ケインの前進
「悪いが」
魔力の力比べで苦しい状況だったが、私は笑った。テシリタに負けないほど傲慢で自信に満ちた笑みを浮かべて。
「足枷をつけて殺せるほど甘くはないんだよ、この私はね」
――『無限遍在』専用奥義〈孤独な軍団〉
広大な魔力場を展開した。その中で〈遍在分身〉が無数に現れた。
魔力場が維持される限り分身を無限に生み出す奥義。一度に扱える分身の数には当然制限があるが、分身が破壊されてもすぐに頭数を埋める分身が新たに作られる。
魔力場自体を破壊しない限り、あるいは私の魔力が枯渇しない限り決して敗北しない軍団を前にしても、テシリタは相変わらず自信たっぷりに笑っていた。
「たかが数で押し切るのが全てか? 自信満々に出てきたわりには薄っぺらな手だぞ」
――神法〈魔法創造〉・〈滅尽の藍陽〉
テシリタは群青の太陽を乱れ撃ちした。四方から襲いかかっていた分身たちが炎に呑まれた。のみならず〈孤独な軍団〉の魔力場と〈ラルカンの海〉の結界まで揺さぶられた。
しかし一撃で全てを消滅させない限り、〈ラルカンの海〉の中で私の術式は不滅だ。
「全騎士団、範囲外へ退避せよ!」
――バルメリア式結界術〈自壊領域〉
結界の一部を内部の存在ごと崩壊させ全てを破壊する技を繰り出した。
範囲は私とテシリタを含めたこの周辺。〈ラルカンの海〉の範囲は都市全域だが、あえてその全てをターゲットにする必要はないという直感があった。
その瞬間テシリタは舌打ちをすると足を上げた。
五歩目。
また大地に消えない傷跡が刻まれた。
今回は足跡の形ではなかった。都市よりも更に広い面積に刻まれたそれを、上空を俯瞰する探知で確認した結果は長方形だった。
それ自体が何かを意味するようでもあり、あるいは……何かの土台のようでもあった。
しかし形態的に意味が分からないのとは別に、確実に分かる部分があった。
「うぐっ……!」
テシリタの魔力と威圧がさらに強くなった。〈ラルカンの海〉すら上回る範囲の支配が結界ごと空間を押し潰した。
しかし感じられる魔力や存在感に比べれば、結界を壊そうとする力は相対的に弱かった。
「歩みを重ねるごとにより強い魔力で一帯を支配する力、か。でも細かな調整は利かないようだね」
「貴様を圧殺するにはすでに過分な力だぞ」
「力が溢れていても使えなければ意味がないんだよ」
言いながら結界魔獣を〈ラルカンの海〉と同化させた。結界が赤く染まり、テシリタに抵抗する力が強くなった。
そうしたところで動くのが少し楽になった程度だったが、その程度で十分だ。
――バルメリア制式術式〈軍勢優位陣〉
一度退いた騎士たちが再び前線に合流した。同時にテシリタの圧迫が減ったのを感じた。数を基準に力の優劣を再定義する〈軍勢優位陣〉の力だった。
テシリタがいくら強くともあくまで一人。安息領の兵力は遠く後退している。私と騎士団が数的には絶対的な優位だ。
もちろんこの程度の力の格差なら、せいぜい不利を少し緩和する程度に過ぎない。
「行くぞ!」
〈孤独な軍団〉の力で、今度は数より質に集中した分身を数体作った。そして『バルメリア覇軍旗槍』を握った『私』が後ろに残る中、残り全てが騎士たちと共にテシリタに襲いかかった。
「分身の突撃など何度挑んでも通用せぬぞ」
――神法〈魔法創造〉・〈滅尽の藍陽〉
テシリタは今回も群青の太陽を乱れ撃ちした。先ほどと同じ手段だったが、それでも通用すると自信を持てるほどの力の差があったからだ。
間違った判断ではなかった。私の突発行動を除いて見れば。
――『大地の盾』権能発現〈ソラオオイ〉
突進の先頭、結界兵器のバトルアックスを握った私の『大地の盾』が輝いた。〈ラルカンの海〉の力が盾という一点に集約され、強力な不沈の盾を展開した。
その盾がテシリタの太陽を払いのけ彼女に肉薄した。
「ほう?」
テシリタは眉をひそめながらも素早く〈壁崩しの魔槍〉を八つ具現化した。
しかしそれすらも〈ソラオオイ〉の絶対的な盾を少し削り取るに過ぎなかった。
周囲の地面ごと前を薙ぎ払う巨大な突撃を前に、テシリタは魔力の盾を展開しながら後ろに大きく下がった。
「なるほど。旗槍を分身に任せておいて本体が直接突撃したというわけか」
テシリタは騙しを全て見破ったかのように笑みを浮かべ魔法陣を展開した。魔力の鎖が溢れ出し私と騎士たちに一斉に襲いかかった。
しかし『大地の盾』の〈ソラオオイ〉が集束したのは並の結界ではない。
バルメリア式結界術至高の奥義である〈ラルカンの海〉に私の結界魔獣の力まで加えたこれは私の最強の防御にして攻撃。歩みの魔法で増幅されたテシリタの鎖すら赤い結界の盾に触れた瞬間破壊された。
――ケイン式結界術奥義〈神の薪割り〉
〈ラルカンの海〉の力が前方の空間を操作した。長く巨大なトンネルのような空間が形成され、結界の空間と共鳴する結界兵器のバトルアックスを振り下ろすと薪が割れるように空間が裂けた。
至高の空間能力者であるラスグランデとの再戦を想定して開発した奥義。空間能力のない者たちにはなおさら脅威的な奥義だと自負するが……これすらテシリタに真に通用するとは期待していなかった。
予想通りテシリタの表情に動揺はなかった。若干の苛立ちがあっただけだ。
「面倒だな」
――神法〈魔法創造〉・〈暴君の資格〉
テシリタの魔法が展開され、〈神の薪割り〉を無に帰した。
空間を己の意のままに支配する術法のようだったが、相反する力がぶつかった余波で〈ラルカンの海〉に衝撃が走った。
その向こうで――私は確かに見た。
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