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強敵と結果

 もちろん私もひるむ気などさらさらない。


「それはこっちのセリフよ」


 周囲を確認し、自分の状態を点検する。それによって今何をどこまで使えるかを確認する。


 確信を得た後は戦略を立てて実行するだけ。


「安息八賢人を手放すわけがないでしょ」


 軽く言った直後。誰が先とも無く、私とサリオンは同時に互いに向かって突進した。


 ――トリア式極拳流奥義〈混魔進撃〉


 ――サリオン式極拳流奥義〈滅尽宣言〉


 固く握り締めた拳の中にあらゆる種類の魔力が渦巻いた。


 反対にサリオンが繰り出した拳に宿ったのは一つの純粋な魔力。絶対的な炎の化身として全てを蒸発消滅させる絶技だった。


 拳と拳が衝突し私の拳と魔力の表面が瞬時に焼け消えた。でも同時にサリオンの獄炎を様々な魔力が噛み千切った。


 生物を殺す毒。物質を壊す腐食。噛み付く牙と掻き切る爪、野性的な筋力と敵を止める麻痺毒。ありとあらゆる魔物の特徴が魔力として発現し、物質だけでなく魔力にさえ影響を及ぼした。それがサリオンの〈滅尽宣言〉を瞬時に削り取った。


 しかしサリオンの魔力量は膨大で、〈混魔進撃〉でも完全に相殺することは不可能だった。


「くっ……!」


 力比べで敗北した腕が高熱の獄炎に耐えきれず消滅した。


 しかしその時すでに私は反対側の手で二発目の〈混魔進撃〉をサリオンの脇腹に叩き込んでいた。ありとあらゆる魔物の力がサリオンの肉身を侵し噛み千切った。


「ぐむぅっ!」


 サリオンが声を上げながら魔力を集約した。脇腹に集まった『獄炎』の魔力が〈混魔進撃〉を振り払った。


 ――トリア式融合技〈異形の軍勢〉


 私の肉体、正確には〈炎風の魔人〉が吐き出す炎風が変形した。


 魔物の蛇、獅子、狼、鷲。ありとあらゆる動物が歪んで変形した姿が炎風から飛び出した。まるで炎風の中から魔物が姿を現したかのようだったけど、その実体は炎風そのものが魔物に変化したものだった。


 この炎風は私の『融合』で繋がれた私の肉身そのもの。だからこそ炎風を変形させて体の延長として使うことも可能なのだ。


 炎風から体の一部だけが生えた魔物の軍勢がサリオンに襲いかかった。


「ふぅぅっ!」


 魔物の軍勢は〈傀儡の渦〉の炎風を纏っている。だから生半可な魔力行使は通用しない。だからサリオンは強靭な肉体に魔力を凝縮した肉弾戦で魔物たちを砕いていった。


 その間に私は吹き飛ばされた腕を完全に復元し、手を広げて炎風を大きく展開した。炎風が無数の魔物の軍勢を吐き出した。


「いつまで小細工を弄る気じゃ!」


 サリオンが怒号を上げながら突進してきた。彼が吐き出す炎と強靭な肉体の突進だけでも魔物の軍勢が焼け裂かれていった。


 瞬時に近づいてきたサリオンが拳を突き出した。私は直線的な蹴りでそれに立ち向かった。


 蹴りと拳が触れ合う直前、私の足が歪んだ狼の頭に変化した。足の頭でサリオンの腕を噛んで軌道を逸らした。


 そして崩れた体勢の代わりに炎風をブースターにして、握り締めたまま魔力を集めていた拳を繰り出した。


 ――極拳流終結奥義〈根源の眼〉


 普段より時間をかけて魔力を集め凝縮した一撃がサリオンを狙った。


「ぬおっ!?」


 サリオンの反応は早かった。瞬時に大量の魔力を腕に集中し防御の姿勢を取ったのだ。


『獄炎』と『天風』の魔力が集中した拳がサリオンを押し返した。腕の骨に衝撃が走り、皮膚と筋肉が大きく焼けた。


 しかし両腕にそこそこのダメージが入っただけで、サリオンの防御を完全に突破することはできなかった。


 大半の魔力を集めて一撃を放ったせいで私の炎風が大きく減少した。極めて一時的な状況だったがサリオンはその隙を見逃さなかった。


「おらあっ!」


 サリオンは蹴りを繰り出した。


 その重々しい一撃を腕で受け止めることはできたけど、威力に負けて後ろに押し戻された。その直後サリオンは動けるようになった程度に再生された腕で正拳を放った。今までと違って炎を凝縮せずに渦巻くように纏った一撃だった。


 まだ規模が回復していない炎風はサリオンの炎に巻き込まれ制圧され、硬い拳が私の腹を強打した。


「がっ!?」


 血のように息を吐きながらも何とか腕と炎風を利用して反撃しようとした。


 しかしそれよりもサリオンの拳の方が早かった。


「楽しかったのぅ」


 ――サリオン式極拳流奥義〈滅尽宣言〉


 巨人の槌のような拳に殴られる衝撃を感じる間もなかった。


 圧倒的な『獄炎』の熱に瞬時に焼かれ、私の肉体は痕跡も残さずに消滅した。


「ふう。久しぶりの強敵じゃったのぅ」


 サリオンはそう言いながらも隙なく周囲を窺った。しばらくそうしていたけど、敵が再び現れる気配がないことを確認してようやく足を向けて去っていった。


 ……その姿を私は遠く離れた場所から魔力の透視を通して見守っていた。


「ふう。危なかったね」


 そう言いながら額の汗を拭う仕草をしたけど、それはあくまで雰囲気を出しただけ。汗など出ていない。もちろん体にも何の傷もない。


 代わりに足元には元々かなり大きかったはずの魔道具が壊れた残骸が転がっていた。


 ケイン第二王子殿下の『無限遍在』の魔力が込められた魔道具だ。ここに私の中に混入された魔物の因子の中、相手の姿と能力を模倣する魔物の能力を加えた。


 その結果私自身の力を完璧に使える分身を作ることができた。


 もちろん自我と力を実際に持っているわけではない。実は私の精神を一時的に移し替えて第二の肉体として操っているだけで、そうしている間だけ私の身体能力と魔力を完璧に操れるだけ。しかも魔力も本体の魔力をそのまま転送して使う。分身というよりは端末と呼ぶのが正しいかな。


 魔道具自体も作るのが非常に難しくて頻繁に使える手段ではないけれど、今回のように単独では勝利を請け負えない者を相手に本体の危険なしに戦うには打ってつけよ。


 もちろん可能なら勝つつもりだったけど、〈破陸天壊〉で大地を粉砕する瞬間分身を投げ出して逃げた。間違った判断ではなかったね。


 まぁいい。とりあえずお嬢様の所へ戻って報告しましょうか。

読んでくださってありがとうございます!

面白かった! とか、これからも楽しみ! とお考えでしたら!

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