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見解の相違

「具体的とは?」


 とりあえず問い返したけれど、意図はおおよそ予想できた。


 まずあれを確実に確かめるということは、行動の動機が単に私個人への敵対心によるものじゃないということ。私を攻撃することが本題であれば、わざわざあのような質問をする必要はない。


 一度確実に確かめてみよっか。


「どうしてそのようなことをお尋ねになるんですの?」


[忠告を申し上げるためです]


「邪毒神に頼るな、とかお話をなさろうというのでしょうか?」


[似たようなものだと言えるでしょう]


 ランドスさんの顔は真剣だった。少なくとも単純に非難しようとする眼差しではなかった。


[テリア様は実際に実績を上げておられます。安息領を討伐する仕事に率先して取り組まれ、多くの成果を挙げておられます。それは高く評価すべきことであり、『火』の宗派でもそういった部分についてはとても肯定的に評価する者が多いのです。恐らく他の宗派も同じでしょう]


 その箇所でランドスさんはエリエラさんの方をちらりと見た。すぐに舌打ちしたけれど。


 エリエラ様もイライラしたように溜息をつきながら割り込んできた。


[結果が人を証明するというのが貴方の信条じゃなかったのですか? テリア様はすでに十分な結果を出しておられるというのに]


[だからこそこうして真剣に忠告を申し上げているのではないか]


 ランドスさんはエリエラさんの言葉を鼻で笑い飛ばすと、再び私を見て軽く頭を下げて礼を示した。


[テリア様の成果と労苦については心から感謝申し上げます。これは『火』の宗派の総意であり、私も同じ気持ちです]


「つまり間違った道を止めてほしい。……そうおっしゃりたいんですの?」


[よくご存じですね。まさにそうです。邪毒神とは友好的なふりをして人間を罠にはめる悪辣な者ども。今は助けようとしているように見えても、結局はテリア様を利用して災いを起こそうという魂胆に過ぎません。我々の『火』様もそれを憂慮しておられるのです]


[それはどうでしょうか]


 エリエラさんが眉をひそめてそう言った。するとランドスさんがエリエラさんをギロリと睨みつけた。


[どういう意味だ]


[憂慮も何も、『火』様はただ『隠された島の主人』が邪毒神だという理由だけで排除したいだけじゃないですか? 恐れをなして対話にも応じられないまま]


[……いくら宗派が違うとはいえ、五大神教は全ての五大神を祀る宗教。その一員を自称しながら他の宗派が主力として祀る神を冒涜するとは。貴様には五大神教の司祭としての誇りもないのか]


[先に我らの『光』を冒涜したくせによくも口を叩くものね、ランドス・アルケイダス。頭が大きくなったせいで傲慢さばかり増して、不利なことはすっかり吹き飛ばすのが実に見苦しいよ]


 エリエラさんが突然威厳を漂わせて皮肉った。するとランドスさんは「っ」と言って映像の向こうで一歩後退した。


 あら? いくら見ても年齢はランドスさんの方が上に見えるのに……もしかしてエリエラさんは見た目よりも年上なのかしら?


 私がのんびりとそんなことを考えている間にも、エリエラさんは猛攻を続けた。


[先日『光』様が下された神託。貴方と『火』の宗派はあの御方の意志を貶め、侮辱したのね。その時点で貴方たち全員を叩きのめそうと主張していた我が信徒たちを私が宥めるのにどれほど苦労したと思う?]


[……うむ]


 何があったのかは分からないけれど、ランドスさんが唸りながらも反論できないのを見ると何か引っかかることがあったようね。


 エリエラさんはその反応を見て溜息をつくと、再び私の方に視線を向けた。


[実は前回お伺いした後、私たちの『光』様が再びお言葉を下さいました]


「私を助けろって仰ったんですの?」


[いいえ]


 エリエラさんは穏やかに微笑んだけれど、どこか困ったような色が彼女の眉間から覗いた。


[我が親友が助けを待っている。……私の夢に御臨みになってそのようなお言葉を残されました]


「それは一般的な神託の形なのでしょうか?」


[いいえ]


 エリエラさんはそれだけ言って微笑んだ。


 しかし横で聞いていたランドスさんが不快そうな表情を浮かべながらも吐き出すように言った。


[夢を通じて神のお言葉を直接聞くのは極少数の選ばれし者のみが持つ能力です。姉貴……ごほん。エリエラ司祭はその能力を認められた数少ない司祭です]


 へえ。ランドスさんはエリエラさんを姉貴って呼ぶのね。


 ……いや、重要なのはそこじゃない。


「親友ですか。それは誰を指すのでしょうか?」


[以前の神託と、何より言葉にならない雄弁で私にお伝えくださった感情を踏まえて……『隠された島の主人』を指しているのだと私たちは判断いたしました]


『隠された島の主人』が五大神の親友?


 これは予想外……というか、そもそも想像もしていなかったことだけど。本当なのかしら。


 私の疑いが表情に出てしまったせいだろうか。エリエラさんが苦笑いを浮かべた。


[信じがたいでしょう。正直に申し上げますと、それは私たちも同じですよ。私さえもそれをそのまま信じてはいません。恐らく私たちが計り知れない何かを比喩しているのじゃないかと推測するばかりです]


 常識的に考えればそうでしょうね。私もその考えには全面的に同意する。


 ……そう思ったのだけれども。


【まったく。人間はなぜ万事をあるがままに判断できず物事をややこしくするのかな?】


 突然の声とともに状況が一変した。


 私自身はそのまま。しかし目の前の魔力スクリーンが突然消えると、光とともにエリエラさんとランドスさんの姿が現れた。魔力で転移されたのだ。


 意図したわけじゃないのか、二人は戸惑いの色を浮かべながら周囲に視線を向けていた。


【こっちよ。もどかしくてちょっと口を挟もうと思ってね】


 再び言葉が聞こえてきた方を振り返ると、真っ黒な邪毒に覆われた『隠された島の主人』の分身体が椅子に座って足を組んでいた。


「なっ!?」


 ランドスさんは動揺しながらも素早く剣を抜き、エリエラさんも緊張した顔で後ろに下がった。ランドスさんがエリエラさんを守るように前に出た。


 ……この二人、実はかなり仲がいいのかしら?


 反射的にそんなのんびりした考えが浮かぶ間にも、『隠された島の主人』は溜息をつくと指をパチンと鳴らした。


【けっこう。とりあえず座りなさい。今日は話をしに来ただけだからね】

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