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テシリタとバリジタ

 人情も同情心もない。目的のためには何でも犠牲にし消耗させることができる冷血漢。にこやかに笑いながら平然と人の命と価値を踏みにじり、ただ自分のためだけにすべてを判断する怪物。それがバリジタ様だ。


 それが不満かと言えば、全然。


 そんなことくらいとっくから知っていた。むしろ自分のためという確固たる価値観の下、些末なものを踏みにじり蹂躙するその断固さと残酷さこそが、オレがバリジタ様を羨望する理由の一つなのだから。


 バリジタ様の表情はどこか不満そうに見えた。


「まぁ、別にその言葉を否定するつもりはないけど……ワタシが無条件にすべてをそんな風にだけ扱うという固定観念はちょっとどうかね?」


「そうではなかったのですか?」


 数百年の間バリジタ様を見てきて、そんな姿以外見たことがないが。


 本当に不思議で首を傾げていると、バリジタ様はさらに不満そうに頬を膨らませた。


「さすがのワタシも唯一の弟子を使い捨てにはしないよ。そのつもりだったらあれこれ教えて育てたりしないでしょね」


「オレ自身が他の連中より価値のある弾丸だという自覚はあります。ですが弾丸は弾丸。発射したときにこそ意味があります。今回の戦いは弾丸の本分を果たすには不足がなかったと思いますが?」


「……弾丸、弾丸ね。まぁ、自己客観視ができるのはいいことだけど……」


 バリジタ様は相変わらずどこか釈然としない様子だった。


 しかしすぐにため息をつくと、何かを諦めたような顔でオレの肩を掴んだ。


「まぁ、キミの言う通りだとしましょう。でもキミくらいの弾丸は貴重よ。再利用できるならともかく、一発で消耗させるにはもったいない。まだその時じゃないんだ」


「さらに危険な敵が現れるということですか?」


「危険かどうかは分からないけど、もっと手ごわい敵だということは確かだね。もしキミを消耗しなければならないとしたら、今よりはそのときの方が適切でしょね」


「……」


 相変わらず気に入らない答えだった。バリジタ様もまだ何かを隠しているような気がするし。


 しかし論理的に納得できないわけではなかった。


 安息領という道具袋を使うだけのバリジタ様を除いて、その道具袋の中で最も性能がいい道具はオレだ。安息領最強にしてバリジタ様の魔法という技術を唯一継承したオレは、性能も汎用性も他の道具とは格が違う。


 目の前の戦いよりも重要で大きな力が必要な戦いが未来に予定されているのなら、今よりもその時になってオレを使うほうがより合理的だ。


 ……だが相変わらず不満なのはどうしようもないな。


 結局これは〝消耗〟を前提とした仮定に過ぎない。だが再利用が可能なら問題ないのではないか。


 今回現れたテリアの奴は見違えるほど強くなっていたが、まだオレの力で殺せないほどではなかった。奴らをその場で殺してオレが生きて帰ることこそが最も理想的な状況ではないか。


 オレが敗北して生け捕りにされたり殺されたりする可能性が以前より上がったとはいえ、その可能性はそれほど大きくなかった。


 そのときバリジタ様がオレの肩から手を離した。しかしオレの表情から不満が消えていないのを感じたのか、苦笑いをされた。。


「そういえばキミを無理やり退却させたせいで結局そこに残っていた術式は破壊されたでしょね」


 あからさまに会話の主題を逸らそうとしているのが見え見えだったが、おっしゃったのは実際にオレが守るべきだったものでもあった。


 どのような経緯と理由であれ、失敗は失敗。オレはすぐに頭を下げた。


「申し訳ありません」


「いいや、ワタシが撤退を指示したせいで失ったのだからキミを責めるつもりはないよ。ただ残念なだけ。それに核心は奪われていないじゃない?」


 バリジタ様の言葉にオレは胸に手を当てた。そちらのポケットの中に入っている物の固い感触が感じられた。


 先日バリジタ様から受け取ったもの。ピエリ・ラダスとディオス・マスター・アルケノヴァとは違いオレの方は何の説明も聞いていなかったが、今回ようやく使用法くらいは分かった。


 今回そのアジトにオレが留まっていた理由はこの物を使う魔法陣を設置し守るため。


 その魔法陣も単に教わったものをそのまま刻んだだけ。バリジタ様の魔法を受け継いだオレでさえ理解できないほど膨大で複雑な魔法陣だったため、機能や正体は分からない。だがそれを起動させれば前に受け取ったこの物の力が発揮されると聞いた。


 オレが退いたのでそこの魔法陣は破壊されたが、核心である物自体は依然としてオレが持っている。


「しかしその魔法陣はそこでなければ使いにくいとおっしゃっていたではありませんか?」


「使いにくいのと使えないのとは違うじゃない。……正直そこでなければ使えないも同然くらいではあるけど、全く不可能というわけではないから。方法は探せばいい」


「そうであれば問題ないでしょう。ところで……結局これは何のための物なのですか?」


 懐からその物を取り出した。


 見た目には特に変わったところのない玉だった。特別な魔力のようなものも感じられなかった。


 ただ魔法陣を設置して中央に配置したときだけは一瞬ではあるが妙なものを感じた。


 何か特別な……力のようなもの。しかし魔力とも邪毒とも違うそれが結局何なのかは分からなかった。あまりにも微かだった上にあっという間に消えてしまったのだから。


 しかし一つだけ分かったのは、それがバリジタ様の力に似ているということ。


 バリジタ様は邪毒神、つまり外神だ。この御方の力は本質的にこの世界のものではなく、本気を出せば異質な力を発揮する。


 この玉からバリジタ様のその力に似た気配がほんの少しだけ感じられた。


「それは……やはりまだ教えられないよ。でもこのまま事が流れていけば結局すぐに分かるはずよ。それより新しく任せたい仕事があるんだけど」


 露骨な話題そらしだったが仕方ない。結局今回も教えてくださらないようだし。


 何であれ、オレはバリジタ様の願いを叶えるために存在する者。命令に従うだけだ。


「何でしょうか?」


「キミに守ってほしいものがあるんだけど……」


 その命令が何であろうとも。

読んでくださってありがとうございます!

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