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隠された島の主人の話

「邪神とのんびりおしゃべりをするつもりはないぞ」


 ランドスさんが剣を突き出しながら言った。今にもその剣を振り下ろしそうな構えだった。実際にそうしなかったのは、邪毒神である相手を軽々しく刺激しないためだろう。


 一方、私はあの二人のような警戒心はもはやないけれど、別の意味で呆れていた。


「急に割り込んでくるなんて、一挙手一投足を監視でもしていたの? そしてもう勝手に力を使えないんじゃなかったの? この人たちを転移させたのは大丈夫なの?」


【心配しないで。プライバシーはしっかり守っているから。それにあっちが先に力を使えば、私もそれくらいは使えるよ。まだ均衡を崩してはいない】


 口だけであんなことを言ったって信じられると思うの?


 でもどうせ問いただしたところでまともに答えてくれる奴じゃないから諦めた。


「まぁそれはいいわ。何を話しに来たの?」


【今回は貴方よりあの二人がメインなんだよ。とりあえず座ってもらえるかな】


 奴は顎で椅子を指した。あれは何時準備しておいたのよ?


 エリエラさんとランドスさんは相変わらず奴を警戒していた。けれど無言の対峙が数分続くと、エリエラさんが決心したような顔で前に出た。


「何を……エリエラ祭司!?」


「とりあえず剣を引いてください。話が目的だというのは本心のようですから」


「信じられるか! 邪毒神は存在自体が害悪だ。しかも我らの『火』様は奴を始末するよう望んでおられる!」


「我らの『光』様はあの邪毒神との協力を望んでいらっしゃいます。神の意思のみを優先するのなら、まずは私と貴方から決着をつけなければなりませんよ」


「ぬぅ……!」


 エリエラさんはそのまま椅子に座ってしまった。


 ランドスさんは深く苦悩に満ちた顔で私とエリエラさんと『隠された島の主人』を見比べ、結局決心したようにエリエラさんの隣の椅子に腰を下ろした。もちろん『隠された島の主人』を睨みつけるのは忘れなかった。


『隠された島の主人』はその態度を見て笑い声を漏らした。


【私が邪神だったらその態度で殺されると思わなかった?】


「やれるものならやってみろ。貴様が邪神だということがそれで確実に証明されるだろう」


【おあいにくさま。神に無礼を犯す者を懲罰する口実くらいはいくらでも作れるよ。たかが虫けら一匹消したくらい、ものの数にも入らない】


 ランドスさんがその言葉を聞いて唸った。


 でもそのとき、隣にいたエリエラさんが彼を制した。


「ランドスさん。無益な時間の無駄遣いはそのくらいにしましょう」


「無益だと!? あいつの存在を容認するというのか?」


「言い争いなどが通じる相手でもありませんし、今すぐ剣を抜いて突っ込んで戦うのでなければ、まったく無意味な気だけの張り合いです」


 エリエラさんが冷静に言うと、ランドスさんはうぅむと唸りながらも大人しくなった。


 もちろんそのエリエラさんも友好的な感じではなかった。ランドスさんほど敵対的ではなかったけれど、やっぱり相手は邪毒神だからね。


「話と言いましたね。どんな話をしに来たのですか?」


【あ、まぁ正確にはあんたたちというよりも、あんたたちの上にいる奴らへの用件なんだけど】


「上、ですか? 五大神教の祭司たちは……」


【その上じゃなくて】


『隠された島の主人』が手を上げて空を指した。


【あの上の奴らのことよ】


「……私たちを通して神々に言葉を伝えようというわけですね」


 ランドスさんがまたカッとしようとするのを、エリエラさんの手が先に制した。


 エリエラさんもあまり気分の良い様子じゃなかった。しかし今回は敵愾心とは違う理由で眉間にしわを寄せていた。


「五大神様は私たちに一方的にお言葉を下さるだけです。私たちがお言葉を伝える方法はありません」


【限定的ではあるけど、方法がないわけじゃないってことは分かっているから内緒を張る必要はないよ。それに、わざわざ直接伝える必要もない。あんたたちが聞いていればあいつらも聞いているはずだからね。そもそも――】


『隠された島の主人』の顔がエリエラさんの方を向いた。顔はいつものように見えないけれど、方向だけでも視線がどこに向いているかは分かるね。


【『光』はお茶でも一杯しようと呼び出せばすぐに来る奴だから、わざわざこんな間接的な方法なんて必要もないよ。私が言葉を伝えたいのは他の奴らだよ。私の言葉を聞く寛容さも、異議を唱える勇気もない馬鹿どものこと】


「それは一体どういう……」


【特に『火』と『境界』が活発に動いているようだけどね】


 急に寒くなった。


 自然現象ではない。感情が魔力として漏れ出ているのだった。


 それ自体は一般的なことだけれど、邪毒神の分身体であるにもかかわらず邪毒じゃない普通の魔力が流れ出ている――その事実がエリエラさんとランドスさんの目を丸くさせた。


『隠された島の主人』は変調された声の向こうでも分かるほど冷たく言った。


【世界が理不尽に人たちを踏みにじって殺しても微動だにしなかったくせに、今さら私を邪魔しようと血眼になっている馬鹿ども。私に言いたいことがあるなら直接話しなさい。こっちから話しかけても返事もなく逃げ回るくせに、下っ端を使って邪魔ばかりしないでよ】


 ランドスさんが刺激を受けそうな言葉だったけれど、冷たい魔力が威圧となって場所を押さえつけていた。私さえも緊張するほどだったから、二人は動くことさえ容易じゃないだろう。


 でもその空気はすぐに消えた。


【まぁ、言いたいことはこの程度かな。これ以上言っても意味はないだろうし】


『隠された島の主人』が軽く言った。その口調に導かれるように、威圧の魔力が幻のように消滅した。


 エリエラさんは冷や汗を流しながらも拳を握ったまま口を開いた。


「貴方は……何が目的なのですか?」


【一人を救うこと。それ以外のことなんて興味ない。正直、あんたたち人間が争って死のうが、この世界が滅びようが、私にはどうでもいいことよ。でも安息領の奴らは私の目的の邪魔になるから殺す。それだけよ】


 そう言った直後、奴の体が徐々に透明になり始めた。この場を去ろうとしているのだ。


 エリエラさんが奴を制止しようとしたけれど、奴が先に鼻で笑って先手を打った。


【私と私の配下をどう受け止めようと構わない。邪魔をしないのならこっちも別に害を加えるつもりもない。でも私の前を遮ろうとするなら、それ相応の報いを覚悟した上でしなさいよ】


 その言葉を最後に、『隠された島の主人』の分身体が完全に消えた。

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