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決着と意図

「すでに言ったはずだ」


 ベルトラムの眉間に怒りが垣間見えた。


「安息領の力を侮るな。安息八賢人とは爾のような若造が軽々しく判断できる相手ではない」


「ボクももう言ったはずだぞ」


 受け応じるボクは、わざとより尊大で傲慢に見えるよう笑った。


「貴様こそボクを侮っているとな。貴様の仲間に確か世界権能保有者がいたはずだが?」


 言葉と同時に突進し、斬撃。


 一振りが巨大な氷雪の刃となった。それに対してベルトラムが手を伸ばすと、甲冑の手袋が巨大な氷雪の腕に変化した。


 激突は〈暴君の座〉の力を帯びたボクの方の一方的な勝利。


 しかしベルトラムはその程度はすでに予想していたかのように冷静に斬撃を回避し、魔力を操作した。


 ――ベルトラム式『冬天』専用奥義〈冬神の懲罰の意志〉


 砕け散っていた氷雪の腕の魔力が変化した。砕けたまま更に広がってボクの四方を取り囲む形となり、その魔力がそのまま無数の刃となってボクに降り注いだ。


 巨大な〈神竜の守護〉がそのすべての刃を粉砕した。しかし氷雪の刃は絶え間なく生成され浴びせられ、少しずつ神竜の暴風を削り取っていった。


 呆れて笑いが出るぞ。


「考えに考えた手段というのが、たかが量で押し切って力を削ぐというのか? 愚かだな」


 もちろんそれだけではないだろう。隠された意図があるはずだ。


 しかしあえてそれを見抜けなかったふりをして突進した。


〈神竜の守護〉の暴風を纏ったまま突進するだけでも圧倒的な範囲攻撃だった。そこに〈暴君の座〉の権能が加われば、それだけでも並の戦闘員部隊なら殲滅可能だろう。


〈冬神の懲罰の意志〉の術式が依然として稼働し氷雪の刃を発射し続けたが、〈神竜の守護〉の減衰率は微々たるもの。瞬時にベルトラムを圧殺できる。


 だがベルトラムは動揺しなかった。


「もう十分だ」


 ――安息領式邪毒制御術〈堕落の城砦〉


 砕けた氷雪の魔力がいつの間にか一つの巨大な邪毒陣を形成していた。


 いや、最初からあいつの目的はそれだったのだろう。


 こんな巨大な邪毒陣を露骨に準備すればすぐにバレる。だから黒騎士用魔道具で邪毒の混じった魔力を攻撃に使って撒き散らしたのだ。〈神竜の守護〉の力の前に砕け散るのすら邪毒を配置するための狙いだった。


 そして邪毒陣の効果は明瞭だった。


「くっ!?」


 邪毒陣に囲まれた空間全体に邪毒が溢れ出した。


 空間全体から均等に邪毒が湧き出した。つまり〈神竜の守護〉の防御を無視してボクのいる場所に直接邪毒が沸き立ったのだ。しかも〈神竜の守護〉すら邪毒に侵食されていた。


 激しい頭痛と吐き気が頭をくらくらさせ、体の奥底から只ならぬ熱が噴き出した。


 とてもよく覚えている。腹立たしいくらいに。


「お粗末だぞ」


 ――『冬天世界』専用技〈押し潰す冬神の歩み〉


 怒りに満ちた一歩が大地を踏みつけ、ボクを取り囲む邪毒陣とすべての邪毒を一撃で消滅させた。


「……なっ……」


「確かにボクは貴様らの謀略に引っかかったぞ。大量の邪毒に侵食されて暴走した。今もその証拠ははっきりと残っている」


 額に生えた角に触れる。


 ラスボス化した時よりは小さくなったが、それでも前髪を掻き分けて突き出ている二本の角は目立つ。ボクの過ちの象徴としていつまでもボクを叱責するだろう。


 しかし同時にこれはボクにとっては一つの恩恵でもあった。


「だが大量の邪毒に一度侵食された体はある程度耐性を持つものだ。あの時と同じ量の邪毒ならともかく、たかが貴様一人が邪毒陣で呼び出す程度の邪毒は不快なだけで効果はない。いや、むしろ……」


 角を触っていたボクはふと気づいた。角がほんの少し長くなったということに。


 変わったのは外見だけではなかった。


「多少はボクの力の助けになるようだな。不快な現実だが、利用できるなら良い武器となる」


 その場で適当に剣を振るった。


〈神竜の守護〉は邪毒に侵食されて腐っていき、〈押し潰す冬神の歩み〉に巻き込まれて消滅した。


 しかし神獣『リベスティア・アインズバリー』の力は健在だ。神獣の本体は〈冬天世界〉そのものなのだから。


 ――ベルトラム式『冬天』専用奥義〈止まってしまった世界の望遠鏡〉


 ベルトラムは氷の甲冑全体を氷雪の魔力に変化させて前方に展開した。


 強力な氷雪の壁だった。物理的に防御するだけでなく、極限まで錬成された『冬天』の魔力が時空を停止させ突破を許さなかった。


 しかしボクの斬撃はそれをいとも簡単に砕いて突破した。


「ぐっ……」


 ベルトラムはさらに魔力を展開して斬撃の威力を減衰させたが、結局完全には防ぎきれず深手を負った。


 しかし倒れた奴の顔に笑みが浮かんでいた。


「……言っただろう。侮るなと」


「この状況になってまで意地を張るのか?」


「くくっ、やはり若造だな。まだ勘違いしているのか?」


 ボクは倒れたベルトラムに近づきかけ、異変を感じて振り返った。


 邪毒陣と邪毒はさっき確かに粉砕したはずだ。なのにまだ邪毒が残っている……いや、違う。


 まさかこれは?


「ちっ!」


 苛立ちと怒りの混じった舌打ちをしながら〈冬天世界〉を解除した。廃棄された下水道の光景が戻ってきた。


「ようやく気づいたようだな」


 ベルトラムは苦しげに体を起こした。しかしボクは奴に気を取られていられなかった。


 さっきはなかった巨大な亀裂が下水道を飲み込んでいたのだから。


 物理的なものではない。これは――。


「そもそも私の目的は時空亀裂を活性化させることだ。私の勝敗は戦いなどで決まるものではない。それを勘違いしたのがまさに爾の未熟さの証拠だ」


 ベルトラムは逃走のための魔道具を起動させた。


 それを背中で感じていたが、追跡する余裕はなかった。


 時空亀裂がすでに活性化して邪毒を吐き出し始めていたのだから。


 奴の〈堕落の城砦〉は最初からボクではなく、この時空亀裂を刺激することが目的だったのだ。


「チクショウが!!」

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