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想定と実際

 ふむ。なぜ直接来たのか、か。


 まぁ気になるのも無理はないな。ここでなくとも騎士団が派遣される場所は多く、これまで私は直接騎士団と共に出陣するよりは中央で報告を受けながら全体的な状況を監督する方だったから。


 もちろん私がこうして直接乗り出したことには理由がある。


「例の襲撃事件について調査した際、不審な点を発見したんだ」


「不審な点ですか? どのようなものがありましたか?」


 トリアは首を傾げた。


 当時直接参戦した当事者とはいえ、トリアはあくまで防衛軍に雇われた傭兵。当時の戦闘記録を見れば最前線で戦ったとなっていたが、安息領についてよく知らなかった頃なら直接戦っても分からなかっただろう。


「当時奴らが異常な能力を使わなかったか?」


「異常な能力ですか? ……ふむ。何か特異な道具を使っているような感じはありました」


「その道具が問題だ。捕虜の装備を調査して分かったのだが、それは安息八賢人のテシリタが作ったものだったそうだ」


 私の答えを聞いたトリアは相変わらず理解できないといった様子で眉をわずかに寄せた。


 これから話す部分は騎士団でも少数しか知らない事実。安息領について深く調査していなければ部外者はよく知らないだろう。だから今トリアが感じを掴めないのも無理はあるまい。


「テシリタが直接作った道具を部下に支給する場合は稀だ。重要な拠点を守るか、あるいは重要な任務を遂行する時に限定的に自身の道具を分配するだけだ。任務が終われば隙間なく回収していく」


「つまりあの時の襲撃はテシリタが関与した重要な作戦だということですか?」


「そう。その作戦に関連する何らかの行為を安息領が再び起こすためにここに来るのであれば、今回も重要な手がかりを落とすかもしれない。ひょっとすると重要な戦力を同行させるかもしれないし」


 様々な意味で見逃せない重要な戦いになるだろう。だから私が直接騎士団を率いてきたのだ。


 今回同行した部隊は千人隊が二つ。騎士団でも万夫長に次ぐエリートである千夫長二人に配下の千人隊まで揃えられれば、よほどの作戦でなければ過剰戦力だ。


 しかし万が一今回もテシリタが作戦に関与するのであれば、ひょっとするとそれすら戦力不足かもしれない。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 トリアは真剣な表情で頷いた。


「なるほど。過去にテシリタが関与していたのなら、今回も何かが起こる可能性を念頭に置かねば……」


 トリアも私の目的を理解してくれたようだが、言葉を終えることはできなかった。


 私の懐から通信用の魔道具が鳴ったのだ。


[第二王子殿下! 報告いたします! 安息領が現れました!]


 私が応答するのも待たずに、魔道具から騎士の声が流れ出た。急な事態が発生したら格式など気にせずまず素早く報告するよう前もって言い含めておいたのだ。


 しかし声が尋常ではないな。安息領が現れた程度で動揺したり慌てたりするはずのない精鋭たちなのに。


「どうした? 安息領の規模が予想以上なのか?」


[映像を転送いたします!]


 騎士が現場の映像を転送してきた。


 それを見た瞬間、私はすべてを理解した。作戦本部とした部屋にいる全ての騎士たちも、そしてトリアも瞬時に表情を深刻にさせた。


 画面越しに安息領の先頭でゆったりと歩いてきた者が私たちを見た。どこから撮影しているのか知るはずもないのに、映像を超えて正確に私と視線を合わせながら。


[よう。エリート王子が直接行幸されるとはな。このオレが来るとあらかじめ察していたのか?]


「……考えはしたけど、正直確率は低いと見ていたがね」


 どうせ聞いているだろうと思ってそうつぶやいたら、画面越しの相手は鼻で笑った。


 幼い少女にしか見えない外見と体躯。大げさな魔女の服と尖った帽子。そんな外見に似合わない口調と傲慢さ。


 安息八賢人の筆頭の追従者、安息領の実質的なトップ――さっきまで私とトリアの会話の主題だったテシリタ・アルバライン、まさにそいつだった。


 騎士たちが遠くから砲撃と射撃を浴びせかけていたが、テシリタは一瞥もせずに魔法陣を展開して防御してみせた。


[エリート王子。貴様はバルメリア王家でも類を見ない天才だと聞いたぞ。どうだ? 貴様の才能というものをこのオレに見せてみろ]


「お聞きにならないでください、殿下。殿下を誘い出そうとしているのです」


 私の隣の騎士がそう言った。するとテシリタはまたも鼻で笑った。


[愚かだな。たかがこれしきの戦力でオレを止められると思ったか? 貴様らを今すぐこの都市ごと吹き飛ばしてもオレは構わんぞ?]


[侮るな!]


 現場にいた二名の千夫長がテシリタに飛びかかった。


 しかしテシリタはただ一度指をパッチンと弾いた。その単純な動作だけで千夫長二名は何かに殴られたかのように吹き飛ばされてしまった。


[前言撤回だ。オレが直接来る可能性を真剣に考えていなかったようだな。予想していたなら、たかがこれしきの戦力しか用意せぬはずがないぞ]


「さて。それはどうかな?」


 私は自然に答えながら懐の魔道具を取り出した。


 オステノヴァ公爵から提供された『転移』の魔道具。それを起動させた。参謀役を務めるべき騎士たちを除いて、本部にいた全員を戦場へ移動させた。


 私とトリアを含めて。


「ほう」


 テシリタは私を見てから面白そうに目を細めた。


 その笑みに滲み出たのは好戦性と好奇心、そしてほんの僅かな警戒心。


 テシリタは自惚れで物事を台無しにする馬鹿ではない。私が現場に現れたということは、それだけの切り札があるのだと察したのだろう。


 まさにその察しの通りだ。


「確率は低いと思ったが、直接来る場合まで想定はしていたんだ。今日の戦力はその可能性まで考慮した配置だ」


「面白いことを言うな」


 テシリタは片手を上げた。


 安息領の兵力が騎士団に向けて武器を構える中、テシリタだけが楽しげにゆったりと言った。


「さぁ見せてみるがいい。貴様らがこのオレを相手にするために何を用意したのかをな」

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