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忠告と意志

【あんたは今の状態に満足している?】


「集中しろって言っておきながら話しかけてくるんですか?」


【たかがこの程度のおしゃべりに気を取られるようじゃ、どうせ何をしても先が知れているものよ】


『隠された島の主人』はそう言うと腕を組んで口を閉ざした。私の答えを待っているのかな。


 質問の意味が何なのかは……おおよそ見当がついた。似たような話は何度も聞いたのだから。


『隠された島の主人』がどうしてお姉様を助けようとするのか、最終的に何を望んでいるのかは分からない。でも私に干渉しながら何を求めているのかは今までも何度も言っていた。


「逆に私が聞きたいんです。なんでそこまで私の役割を強調しようとするんですか?」


【あんたは自分が何の役割も果たせず、ただテリアの意図通りに流されていくだけでいい?】


「それは当然ダメます。私も自分の力で、自分の望む方法でお姉様を助けたいです。私が聞きたいのは邪毒神の貴方がなぜそんなことを気にするのかということです」


 お姉様を助ける存在だとしても、この邪毒神が善良な存在であるはずがない。目的のためなら犠牲も厭わないタイプなのだから。


 実際にジェリアお姉さんのラスボス化を故意に放置してた。ややもすればジェリアお姉さんが死んでいたかもしれないのに。しかも『隠された島の主人』はそれを知りながら気にしないって、お姉様に堂々と言っていた。


 だから私に対しても、私がどうなろうと関係なく容赦なく利用して捨てるほうが似合うはずなのに。


 私が自ら動くことがそのような未来につながる可能性もあるだろうけど……なぜかそんな感じではなかった。


【何か勘違いしているようね】


 言葉で表現しなかった疑問まですべて察したかのように、『隠された島の主人』がそう切り出した。


【別に私があんたたちを故意に害する理由はないよ。そちらのほうが効率的なら躊躇しないつもりだけれど、あえて必要もないのに犠牲を強いる悪趣味ではない】


「じゃあ今回は私にもっと効率的な動きを望んでいるということですか?」


【分かりやすく言えばそうね】


「それは……お姉様が言っていた私の特殊性のせいですか?」


 この世界の〝主人公〟と〝聖女〟について。お姉様が話してくれたことだけれど、まだ自分がそんなすごい存在だって実感が湧かなかった。


 お姉様が〝聖女〟だってことは納得できた。お姉様はそれほどすごい人だし、特性の『浄潔世界』も聖女というタイトルに相応しいのだから。


 でも私が〝主人公〟だってことには首を傾げるしかなかった。だって私はお姉様より優れている点がないんだ。才能も能力も意志も、すべてにおいて。


 私が憂鬱な表情で俯くと、『隠された島の主人』がイライラしたように舌打ちした。


【何を考えているのか丸見えよ。あんたの問題は偉大な才能を持ちながら、それを正しく使いこなせないということよ】


「偉大な才能? どういう意味ですか?」


【あんたこそ答えてみなさい。今回テリアがあんたに任せたのは何? 貴方に何を求めていると思う?】


 私は口を閉ざした。


 その質問の答えを考えるためではなかった。答え自体はすでに知っていたのだから。百パーセントの確信ではなかったけれど、確率で言えばかなり高いだろうと思った。


 でもその対象が私だって考えれば現実味が急激に薄れた。正直言って信じられないという感想しかなかった。


 でも今は答えるべき時だろう。


「『万魔掌握』はこの世のすべての特性を習得できる。……そうです、すべての特性――つまり世界権能さえも含めて」


 他人の〝世界〟さえも背負うことができる権能。それが『万魔掌握』が〝主人公〟の能力である理由であり、『万魔掌握』が世界権能である真の理由。……じゃないかな、って思った。お姉様が渡してくれた資料を見たとき。


『隠された島の主人』が【ふっ】と笑った。嘲笑の色が濃厚だったけれど、その裏側で明らかな満足感も一緒に感じられた。


【最低限の手がかりは自分で気づいたようで何よりね。でもまだまだよ。『万魔掌握』は世界権能さえも習得できる規格外の能力だけど、世の中のことってそんなに簡単じゃないでしょ?】


「私も分かっています。世界権能を習得できるということはあくまで『一応可能ではある』程度の感じでしょう。実戦の難易度は途方もないでしょうし、必要な時が来るまでに一つでもちゃんと習得できるかどうか分かりません」


 私が『万魔掌握』の極意を悟ったとしても、それが具体的にいつ必要になるかは分からない。むしろお姉様が望む瞬間が来たときに私が準備できていない確率のほうが高いだろう。


『隠された島の主人』は本心が窺えない笑い声を上げると椅子から立ち上がった。


【テリアがあんたに求めているものが何なのか、あんたにできることが何なのか。よく考えてみなさい。答えは自然と見えてくるはずよ。でも肝に銘じておいたほうがいい】


『隠された島の主人』の顔は見えなかった。


 それにもかかわらず、あまりにも冷たく鋭い視線が私を貫いたような感覚があった。


【それに気づいて実行したとしても、あんたはあくまでテリアの意図通りに引きずられるだけ。そうでは結局悲劇を防げないでしょう。その時になって自分自身を呪うザマになりたくなければ、自ら正しい道を見つけて進まなければならないものよ】


「そうかもしれません。でも終わりの見えない迷路に飛び込むことだけが解答ではありません。お姉様が私に何を望もうと、それ以上を成し遂げることも一つの道でしょう」


 もちろんお姉様の意のままに動く人形になるつもりはない。


 でもお姉様にも足りないものはあるし、私にできることはそれを補うことだけじゃない。お姉様の目標と計画の中でそれを超越することも可能なはずだから。


『隠された島の主人』は鼻で笑った。


【そんな傲慢が数多くの失敗を生んだ後では後悔しても遅すぎるけどね。……まぁいいよ。好きなようにやってみなさい。()()の世界はすでに多くのことが変わったのだから、ひょっとするとあんたの限界も変わっているかもしれない】


 その言葉を最後に、『隠された島の主人』の分身体は私の目の前から消えた。いつの間にか邪毒が剥がれた椅子だけがぽつんと残っていた。


 とても古びたし……どこか見覚えのある木の椅子だった。

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