劣勢と看破
もちろん考えながらも戦いを続けることは忘れなかった。私もテシリタも。
――ケイン式結界術〈血壁の刑場〉
――神法〈魔法創造〉・〈壁壊しの魔槍〉
結界魔獣の力が宿った攻性結界を重ねた。同時にテシリタはまた結界を破壊する魔槍を発動した。
しかし槍の威力が格段に増大していた。先ほどの威力であれば〈血壁の刑場〉で圧倒できたはずなのに、今回は〈血壁の刑場〉と他の結界の重ねまで全て一撃で突破された。
魔槍が目の前まで迫る瞬間、私は魔力で騎士たちに命令を下した。
――バルメリア制式術式〈復讐の剣陣〉
迎撃に特化した魔剣の群れがテシリタの魔槍を払いのけた。魔力が激しく爆発し魔剣の群れがほとんど砕け散ったが、結界を突破したのに比べれば比較的容易に魔槍が撃退された。
やはり結界破壊に特化した魔槍か。結界以外のものまで強力な力を発揮するわけではない。それでも〈復讐の剣陣〉を相殺したのは純粋に魔力が強すぎるからだ。
テシリタは「ふむ」と一瞬何か考えるような様子を見せたかと思うと、再び手を振るって魔法陣を展開した。
――神法〈魔法創造〉・〈滅尽の藍陽〉
テシリタの魔法陣から濃い青色の巨大な炎弾が発射された。太陽のようなそれが光の尾を引きながら襲来した。
突破されて穴の開いた結界を始祖武装の力で急速に修復しその一撃を受け止めた。
「むぐぅっ……!」
このまま放っておけば都市をいくつも一瞬で滅ぼすほどの威力が結界を押し潰した。衝突の余波で魔力と炎が嵐のように吹き荒れた。私には結界のおかげで届かなかったが、周囲で戦っていた騎士たちが慌てて結界の盾の後ろへ退かねばならなかった。
一方テシリタは安息領の部下たちが炎に巻き込まれるのも気にせず……うむ?
衝突を見守っていたテシリタが眉をわずかに顰めると後ろに手を振った。すると余波を避けて逃げていた安息領の動きが変わった。まるで内側にいた者たちがより後ろへ逃げ、残りが彼らを守るような形だった。
――ケイン式結界術〈血鳥の格子〉
その間に私は別の結界を構成した。
結界魔獣の力を持つ赤い魔力の柱が無数の格子を成し広大な空間を包んだ。テシリタの太陽と防御壁の衝突地点はもちろん、戦場のほとんどを包む範囲だった。
しかし結界が本格的な力を発揮しようとした瞬間、テシリタの四歩目が大地を踏みしめた。
ドンと、腹の底まで深く響く振動とともに大地が揺れた。
大地を通じて広がった魔力が全てを破壊した。都市全体を覆うほどの巨大な足跡が刻まれ、道路と建物が無残に砕け散り破片が舞い上がった。
全ての結界が破壊され、騎士団と安息領の兵士たちが皆巨大な槌で殴られたかのように吹き飛ばされた。私も二つの始祖武装と『バルメリア覇軍旗槍』の力で何とか衝撃を受け流しただけで、全ての分身が破壊された。結界が消えたのだから結界魔獣も消えるしかなかった。
せめてもの幸いは、あまりにも強い衝撃がテシリタの太陽までも吹き飛ばしてしまったことだろうか。
だが最大の問題は、そのような広範囲の破壊に気を使う余裕すらないほど吹き荒れる魔力の嵐だった。
都市の範囲全体をテシリタの魔力が押し潰していた。その魔力が空間を支配しテシリタの力をさらに増幅し、他者の力を力で抑え込んでいるのだろう。急いで結界を引き巡らしたが、ただ存在しているだけでもきしんでいた。
テシリタは指を私の方に伸ばし、小さな唇で嘲笑を浮かべた。
「昔のあの王子は四歩までは耐えた。貴様はそいつにも及ばぬぞ」
「……さぁね。少なくともあの方より一つ優れた点がある」
言いながら『覇王の鎧』と『大地の盾』の力を全力で展開し、騎士たちにも指示を出した。
テシリタの指が魔法陣を描き出したが――私の方が少し早かった。
――バルメリア式結界術終結奥義〈ラルカンの海〉
テシリタの領域全体をさらに巨大な結界が包んだ。
内部の全ての力を奪い支配する力の領域。テシリタほどの強者の全てを奪うには私の力が足りなかったが、強力な力で拮抗しテシリタの支配を乱すことはできた。
支配と支配の力比べが空間さえきしませる中、テシリタは面白そうに笑った。
「始祖王の絶対結界か。若造にしては中々だぞ。だがこれもまた既に知っている術法だ。いや、むしろオレの記憶しているものよりも弱いぞ」
「構わない。役割さえ果たせればな」
我らが始祖――始祖王ラルカン・ダイナスト・バルメリアの秘奥。邪毒竜との決戦で邪毒竜の力を抑圧し逆利用したという伝説の奥義を習得するのは骨が折れた。
この瞬間のためではなかったが、今最も確実な力を発揮できる結界は他にないだろう。
「この程度は次の一歩で砂糖細工のように砕ける粗悪品にすぎぬ。時間稼ぎにすらならぬぞ」
「やってみろ。できるものならね」
力比べを維持するだけでも辛くて汗を流していた私だったが、挑発する笑みを浮かべれば今度はテシリタが黙った。
単純な対決なら勝算を占うのは難しかっただろう。だが今だけは違う。
テシリタには足枷があるのだから。
「この地の下。貴様が壊してはいけない重要な何かがあるようね。そしてそれを利用するために部下が必要だそうだ」
三歩目を踏み出す瞬間にちらりと見せた躊躇と魔力調整。部下の安全など気にも留めなかった残虐な奴が一部の人員を守るよう指示したこと。それを見れば答えは一目瞭然だった。
全力で私たちを排除することだけが目的なら、そんな演技をする必要はない。圧倒的な力で薙ぎ払えばそれだけのことだから。そうしなかったのは、そうできない理由があるということだ。
テシリタの笑みが変わった。
「正解だ、エリートの小僧。だが半分は間違っているぞ」
テシリタの両手が無数の魔法陣を生み出した。
その全てが私を狙う中、テシリタは獣のように歯を剥き出しにして笑った。
「その程度の制約如きでオレが貴様らを殺せぬと思ったか?」
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