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極寒と極寒

 安息八賢人の一員、ベルトラム・ライナスは大々的な動きを見せなかった。


 正確には『表立った行動を控えた』という意味で。


 安息領として動かなかったわけではない。ただ安息領であることを示す要素を最大限排除し、人員も最低限に抑えただけだ。


「場所を確認しろ」


「御意」


 平凡な服装に部下は二人だけ。会話も一聞しただけでは何の内容か分かりにくかった。騎士団が今のベルトラムたちを発見しても気にして注視することはないだろう。


 そうして街中を堂々と歩き回っていた彼らはやがてある路地に入っていった。ベルトラムの部下の一人が魔道具を取り出して設置すると光とともに空間が開き、どこかと繋がった。彼らはすぐにそこに足を踏み入れた。


 彼らが移動した場所はどこかの下水道だった。


 いや、下水道だった場所と呼ぶのが正しいだろう。水はすでに昔に干上がり、長い間管理すらされていないことが分かる。何よりあちこち壊れているのに修繕すらされていない。


 ふむ。


「オステノヴァ公爵閣下の予想は流石に見事だぞ」


 ――『冬天世界』侵食技〈冬天世界〉


 待機していたボクはすぐに魔力を展開した。


 廃棄された下水道全域に魔力が広がり、瞬く間に現実が覆い被さり景色が変わった。下水道の時空が歪み、雪原と雪山の大地の上に吹雪を降らす空が降臨した。


「これは!?」


 二人の部下が慌てる中、ベルトラムは眉をひそめたまま静かに視線を鋭くした。


 その視線の先にボクが立っていた。


「だがあの御方も誰が来るかまでは予測できなかったぞ。まさかボクもよりにもよって貴様とは思わなかったが、面白い偶然だな」


「……ジェリア・フュリアス・フィリスノヴァ。最初からここで待っていたのか」


「この状況でそんな当たり前のことをわざわざ聞かねば分からぬか?」


 眼鏡を外しながら前に出た。同時にベルトラムの後ろにいた部下たちも動いた。


「排除します」


「待て、爾らの実力では――」


 ベルトラムが彼らを制止しようとしたが――遅いぞ。とんでもなく。


 ――『冬天世界』専用技〈氷縛封印〉


 ボクが鼻で笑うのと同時に、奴の部下たちが凍りついた。


「なっ!?」


「心配するな。殺してはいないぞ。まぁ他の奴ならともかく、貴様なら言わずとも分かっただろうがな」


 奴の特性は『冬天』。本質的にはボクと同じだ。


 今のボクはすでに特性を世界権能へと進化させた状態だが、力の本質が変わるわけではない。それに世界権能だからといって無条件に優位に立てるなどという甘い考えはしない。


 ベルトラムは自身の特性を理解し扱う能力が非常に優れた者。テリアもそのことはよく知っていたが、あえてテリアに聞かずとも結構有名な男だ。安息八賢人の中では対外活動歴がそれなりにあり、騎士団との交戦記録もあるからな。


「期待しているぞ。世界権能に劣らぬ威力と多様性を誇る貴様の力活用能力にはな」


「真の世界権能を持つ者にそんなことを言われても嬉しくはない」


 ボクとベルトラムは同時に動いた。


 ――『冬天』専用技〈極北の神殿〉


 ――『冬天世界』専用技〈神獣召喚〉・『リベスティア・アインズバリー』


 ベルトラムが展開したのは『冬天』の力で周囲を支配する極寒の結界。すでに冬の世界である〈冬天世界〉の中では環境を変える意味はないが、ボクの魔力で支配される空間を自身の魔力で上塗りするのが目的だ。


 ボクは最初からボクの全力の象徴である〈冬天世界〉の神獣を召喚した。


 ――狂竜剣流『冬天世界』専用技〈氷竜昇天〉


 氷雪の斬撃の嵐が巨大な竜の形を作り出した。その嵐が神獣と融合し、攻防一体の巨大な氷の竜となった。


 ――ジェリア式狂竜剣流『冬天世界』専用技〈神竜の爪〉


 ――『冬天』専用技〈酷寒のファランクス〉


 神獣の力が込められた斬撃と無数の氷の槍の軍勢がぶつかり合った。ボクの斬撃が氷の槍の軍勢を瞬く間に砕いていったが、密度と物量があまりにも圧倒的な上に〈極北の神殿〉の力まで加わると、斬撃の力が急激に相殺されていった。


「さすがだな!」


 しかしその時すでにボクは突進していた。


 神獣の力が混じった竜の嵐を纏ったままの突進はそれ自体で恐ろしい攻撃だった。ベルトラムが再び形成した氷の槍の軍勢が竜の突進に巻き込まれて粉砕された。瞬く間に道が開けた。


 ――『冬天』専用技〈遥かなる天の手〉


 ――『冬天』専用技〈月の群れ〉


 巨大な氷雪の手がボクを制止しようとするように襲いかかってきた。同時に無数の氷の獣の軍勢が四方からボクを襲撃した。


 ボクはたった一度の斬撃でそのすべてを破壊した。


「探索戦が過ぎるぞ! 拙劣に振る舞うな、全力で来い!」


「そう思うのならすでに私の術中にはまっているのだ」


 ――白光技〈強奪の共振〉


 再び〈月の群れ〉が現れ、氷の獣たちが共鳴して巨大な魔力場を生み出した。内部にいる者の魔力を奪う魔力場だった。


 だがそれはボクが地面を一度踏みしめるだけで完全に砕け散った。のみならず〈極北の神殿〉まで半ば崩れ去った。


「世界権能の侵食技は絶対的な空間干渉の力。結界ならば多少は効果を発揮できるが、魔力場など通用せぬ」


「そのようだな」


 ベルトラムは別段意外でもないといった様子で淡々と言いながら魔力を噴き出した。


「そうだ、安息八賢人という奴がその程度は当然やってくれねばな。安息八賢人内でも格差が大きいというから、テシリタのような強者に比べれば失望させられるのではないかと心配していたぞ」


「あの方と比べるのは酷だな」


 そう言いながらもベルトラムは好戦的に笑った。ボクもそれに負けじと獰猛に笑った。


 極寒と極寒が互いに向かって牙を剥いた。

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