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ケインVSテシリタ

 ――神法〈魔法創造〉・〈壁崩しの魔槍〉


 テシリタは先ほどと同じ魔槍を放った。


 だが先ほどよりもはるかに強力な出力を数十発乱射する形だった。分身たちの『大地の盾』を中心に展開された結界が砕け、分身数体が魔槍に貫かれ消滅した。


 しかし残った分身の数がはるかに多く、消滅した分身もすぐに補充された。


「ふむ」


 想定していたよりも成果が少ないからだろう。テシリタの表情が少し真剣になった。


 もちろんテシリタが本気を出すのをのんびり見物するつもりはない。


 ――バルメリア式結界術〈王国の進軍〉


 味方を強化する結界を今の結界に重ね着せる。


『バルメリア覇軍旗槍』が結界の力をさらに増幅する。それに加えて『大地の盾』の力で他の結界を重ね、さらに巨大化した。テシリタまで含む範囲で。


「敵を攻撃し制圧する攻性結界か。出力が相当だな」


 ――神法〈魔法創造〉・〈傲慢の王座〉


 今度はテシリタが結界を展開した。私の結界を中和するものだった。直接的な攻撃まで防ぐ種類ではなかったが、圧迫する力を無効化するためだろう。


 さすがに安息八賢人ならばその程度は涼しい顔でやってのけるだろう。


 推測する私にテシリタが緑色の炎の魔法を放った瞬間、私の前に赤い光が現れた。一つの光点だったそれが瞬時に膨れ上がり、巨大な鳥の形状となった。私の結界魔獣だ。


 テシリタの緑色の炎と結界魔獣が衝突し、激しく魔力を発散した。それだけでも近くにいた安息領と騎士たちが吹き飛ばされ、私の分身体も三割が粉々に引き裂かれた。


 結界魔獣が緑色の炎を突破して突進すると、テシリタは好戦的な笑みを浮かべた。


「なかなか美味そうな獲物ではないか!」


 テシリタが巨大な魔法陣を展開した。その魔法陣から炎が溢れ出し、空間そのものが燃え上がり灰が舞った。


 渦巻く炎と灰が壁となって結界魔獣を受け止めた。先ほどよりもさらに大きな魔力が噴き出し、嵐を巻き起こした末に、今度は結界魔獣の方が弾き飛ばされた。


 やはり結界魔獣をそのまま突撃させるのでは力不足か。


 ――ケイン式結界術〈血光軍勢〉


 結界魔獣が咆哮し、全ての分身の結界兵器の中で赤い光が灯った。


 結界魔獣の共鳴能力を応用し、全ての結界兵器に魔獣の力を宿らせる秘技。結界兵器が魔獣の力を発現する媒体となり、全ての兵器に魔獣が憑依したのと同じ威力を発揮する。


 駆け寄った分身たちがテシリタの炎と灰の壁を引き裂いた。


 ――神法〈道具創造〉・『歪みの楔』


 テシリタの周囲に長大な楔が複数出現した。


 地面に打ち込まれた楔を中心に空間を歪める力が広がった。それが結界の力を乱し、分身たちが振るった結界兵器の力場が急激に歪んでテシリタから外れた。


 テシリタはまるでオーケストラを指揮するように手を動かした。その指揮に従うように結界の力があちこちに動き、互いにぶつかって相殺されたり分身同士で攻撃し合うよう誘導したりした。


 私が新たな分身を私の前に作り出すのと同時に、テシリタの手から流れ出た魔力がまた別の魔法陣を描き出した。


 ――神法〈魔法創造〉・〈七歩獄門蹂躙〉


 テシリタの魔法陣が光り、彼女の足が大地に一歩を刻んだ。


 その瞬間――まるで見えない巨人の足が大地を踏みつけたかのように、大地に巨大な足跡が刻まれた。そしてテシリタの周囲にあった全てのものが大地に押しつぶされた。


 結界が今にも壊れそうに危うく揺らいだ。私は慌てて結界の糸を補強したが、足跡の近くは強大な魔力に支配されており結界の力が侵入できなかった。


 テシリタは成果を確認するように周囲に視線を向けながら、余裕を持って口を開いた。


「オレがこれを使って七歩を全て踏んだことはまだありはせぬ。果たして貴様の結界が耐えられるか興味深いぞ」


「では今日が人生初の経験になるんだ」


 結界魔獣の翼から赤い結界の糸が伸びていった。足跡の領域を支配する力が結界の糸を押しつぶしたが、今度はゆっくりではあるが着実に侵入していった。


 あの魔法の具体的な力はわからないが、領域を支配する権能で結界に対抗できるのは確かだな。


 テシリタが言った七歩が同等のレベルの一撃を七回放てるということなのか、それとも歩を重ねるほどさらに強くなるのかはわからない。しかしどちらにせよ、歩みを阻止しなければならないことだけは明らかだ。


 ――ケイン式結界術〈血光の覇気〉


 私の前に作っておいた分身のバトルアックスに結界魔獣の光が宿った。他の分身たちの結界兵器とは格が違う力が空間を震わせた。


 結界魔獣を直接憑依させたのと変わらない力を集中し、それを結界の力でさらに増幅した逸品。代わりに他の分身の結界兵器から結界魔獣の力を発散できないが、あれほどの強大な力ならばどうせ一点突破でなければ意味がない。


 分身が突進してバトルアックスを振り上げるのと同時に、テシリタが次の一歩のために足を上げた。


 一撃。


 テシリタの二歩目が大地に再び足跡を刻み、巨大な衝撃が大地と空間を揺るがした。


 分身の一撃が衝撃波を斬り裂き、足跡の魔力が支配する領域に傷をつけた。しかしそこまでが限界だった。力尽きた結界兵器と分身はそれ以上の威力に耐えきれず消滅した。


 でも分身の一撃が作り出した隙間を通って、赤い結界の糸がさらに内側へと侵入した。


「なかなか相手にする価値があるぞ」


 テシリタは傲慢に言いながら足を上げた。


 しかしその足で大地を踏みつける直前、彼女は地面を見つめてわずかに眉をひそめた。


「……ふむ」


 テシリタの足に集中した魔力の流れがわずかに変化し、一拍遅れてその足が大地を踏みつけた。


 そのとき私は他の分身と結界を準備しており、時間を稼ぐために結界魔獣を直接突撃させた。魔獣は粉々に引き裂かれたが、強力な結界魔獣を相手にはやはりテシリタの歩みも相殺せざるを得なかった。


 どうせ結界魔獣は私の力で維持される結界生命体だ。引き裂かれた体はすぐに再生された。


 それよりも先ほどのテシリタの反応が気になるが……ふむ。

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