ケインの準備
「第二王子殿下。ご指示通り配置を完了いたしました」
「ご苦労だった。例の点検を進める間、周囲警戒を徹底するように」
「御意」
王都タラス・メリアの衛星都市の一つ。配下の騎士団部隊を都市全体に展開したまま、私は都市の中心部で結界を準備していた。
すでに都市の住民はすべて避難させた。避難所以外に民間人は皆無。市街戦が繰り広げられても人命被害がないよう準備しておいた。
もちろん市街戦など起こらないのが一番だが、それは私の望み通りにはならないだろう。
「相当な兵力を動員されましたね。さすがに第二王子殿下のご命令と権限には十分な力があるようです」
隣で皮肉なのか本心なのか分からない評価を下すのは、今回の作戦の外部協力者。テリア嬢が派遣してくれたトリア・ルベンティスだった。
制服と武具を整然と備えた騎士たちの間に、普段のメイド服を着たまま平然と混じっている姿は少しシュールだったが、初めて見るわけでもないので放っておいた。
どうせそんな些細なことを気にする時ではないし。
「ところでここに本当に最後のラスボスの手がかりがあるのか?」
「テリアお嬢様がそう断言されました」
トリアは自分はあくまで伝言を伝える役割だというように切り返した。テリア嬢への信頼を明々白々に示しながら。
まぁ、テリア嬢の知識と判断については私も疑っていない。彼女の能力も献身もすでに十分に検証されているからな。
「ここでの出来事と関係があると言っていたか? あの時はどうだった?」
「……けっこう昔の話なので記憶が曖昧な部分もありますが」
そう言いながらもトリアは真剣に考え始めた。
今回ここに騎士団を展開したのは安息領を摘発するため……ではない。
そもそもここはタラス・メリアの衛星都市であり、安息領が足場を築く余地などない。油断した隙さえ突けないほど徹底した監視と摘発を常にしているからだ。
まぁ、衛星都市どころかタラス・メリア自体でも安息領のテロが発生する以上、ここが安全だと断言はできない。しかしそれはあくまで急進的に外部から接近してきたテロに過ぎない。都市内に潜伏するのは不可能だ。
でもそれは現在の話。過去に残された爪痕まで完璧にカバーしたわけではない。
特にこの都市はそう遠くない過去に安息領の襲撃を受けたことがあった。
「あの時の安息領の規模は大変でしたが、目的は曖昧でした。単純な破壊が目的のように見えもしましたね。建物を破壊し、地面を掘り返し……物質的な被害が甚大だったと聞いています」
「直接見て奴らが何を求めているように思えた?」
答えを期待しながら質問を投げかけた。
テリア嬢が今回の件にトリアを派遣した理由は簡単だ。トリアは当時の襲撃事件を直接経験した当事者だったからだ。
オステノヴァ家の使用人になる前は傭兵だったという彼女は、安息領との交戦経験もかなりあった。その中でこの都市の防衛軍に雇われて安息領を相手に戦ったことがあったという。
今回テリア嬢が提供した情報は、まさにその事件当時の安息領がこの都市の地に残したものに関係がある。
トリアは少し悩んでから再び私と視線を合わせた。
「当時は安息領についてよく分かっていませんでしたので、ただ敵を撃退することしか気にしていませんでした。ですが今になって考えてみれば、何かをする余裕は十分にあったでしょうね」
「具体的に何をしたかまでは分からないということか?」
トリアは頷いた。しかし真剣に私の目を見つめる表情は、まったく見当がつかないというわけでもなさそうだった。
「当時、奴らはかなり広い区域を占拠しました。そして自分たちが占拠した区域内でも破壊と爆破を繰り返しました。奴らを追い払った後に行われた調査で明らかになったものがなかったため、当時はただの示威的な破壊活動だったという結論が下されましたが……」
「その時実は何かを残したかもしれないということか?」
「当時、奴らが該当区画を占拠した後、撃退作戦が始まるまで六時間かかりました。その後に繰り広げられた戦闘時間は除外しても、作戦が開始されるまでの六時間なら十分に何かをする時間はあります」
頷いて肯定を示し、テリア嬢の資料を再び見た。
内容は簡単だった。過去のあの事件の時、安息領はこの都市の地中深くに邪毒陣を残した。起動させなければ何の魔力も邪毒も発散しないため、物理的に地面を掘って直接目で見ない限り感知されない邪毒陣を。
『バルセイ』の最後のラスボス――最凶最悪だったという隠しルートのボスの出現がその邪毒陣と関係があるので、邪毒陣を撤去するか、あるいはそれを利用しようとする安息領を撃退してほしい。それがテリア嬢の要請だった。
そのような邪毒陣はバルメリア王国全域に広がっており、たとえ邪毒陣を数個撤去しても他の手段がある。だから隠しルートのラスボスを防げると断言はできない。そのためラスボスの出現を阻止できない確率が高いというのがテリア嬢の言葉だった。
しかし全く対策しないよりは少しでもより良い可能性のために奮闘したいというのが彼女の意見であり、私も同意したので今こうして騎士団を率いて作戦を遂行しているのだ。
それはトリアも知っているはずだが、彼女が私を見つめる眼差しが少し妙だった。何というか、意外なものを見て少し驚いたような感じというか。
「ケイン第二王子殿下。一つお尋ねしてもよろしいでしょうか?」
「好きなように」
「なぜ殿下が直接いらしたのですか? ここが他の場所より特別な場所というわけではないように思えますが」
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