同じ力を持つ者
――ジェリア式狂竜剣流『冬天世界』専用技〈神竜の爪〉
探索を兼ねてもう一度斬撃を放つ。
探索とはいえ、中途半端な者には必殺の威力。安息八賢人にも脅威となるレベルだと自負する一撃だった。ベルトラムにはなおさらだろう。
だがベルトラムの対応は速く熟練していた。
『冬天』の力で時間を停止に近いほど遅くした。上位の『冬天世界』の能力者であるボクには本来ほど通用しなかったが、それでも少し遅くすることは可能だった。
そしてその少し遅くなる程度でもベルトラムには十分な隙だった。
――『冬天』専用技〈神より授かりし懲罰槍〉
巨大な氷の槍が斬撃の側面を攻撃した。遅くなった斬撃に側面からの衝撃が加わると魔力の結束が解け、斬撃が力を失った。
しかし莫大な魔力自体が消えたわけではなく、解き放たれた魔力が嵐となってベルトラムを襲った。
――『冬天』専用奥義〈冬神の偶像〉
ベルトラムの後ろに現れた巨大で荘厳な氷の彫像が余波を代わりに防いだ。そして巨大な手に魔力を集めて巨大な氷の槍を作り出した。
突進して振り下ろされたボクの『冬天覇剣』と氷の槍が正面からぶつかり――氷の槍が一方的に砕けた。握っていた腕まで一緒くたに。
「安息八賢人の名に値しないぞ。これが貴様の全力か?」
「もちろん違うのだ」
意に介さず追撃しようとさらに歩を進めると同時に、ベルトラムが氷の彫像にさらに魔力を注ぎ込んだ。
――『冬天』専用奥義〈冬天の千手王〉
彫像の大きさが〈冬天世界〉の雪山と比肩する大きさまで成長した。それだけでなく二つだった腕が急激に増殖し千本に増えた。
のみならずベルトラムから邪毒の気配が噴き出し始めた。
奴がどんな手段を使おうとボクにとってはさほど重要なことではないが……あれだけはイラつかせるな。
「気分の悪い記憶が蘇るぞ」
安息領が不法改造した黒騎士用魔道具。ボクがあれを誤用してラスボス化してしまったな。
ボクの表情を見てベルトラムが眉をひそめた。
「爾がこれほど強くなったとは想定外だった。まさか我らの努力が却って敵を強くする結果になるとはな」
「こちらもイラつく話だったぞ。おかげでこうして力を得たのは幸いだったがな!」
――ジェリア式狂竜剣流『冬天世界』専用技〈神竜の咆哮〉
剣を振るいながら巨大な魔力波を放った。それに対してベルトラムは千本の氷の拳を同時に振るった。
降り注ぐ手の数十本を〈神竜の咆哮〉が破壊した。しかしその過程で力を使い果たし、残りの手が一斉にボクに殺到した。
もちろんこのボクがたかがそれ程度で動揺したり押し返されたりするはずがない。
――ジェリア式狂竜剣流『冬天世界』専用技〈神竜の軍勢〉
刹那の間に数十数百回の突きを放つ。その全てが氷雪の斬撃の嵐を発射し、まるで無数の竜の頭が一斉に敵に襲いかかるかのような光景を作り出した。
数多の氷の手を氷雪の竜たちが噛みちぎった。瞬く間に氷が砕け無数の破片が舞い散った。
氷の手一本と竜の突き一発の威力はほぼ互角。両者が騙し合いなしに正面からぶつかれば、互いの力が相殺されて消滅するのは自明の理だ。
それゆえ今回の合わせ技の勝負を分けたのは維持力の差だった。
「う……むっ!」
ベルトラムは顔をしかめながら両腕を広げた。腕から放たれた魔力が〈冬天の千手王〉を強化した。残りの腕がさらに堅く強くなった。だがすでに失った腕が復元されることはなかった。
奴の腕は千本。確かに多い数だが、言い換えれば千本という限度が決まっている。
一方ボクは世界権能の圧倒的な魔力が尽きるまで何百回でも何千回でも突きを繰り返せる。世界権能ではない『冬天』を相手に持久力で負けることはありはせぬ。
もちろん相手が別途の強化魔道具を持っていれば変数になりうるがな。まさに今のように。
――ベルトラム式『冬天』専用奥義〈果てなき前進〉
黒騎士用魔道具で強化されたベルトラムの魔力が〈冬天の千手王〉の彫像を中心に膨れ上がった。
ボクの力とぶつかって砕けた破片と散らばった魔力。それが再び彫像に集まり、ベルトラムの魔力が加わってさらに増幅された。そうして増大した魔力が無数の氷の刃を生んだ。
降り注ぐ氷の雨は〈神竜の軍勢〉の猛烈な突きを突破し、〈冬天世界〉の支配さえも凌駕した。削られても絶え間なく魔力が供給され攻勢の勢いを維持した。
「面白いぞ。そのくらいはやってくれぬとな」
――『冬天世界』侵食技〈冬天世界〉法則発現〈暴君の座〉
――『冬天世界』専用技〈押し潰す冬神の歩み〉
足で大地を踏みつけた瞬間、〈冬天世界〉全体の魔力が空間を押し潰した。〈冬天の千手王〉も、それを中心に展開されていた魔力と邪毒も一瞬で踏み潰されて消え去った。
目的が奴の魔力を破壊することだったため、ベルトラム本体にはそれほど強く力がかけられなかった。それでもベルトラムは余波を全て防ぎきれず左腕を押さえていた。
だが奴の魔力も眼光も全く衰えていなかった。
「安息八賢人ともあろう奴が、たかがこの程度で敗北を宣言したりはせぬだろうな? 正直、貴様の顔を見てかなり期待したぞ。失望させるなよ」
「爾の失望感など私とは何の関係もないが……」
ベルトラムは左腕を押さえていた右手を離した。
左腕の傷はまだ治っていない様子だったが、『冬天』の魔力が無理やり骨と筋肉を繋ぎ固定した。恐らく戦闘を続行するには問題ないだろう。
「私の任務を全うしようとすれば自ずと爾の期待感を満たすことになるだろう。微妙な現実だな」
「はっ」
笑いが出た。
最近いろいろあって個人の趣味嗜好や好悪よりも大義を優先していたが、やはりボクにはこちらの方が似合うぞ。
強敵との戦い。磨き上げてきた力を試し限界まで証明すること。元々ボクの好きなのはそれだけなのだからな。
「もはや長話など必要あるまい。行くぞ」
『冬天覇剣』を握り直し、ベルトラムに向かって一直線に突進した。
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