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思いがけない夢

 これもまた何の夢なのかしら。


 異常なほど鮮明な意識で、ふとそんな思いが頭をよぎった。


 まるで前世のメディアで天国を描写する際に決まって使われていた光景のようだった。両足が踏みしめている床は雲で、眩しい光が四方に満ちていた。


 こんな風に見るのは初めてだけれど、少し耳学問がある。


『夢を通じて『光』様が私に直接神託を下される時は、とても神秘的な光景が見えます』


『隠された島の主人』との会談の後、エリエラさんから夢のお告げについて聞いた。


 あの時エリエラさんが描写したものが目の前の光景と重なった。さらに鮮明に感じられる神聖で清らかな魔力。ひとまずは似たような現象だと考えられるだろう。


 しかし疑問なのは、もしこれが五大神のお告げならばなぜ突然私に来たのかということ。私は五大神教とそれほど関係もないのに。


 〚それは貴方があの子の唯一の目的であり、最も重要な協力者だからでございます〛


 突如として人間らしくない声が聞こえてきた。


 邪毒神や邪毒獣の歪んだ声とは違い、まるで天から響いてくるような神聖な声だった。一度も聞いたことのない類のものだったけれど、少なくとも邪毒神とは違うということだけは強く感じられた。


 声に続いて現れたのは――光だった。


 そうとしか形容できなかった。文字通り真っ白な光源だけが目の前に浮かんでいたのだ。


 声は頭の中で直接響くとかの神秘的な作用ではなく、普通にその光源から流れ出ていた。


「貴方は誰ですの?」


 〚人間が『全能なる光の神』と呼ぶ存在でございます。自称するにはやや恥ずかしい名前なのですが〛


『全能なる光の神』とは五大神教で略称『光』と呼ばれる神の正式名称だ。


 それより『隠された島の主人』の時も感じたけれど、神というには人間的すぎる反応ね。


 〚本質的な部分は大きく異なること。それながらも、自我と感情があるという点ではわたくしと貴方方の間に大きな違いはありませぬ。ゆえに人間的という感想を抱くのも無理はございませぬ〛


「……先ほども感じましたけれど、勝手に人の心を読まないでいただけますの?」


 〚ああ、申し訳ございませぬ。信者はこういうのを好むもので、癖になってのこと〛


 場所と現象さえなければ普通の人と会話しているような感じだったかもしれないわね。


 ……まぁ、そうだからといって普通の相手だと思うには、少し言葉遣いが変な面があるけど。


「邪毒神に続いて五大神まで、神という存在がこんなに軽々しく世界に関与してもよろしいことですの?」


 〚神とはいえ、ほとんどは単に超越的な存在にすぎませぬ。真の意味での神と呼べるような存在はそう多くはございませぬ。わたくしもあの子も同じこと〛


「先ほどからおっしゃっているあの子って誰のことですの?」


 〚貴方方が『隠された島の主人』と呼ぶ存在でございます。……わたくしがそう呼んだことはあの子には秘密にしてくださいますよう。聞けば怒るでしょうから〛


 何だか茶目っ気たっぷりに笑う顔が光の中から見えたような錯覚がした。


 いや、今はそんな些細なことは重要じゃない。


「貴方様と『隠された島の主人』はどういう関係なのですか?」


 答えはすぐには返ってこなかった。


 先ほどは笑顔が見えたような錯覚が一瞬したけれど、やっぱり丸い光だけの姿じゃ思考や感情を推し量るのは難しかった。


 でも間を置くこと自体が本心を推測させてくれる部分なのだろう。


 〚非常に複雑で……簡単には説明できぬこと〛


 少し長い待ちの末、『光』はそう切り出した。


 〚わたくしが投げ捨ててしまった多くのものが積み重なった怨念の塊。憎しみに蝕まれて道を見失ってしまった哀れな子。多くのものを恨み呪いながらも、ついに希望を手放さぬ気丈な子。わたくしには本当に申し訳なく、そして有り難い子でございます〛


『光』の感情がそのまま伝わってきたような気がした。


 一言では説明できない強い感情。けれど大切に思っているということだけは何となく感じられた。二人の神が決して軽い関係じゃないだろうってことも。


 けれど第一の正直な感想は一つだけだった。


「何をおっしゃっているのか全く分かりませんわ」


 〚……貴方、かなりシニカル〛


「この程度なら正体の分からない相手を相手にするにしては、かなり親しげな方だと思いますの」


 腕を組んで『光』をじっと見つめた。


 ……実のところ正直に言えば目が少し眩しいのだけれど、魔力を目にそっと纏わせて保護しながら耐えた。


 すると『光』は小さな笑い声を漏らした。


 〚その冷静さが貴方をここまで導いたのでしょう。あの子にはそれこそ良きことと言えるもの〛


「貴方様は『隠された島の主人』の目的が何なのかご存知ですの?」


 〚もちろん知ってはおりますが、貴方はわたくしにそれを尋ねる必要はありませぬ〛


「どうしてですの?」


 〚貴方はすでに知っている。あの子はとても素直ですから〛


 私は思わず眉をひそめた。


 すでに知っている。あの子がとても素直だ。このキーワードをそのまま受け取るなら、奴の目的は私に語った通りという意味だろう。


 しかし肝心のあいつが言ったこと自体があまりないのよ。そもそも言ったことも抽象的すぎるし、鵜呑みにするには怪しすぎて。


 そんなことを考えていると、『光』がふと〚ふふっ〛と笑った。


 〚慎重なのは良きこと。それながらも、あの子の言葉は信じても良きこと。この世界を管理する五大神の一員として保証しましょう〛


「心を読まないでくださいって言ったでしょう」


 〚読んでませぬ。ただ貴方の表情があまりにもわかりやすかっただけのこと〛


 ……たまにあんな言葉を聞くのだけれど。私がそんなに顔に思考が出やすいタイプだったかしら?


 不満で気分が悪くなった。しかも『光』が私の本心を感じ取ったかのようにまた笑い声を上げた。


 っ、これではいけない。とりあえずチャンスでもあるのだから、得られる情報は得ておかなきゃ。


「それで? それをおっしゃるためにいらしたのですの?」


 〚それも用件の一つ。が、唯一のものではありませぬ〛


『光』が上へと少し動いたかと思えば、次の瞬間大きな弧を描いて下へひゅっと落ちた。


 まるで人が頭を下げるように。


 〚貴方の努力と誠意への賛辞と……謝罪を〛

読んでくださってありがとうございます!

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