表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

636/891

決着の後

「私はうまくいったと思うのだけどね。あまり表情がよくないようだ」


「……別によくないわけではありませんが」


 トリアはそう言いながらもため息をつくと、衛星都市の方へ視線を向けた。


 私もそれに倣って視線を移したが、特に感じるものはない。


 衛星都市の方は元々天気がよければここからも遠目に見える場所だが、今は戦いの余波で建物が全て崩れ実質的に都市が破壊されたせいでほとんど見えるものがなかった。魔力の流れも大きく感じられないところを見ると、テシリタが暴れ回っているわけでもないようだ。


 しかし安息領の連中があそこを離れていないということは魔力の気配でも感じ取れた。


「テリアお嬢様はこのような作戦で隠しルートのラスボスの可能性を防げるとおっしゃいましたが……結局防げない可能性が高いとお考えになりましたね」


「そうだったね。だから心配なのか?」


「心配……はい、心配に近いでしょう」


 トリアは視線を衛星都市の方向に固定したまま眉をひそめた。


 単に感情を表しているようにも見えるが、視線に力を込めているようにも見えた。


「お嬢様がおっしゃった重要ポイントだけでも非常に多く、それを全て解決するのはほぼ不可能です。しかしお嬢様がおっしゃったのは単にそういった問題ではないように感じました。地中に隠されたものを破壊して私たちが引き下がったのに、安息領は相変わらずあそこに留まっていますね」


「確かにそうだね。テシリタの巨大な魔力もまだ居座っているのが感じられる」


 ふむ。意味もなくただ時間を潰しているわけではないだろう。何か残っているものがあるのか?


「地中に隠されたものは確実に破壊したか?」


「はい。さらに下に何かあるとしても、そこまで到達しようとすればここからでも探知が可能でしょう。万が一のために地中に残しておいたものもありますし。それに……」


 トリアは何かを考えたように言葉を一瞬躊躇ったが、その時間は長くなかった。


「単に邪毒陣や魔道具を破壊するだけで終わる問題なら、お嬢様があれほど可能性を悲観的に見られることはなかったと思うのです」


「どうしてだ?」


「単に数と規模のせいで見通しが悪いだけで、無理をすれば解決できる方法がないわけではありません。それでも可能性がないとお考えになったということは、どうしても私たちが対応できない方法が相手側にあるのではないかと思うのです」


「……ふむ。聞いてみればそうだね」


 私も衛星都市を見つめる視線に思わず力が入った。


 しかしそういったものだとしたら、それが何なのかは考えてもわからないだろう。直接聞いても教えてくれそうにないし。


 問題は彼女がそのような判断をしたのなら、それを突き止めようとするのがいいのかどうかもわからないという点だ。もしかしたら私たちが知らないでいる方がいいという意味かもしれないから。


 どうにかやるべきことはやったのに、かえって頭が複雑になった気分だ。




 * * *




「申し訳ございませんテシリタ様。私どもが無能でそのような……」


「よい。貴様らが何の役にも立たぬことは初めからわかっておった。そもそも期待などしておらぬから仕事だけはきちんとやれ」


「はっ、はい!」


 慌てふためいて動く部下たちを見つめた後、オレは一度ため息をつき後ろへ下がった。部下たちの作業を後ろから見守れる位置へ。


「テシリタ様。大丈夫でございますか?」


「問題ない。想定していた結果だからな」


「そうおっしゃるわりには気分があまりよくないようですが」


 今回補佐役として付いてきた部下が生意気にもそんなことを言った。


 ……まぁ、気分がよくないのは確かだ。だが無能な部下に八つ当たりするほど腹が立っているわけでもなかったため、鼻で笑うだけで流した。


 奴らの無駄骨で本来地中にあったはずの邪毒陣が破壊されてしまった。それを守ることがオレの()()()()()()だったし、それを成し遂げられれば最上の結果だっただろう。


 しかし邪毒陣を守れないだろうということは他でもないバリジタ様の予測だった。


 しかもどうせそれはあの御方の意志をもう少し早く実現するための手段に過ぎない。根本的な目標はそれではないのだ。


「テシリタ様! 時空亀裂を見つけました!」


「聞いたな? 貴様の番だ。働け」


「かしこまりました」


 補佐を部下たちの方へ送り、引き続き見守るだけを繰り返す。


 時空亀裂――数年前アカデミーに邪毒獣を出現させるのにも使われたそれ。ここにも時空亀裂が残っている。


 時空亀裂を弱めて封印することは可能だが、完全に消し去ることは不可能だ。オステノヴァ公爵家の始祖武装『天上の鍵』で始祖オステノヴァの聖剣を降臨させることだけが現代に残された唯一の方法。


 しかしその方法を使えるのは今この世に二人しかいない。その二人が()()をカバーすることはできない。


 ……そう、全て。時空亀裂はここだけにあるわけではない。


 もちろん今更の事実ではない。時空亀裂自体は過去に数え切れないほど生まれ、ほとんどは封じられているだけだ。


 すでにバルメリア王国全域に存在する時空亀裂のうち、我々が活用できるものを選別して確実な〝仕掛け〟を設置すること。それが今オレを含む安息領の全員が持つ任務だ。


 それがどんな結果をもたらすかは分からない。だがすでに準備は整った。残るはあの御方の意志を実現することのみ。


 邪毒陣や魔道具を破壊されるのは構わない。時空亀裂さえ守り活用できれば。


 今日の成果も最初の成功に過ぎない。まだ目標を達成するには遠い――それは相手も分かっているだろう。


 少なくともテリアの奴は我々の本当の目的と意図を知っていると聞いた。ならば我々の動きに何か対応を取るだろうことを想定して行動しなければならないな。


 今度こそ貴様らの思い通りにはさせんぞ。

読んでくださってありがとうございます!

面白かった! とか、これからも楽しみ! とお考えでしたら!

一個だけでもいいから、☆とブックマークをくだされば嬉しいです! 力になります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ