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五大神と感情

「……謝罪?」


 意味が分からなかった。


 五大神がなぜ唐突に謝罪をするのだろうか。今まで何の接点もなかったため、なおさら不可解だった。


 しかしそう思う一方で……尋常ではないほど感情が沸き立った。


 あまりに熱く、わけが分からないほど複雑だった。かろうじて分かったのは、なぜか目の前の光を一発殴りつけたいということだけ。


 そんな気持ちになるのを見ると、どうやら私は今怒っているようだ。でも理由が全く分からない。


「……突然どうして謝罪をされるのですか?」


 尋ねる声にも怒りがあった。


 露骨に現れた感情を『光』が察しないはずがなかっただろう。顔を上げるように光源が再び上に上がったけれど、声にはまだ真剣さが滲んでいた。


 〚五大神はこの世界を管理するための権限を持つ者。全知全能な存在ではありませぬ。しかしこの世界の存在にとっては全能とほとんど差がない存在。その力で皆を救うことができたのなら、それ以上良きことなし〛


「……それで?」


 〚貴方の苦痛を。他の人々の苦痛を。わたくしは知っていました。しかし何もできず、何もしなかった。その結果がどこに行き着くのか()()()()()()()()()()()()()


『光』の言葉の中には理解できないものもあった。


 しかしそんなことなど気にしなかった。気にできないほど、いらだちと怒りがぐっと込み上げてきた。


「見くびらないでください」


 神への態度としてはあまりにも無礼だという自覚はあったけれど、『光』は何も言わずに私の言葉を聞いていた。


「世の中には救いを求める人がいるでしょう。どうしようもない状況に陥って、神の助けでもなければ抜け出せない人も。そこまで全て否定するつもりはありません。ですが私にまでそんな基準を押し付けないでいただきたいものですの」


 ……一つ、察しがつくものがある。


『光』からも、『隠された島の主人』からもかすかに感じられた破片。そして先日見たある病を患っていた患者。それらを組み合わせると、一つの信憑性のある仮説が頭をもたげた。


 それが私のつまらない妄想であればいい。けれどそうでなければ……言いたいこと、言うべきことは一つだけ。


 今沸き立つ訳の分からない感情がその仮説を裏付けるという確信のもと、私はその言葉を吐き出した。


「神の力と恵みなどに頼るつもりはありません。勝手に私の人生に干渉するのもお断りです。何をしてどんな結果を迎えることになろうと、それは全て私が引き受ける問題ですもの」


 〚貴方の転生から既に貴方の意思ではなかったのに?〛


「だからこそですわ」


 前世の記憶がなければ、私は『バルセイ』でそうだったように堕落し暴走した末に惨めな最期を迎えただろう。


『バルセイ』ではどのエンドでも私が救われる道はなかった。むしろ私が死ぬ前に主人公たちが先に死ぬバッドエンドでも、その後の物語で私は様々な方法で破滅した。


 最も一般的なのは暗躍しながら暴走し、ついには討伐されること。その他にもいくつかの可能性があり、中にはついに全てを破滅させて勝利するという結末もあった。でもそのときの私は結局そんな自分を惨めに思い、自害するのが結末だった。


 そんな轍を踏まなかったのは良いことだろう。しかし転生には明らかな外部の介入があった。そしてその介入が何を代価として払ったのか……うっすらと察しはついている。


「もちろん、既に受けた助けまで無効だと主張するつもりはありません。けれどそれにどんな副作用があったのか少しは察していますの。その察しが事実なら……それを元に戻すのが私がすべきことでしょう」


 〚貴方が変わることで多くの人々が救われることになりました。結果を重視する貴方ならば、それを否定的に考える理由はなきこと〛


「何か勘違いされているようですわね」


 思わず一歩踏み出し、食い殺すような勢いで『光』を睨みつけた。


「どんな道を歩もうと途中で犠牲や悲劇が起きたのなら、それは過程じゃないですよ。結果ですの。結果さえ良ければ全て良いと言い散らす大半の人々は自分たちの目的だけを結果だと取り繕います。自分が刻んできた傷と破滅が誰かには忘れられない結果だという真実を無視しながら」


 神などに期待したことはない。何も望んでいなかった。


『光』が自ら言ったとおり、神は何も助けてくれなかった。そんな存在だった。この世界に存在する数多くの悲劇を無視し、悪が横行するのを放置した。一つの善が悪へと転がり落ちることさえ防げなかった。


 そんなやつらが今さら助けてやるだの申し訳ないだのと言ってみたところで欺瞞にしか聞こえない。


「今さら謝罪するなんて言ってみても気分が悪いだけですの。たわごとを止めろって言いたい気分です。どうせ期待したこともないし望んだこともないのですから、余計な言葉は必要ありません」


 ……こう言いながらも、一方では少し疑問もあった。


 私は前世の記憶を思い出し、これから起こるはずだった悲劇をねじ曲げて消しただけだ。そんな私ならこれほどまでに五大神に怒りを覚え、不満をぶつける必要までなはい。


 それにもかかわらず胸の中にうずまく黒いものが、結局私の仮説と察しを証明しているようで、なおさら気分が悪かった。


 一方『光』はなぜか苦笑いのような音を漏らした。


 〚あの子が貴方を面倒くさい性格だと言ったのが理解できました〛


「否定なさろうとするのなら……」


 〚いいえ、否定ではありませぬ。むしろ肯定に近いこと。貴方がわたくしの予想以上に強靭な人間であることは良きこと。しかし……残念〛


 どこか余韻が残るような調子で、『光』は溜息とともに言った。


 〚あの子が望んだことは最初から齟齬があるしかなかったということが〛


「どういう意味ですの?」


 〚今言わなくてもじきに分かること〛


『光』の声が遠ざかった。


 のみならず天国のような光景も、眩しい光彩と神聖な魔力も急激に遠ざかっていった。


 まるでその場から追い出されるように。


 〚もう時間に。最後に一つだけお伝えたいことが――〛


 視界の全てが闇に染まり、夢から覚める直前――『光』の最後の言葉だけが耳元に響いた。


 〚わたくしの長年の友を救ってくださってありがとうございます〛


 ……新たな事実を、一つ悟った。

読んでくださってありがとうございます!

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