたはずだ。いちいち無駄な論争を起こすな」
「しかしながら陛下。あの者はいつまた同じことをしでかすか分かりませぬ」
騎士団総団長が進言したけど、国王陛下は首を振った。
「それについても既に協定に含まれている。そしてオステノヴァ公爵の指摘の通り、今フィリスノヴァを懲罰しようとしても得るものはない。だから総団長は不要な異議を唱えるな」
「……はい」
「そしてフィリスノヴァ公爵。卿の罪は許されたわけではない。その点を肝に銘じて発言せよ」
「言うたはずだ。わしに罪など無い。愚かで無能な者どもを片付けるのは当然の権利にすぎぬ」
その言葉に総団長が再び怒りの視線を放った。
しかし彼が口を開く前に、国王陛下が先に頭痛がするような表情で溜息をついた。
「その権利は国王である朕にある。そして軍を起こして国に被害を与えようとしたのは明らかな罪だ。……そして何より、卿の進軍は自ら止めたのではない。オステノヴァ公爵に敗北した結果だ。敗者なら敗者らしく頭を下げるべき時をよく見極めよ」
フィリスノヴァ公爵閣下の顔に初めて怒りが現れた。ジェリアがそれを見て愉快そうに笑った。
……私としては暴れ出さないか心配で胃が痛くなるほどなのに……!
幸い閣下は表情で感情を表すだけで、それを確認した国王陛下はもう一度溜息をついてから表情を引き締めた。
「ようやく収まったな。では本題に戻ろう」
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