リディアの異変
「わかる。今リディアも正確に同じことを感じているからね」
始祖武装のような強力な魔道具を無分別に振りまくのはよくないけれど、人々のために災いを防ぐ子孫を見守るときあっさり死んでしまったらどうするつもりなのよ。
始祖様が目の前にいたらそう問いただしたい気分だ。
……いいや、子孫たちを見守っているのなら、今空中に向かって適当に話しても聞こえているんじゃない?
瞬間そんな考えが頭をもたげた。でも本当にそうしたら、横から見ると姿が滑稽になりそうだからやめておくことにした。
それに、もう過ぎ去ったことについて今さら言っても空しい八つ当たりにすぎない。今話すべきことはそんなことじゃない。
「まぁ、それはいいよ。それより既に得たものを上手く活用する方法を考えましょう」
「確かに重要な問題だけれど、その前にリディアはまず回復に専念して。正直ディオスを相手に生き残ったこと自体が奇跡なんだからね。実際、後遺症で死んでも不思議じゃなかったでしょう」
「もう生死の瀬戸際は越えたんだよ。そしてこっちが万全になるまで相手が待ってくれるわけじゃないでしょ。リディアが回復しても、せっかく手に入れた『無限の棺』を適切に活用できなければ意味がないもの」
むしろ私の力を私自身が適切に扱えなければ、国の運命を論じる以前に私や友達も危険よ。私たちは安息領との戦いで常に最前線にいて、それだけ危険な瞬間も多いんだから。
それに、自惚れを取り払って見ても、安息領の方でも私たちを注視しているはず。事あるごとに邪魔をする厄介な勢力という認識くらいはあるでしょう。
こんな状況で安息領が私の今の状態といる場所を察知して襲撃でもしたら危険よ。
そんな危険を完全になくすことは不可能だけど、最大限抑えるためにも私が持っているものは有効に活用できなければならない。
テリアの顔に苦悩が垣間見えたけれど、彼女はすぐにため息をついて頷いた。
「その通りね。こうしている今も安息領が何か新しいことを企んでいるかもしれないし……まもなく大きなものが来るはずだから」
「大きなもの? そういえば隠しルートのラスボスが残っていたって言ってたよね。手掛かりは掴んだの?」
「……まぁ、そうね。それより『無限の棺』を覚醒したこと以外に他の特異なことはない?」
テリアの態度に何か小さな違和感を感じたけれど、彼女の質問に思い当たる節があって気にする余裕がなかった。
「そういえば変な点が一つある」
「何?」
「……えっと、聞いて笑わないでね?」
私が何を言おうとテリアが嘲笑うはずはないけれど……少し恥ずかしい部分があって自信がなかった。
でもやっぱり真剣な表情で頷いてくれるテリアに力を得て、私はそれを言った。
「暑いの」
……本当にそれだけだった。
暑いというか、妙に体に熱がすごく上がる感じだった。単に具合が悪かったり体調が崩れている程度の問題じゃなかった。
実際に医者が私の体温を測った結果、体調を崩した場合よりもずっと高かった。でも私自身は暑いだけで何の問題もなくぴんしゃんしていた。
体調が奇妙だということ以外は、こんな状況で言うべきことじゃないと思ったけど……テリアの反応は私の予想通りじゃなかった。
笑ってはいたけれども嘲笑じゃなかった。喜びと自信が感じられるというか。テリアがあんな表情をする時は、たいてい予想が的中した時なんだけど……?
「喜んでいいみたいわね。手に入れる力が『無限の棺』だけじゃなさそうよ」
「どういう意味……えっ、まさか?」
テリアの言葉を聞いて、私も一つ思い当たる節があった。
『結火世界』。私の特性である『結火』が進化して世界権能になったもの。『バルセイ』の私はその領域に到達したって聞いた。
「リディアの今の状態が『結火世界』の前兆だってこと?」
「ええ。入り口の段階だから実際に覚醒するまでは道のりは遠いけれどね」
「なぜ急に?」
「急に、というわけじゃないんじゃない? 今までリディアも努力してきたんだもの。ディオスと戦いながら力を極限まで引き出す過程で潜在能力が刺激を受けたのかもしれない」
その部分に関してはテリアも推測の口調だった。
まぁ、テリアが簡単に教えられるほど確実な方法があったら、とっくの昔にそうしていただろう。そうしなかったということは、『バルセイ』でも世界権能へ進化するための明確な方法なんてものは出てこなかったという意味なんだろうね。
テリアがふと微笑んだ。
「世界権能を思い通りに覚醒する方法なんて『バルセイ』にも出てこなかったわ。でも……リディアが『結火世界』に至るまでの過程や力の成長の兆候みたいなものはそれなりにあったのよ。そういうのを参考にすれば役に立つんじゃないかしら?」
「教えて。リディアが強くなるのは貴方にとっても良いことでしょ?」
「当然よ。既にある程度資料としても準備しておいたわ。……ただし、まずは先に体の回復に集中してね。病床に伏せている間は『無限の棺』の力を把握する程度にしてね。始祖武装は実際に使用しなくても、その力を感じ取って頭の中でシミュレーションするだけでも全容を把握できるから」
「わかった」
微笑みとともに重要な用件が終わり、その後はささいな話や快癒を祈る言葉程度のやり取りが続いた。
……でも、そうしている間も私は一人でこっそり決意していた。
さっきはテリアが話をそらしたけど、テリアがそうするということは隠していることがあるってこと。今までもそうだったし、まだテリアがすべてを率直に話してくれないということはもはや目新しくもない。
もちろん、それを単に悲しんだり残念がったりするだけで終わらせるつもりはないんだよ。
テリアが教えてくれなくても、彼女の胸の内や事情を察して付いていくことはできる。彼女の友達として過ごしてきた年月が、既に私の人生でも大きな比重を占めているのだから。
そのためにも『結火世界』の糸口を必ず掴まなきゃ。
先週の活動報告でお伝えしました、今週末の二回の更新は明日行うことにいたします。
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