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アルカと訪問者

 ……少なくとも前途を楽観できない何かが、この先にある。


 それが何なのかはわからない。しかし一つだけ確かだった。テリアお嬢様は自ら仰った未来を確信していないということだ。


 少なくともその未来が来ないかもしれない何かがある。


「オステノヴァ公爵の座は非常に難しいでしょう。もしかしたら今以上に。勉強に必要なものを調べてみます」


 そう言ったのは僕の決意を新たにするためだ。


 テリアお嬢様が何を考え何を隠そうと関係ない。ただお嬢様の前を阻む障害物を粉砕し道を開くだけだ。


 これから何があっても、僕の拳と『虚像世界』はお嬢様の願いを叶えるために存在するだろう。




 * * *




「アルカ。貴女の特性の深淵を覗き込んで、全てを明らかにして理解しなさい」


 お姉様が私に指示した『必要なこと』の一つ。


 それを成し遂げるために、私は静かな場所に籠もったまま自分自身の力の深淵を覗き込むことに没頭した。


 実際深淵を覗き込むと言っても、能力の全貌を理解するとかそういうことではなかった。基本的に『万魔掌握』は非常にシンプルに強力な特性だから。


 自然の魔力を引き寄せて私の魔力のように使うこと。そして他人の特性までコピーして扱うこと。『万魔掌握』の本質はこの二つの能力だけ。この事実はお姉様も確認してくれた。


 ただ、そのシンプルな二つの能力の汎用性が極端に高いのが問題といえば問題だけれども。


 特に他人の特性をコピーすることは結局その特性の能力を全て私のものにして扱うということ。しかし魔力の本質や技術をある程度はコピーできても、結局それを扱うのは純粋に私の技量だけだ。


 結局『万魔掌握』を掘り下げるということはすなわち『万魔掌握』でコピーした特性の活用を究めるということと同じ意味なのだ。


 それはいつもやっていたことだったけれど、今回お姉様が頼んだのは今までとは格が違った。


『貴女の力に限界はないわ。どんな特性でも、『万魔掌握』の権能ならば容易く手に入れられるのよ』


 よく知っている事実をあらためて言う、とは思わなかった。お姉様がそんな当たり前のことをわざわざ言い直す人ではないから。


 その意味はすぐに理解した。それは……。


【まだまともな世界権能一つ扱いきれないなんて。あまりに予想通りで言葉もないね】


 ……突然割り込んできた声に驚きはしなかったけれど、顔を見る前から苛立ちがこみ上げてきた。


「招待もしていないのに勝手に来ていきなり皮肉ですか? 邪毒神らしく教養がないですね」


【偶然にも私は嫌いな奴に礼儀を尽くすほど偽善的な性格じゃなくてね。あんたは私が特に嫌悪している奴だからなおさらよ】


 目を開けて相手を睨みつけた。


 邪毒のシルエットで出来ていて目鼻立ちも体型も分からない相手。『隠された島の主人』の分身体だった。


 今までも何度も夢に現れて私を嘲笑っていた邪毒神だけど、夢ではなく現実で分身体で訪れてきたのは初めてね。


「それで? 今度はまた何の用ですか?」


【役立たずのバカをもう少しマシにしてやらないといけないと思ってね】


「……貴方は本当に……口調さえもう少しマシだったら素直に感謝したのに。お姉様が言っていた前世の概念の中にツンデレってのがあったけれど、貴方もしかしてそっちの系ですか?」


 口調と態度が非常に腹立たしかったけれども、感謝の気持ちは本当だ。


 私と対面するたびに無能だの役立たずだの非難を浴びせかけるけど、実際表面的な態度を取り払って見れば『隠された島の主人』は私に多くの助けを与えてくれた。私が力を覚醒した時もそうだったし、最近も私の『万魔掌握』についていろいろアドバイスをくれた。


 態度がもう少し素直だったらよかったのに。


【妄想は頭の中だけにしてくれる? ツンデレが何なのかも知らないくせに適当に聞きかじったのを人に当てはめないで】


『隠された島の主人』は一言で一蹴すると指パッチンをした。私の向かい側に邪毒で出来た椅子が現れ、奴がそこに座って足を組んだ。


【私はあんたを助けているんじゃないよ。テリアのための道具をもう少しマシにしているだけ。私にこんなこと言われたくないなら早く私が認めるほど有用になればいいものよ】


「貴方はどうしてお姉様のために動いているんですか?」


【その質問もう何度もしたじゃない? テリアもそうだったけれど、やっぱり姉妹は姉妹だね】


「何度もしたって気になるのは仕方ないでしょう。貴方の態度がそれだけおかしいのが悪いんです」


『隠された島の主人』は鼻で笑うと口を閉ざした。


 この邪毒神がお姉様のために動いているってことはもう疑っていない。今まで見せてくれたものがあるから。お姉様にはまだ疑いが残っているかもしれないけど、私はそうじゃない。


 でも理由は相変わらず全く分からなかった。


 邪毒神というのは世界の外から来た神格。神が一人の人間に過度に介入するのも変なことなのに、その神がこの世界の存在ですらないならなおさらだ。


 ……『隠された島の主人』たちが『バルセイ』の主人公と攻略対象者たちと何か関係があるのじゃないかなって疑ったこともあったね。


 正直に言えばまだその疑いは完全には消えていない。でも『バルセイ』の登場人物は結局この世界の人たち。それがどういう経緯で邪毒神になったのか見当がつかなかった。


 もしかしたらこの世界と全く同じ世界がもう一つあって、邪毒神たちはそこから来たのかも。


 そんな考えもしてみたけれど、証明する方法のない仮説でしかなかった。


【無駄なことに神経を使う余裕があるなら、あんたにできることを増やすことにでも集中しなさい】


 そしてもちろん『隠された島の主人』は疑問に答えてくれなかった。ちっ。


 でも今日は単に非難しながら急かすだけに来たわけじゃないようだった。

読んでくださってありがとうございます!

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