ジェリアの方面
「ジェリア様。第一線制圧完了しました」
ある都市で安息領の馬鹿どもと市街戦を繰り広げていた最中だった。共に戦っていた魔道兵団の将校がボクに報告した。
しかし理解できないな。
「ボクは魔道兵団と一時的な共闘関係でしかありません。なぜボクに報告を?」
「現在の作戦行動はテリア様の管轄でもあります。テリア様の協力者であり現在の戦闘の助力者であるジェリア様も十分に関係者なのでしょう」
「そうだとしてもボクの役割は一介の戦闘員にすぎませんが」
言いながら重剣を横に振るった。
軽い動作だったが、その振るいの剣圧が十数名の安息領を斬り裂いた。それでいて市街地には被害が及ばないよう絶妙に調節された斬撃が安息領どもだけを正確に倒した。
威力を調節した分、奴らに与えるダメージも少ないというのは欠点だが、これほど弱い奴らならむしろちょうどいい。
他の奴らが接近してこないかを警戒しながら将校に再び視線を向けると、彼はボクが倒した奴らを見て苦笑いを浮かべた。
「正直申し上げますと、私たちの便宜のためです。テリア様はできる限り詳細な報告を望まれますが、あの御方がお望みになることと私たちが準備する報告にときどき乖離があるのです」
「なるほど。ボクの頭に入れておけば勝手にテリアに詳しい話が伝わるだろう、ということですか?」
「露骨な表現なのですが、正確です」
思わず笑みがこぼれた。堂々としているのが気に入ったな。
どうせもともとの関係とやっていたことをついでに利用するのだから、別に不満はない。だがせっかくならこちらも得られるものは得ておいた方がいいだろう。
「まぁ、構いません。ただせっかくですのでボクも知りたいことがあります」
「何でしょうか?」
「フィリスノヴァ公爵とピエリ・ラダス側の状況はどうなりましたか?」
クソ親父を口にした瞬間、思わず手に力が入った。力加減が若干狂った斬撃が近くの建物の壁を斬り裂いてしまった。その中に隠れていた安息領が斬撃の衝撃を受けて気を失った。
良いのが良いことにしておこう。
将校は周囲の状況を確認し部下たちに指示を出しながらも、ボクが求めた情報を誠実に確認してくれた。
「まだ戦っているようです」
「今日で十日目だと記憶していますが。あちらも粘り強いですね」
「フィリスノヴァ公爵閣下の怪物のような力に立ち向かってあれほど長く戦えるとは。ピエリ・ラダスも異常な域に足を踏み入れたようで恐ろしいことです。公爵閣下の力についてはジェリア様の方がよくご存じでしょうが」
「……はい、よく知っています」
また手に過度な力が入りそうになった。気をつけないと。
クソ親父とピエリ・ラダスが十日目も戦っているというのは呆れるが、やはり彼らをぶつけるというテリアの判断が正確だったということだろう。
しかしクソ親父はともかく、安息領の立場では最重要戦力が封鎖された格好だ。その状況を打破するか、他所で穴埋めするか、何か予想外の行動を起こす可能性は十分にある。
――と判断するや否や、都市の片隅から怪しい気配が膨れ上がるのが感じられた。
「どうやら」
「奴らが状況の変化を図っているようですね」
将校も即座に周囲に命令を下した。
迅速な反応と指示、さすがだな。
だが気配が感じられる位置はまだ我が軍が突破できていない場所だった。それも安息領が暴れている領域の一番奥。すぐに対応しようとすれば、まずそこまで速く正確に突破する必要がある。
ここではボクが……。
ボクなりの判断の下で動こうとしたが、状況はボクの短い判断さえ待ってくれなかった。
――火が降臨した。
「!?」
安息領どもが異変を起こそうとしていた位置。正確にそこを目がけて、揺らめく閃光が空から降り注いだのだ。
本質は白光技の純白の魔力。だが形状が火のように揺らめいていた。純粋な白光技は火の効果を出せないはずなのに、熱さがここまで届いたかのような錯覚を覚えた。
直接見るのは初めてだが、知識として聞いたことはある。あの特異な術法は……。
「突然の無礼をお詫び申し上げます。ジェリア・フュリアス・フィリスノヴァ公女、そしてオステノヴァ魔道兵団の皆様」
若い男の声だった。
振り返ると、少し前までは魔道兵団の兵士たちだけが行き交っていた場所に見知らぬ者が立っていた。
露出のない服と軽い鎧の上からでもわかるほど引き締まった体躯。真っ白な祭司服の上に急所だけを簡単に覆う鎧を着け、首には白金の星のメダルを下げていた。
その星の真ん中に嵌め込まれた宝石は、激しく燃え上がる炎のように真っ赤な色。
その男も、彼の後ろに並んだ他の者たちも見たことのない顔だった。しかし服装はボクも知っているものだった。
「五大神教『火』の宗派の聖騎士隊がなぜここに? いや、それよりも先に言うべきことがありますね」
周囲に動く敵がいないことを簡単に確認した後、重剣を肩に担ぎ、体を聖騎士の方へ完全に向けた。
「この場はオステノヴァ魔道兵団が主管しています。挨拶するならそちらが前に来るのが筋ではないかと思いますが」
「失礼しました。ですが自分たちの用件はジェリア様により重きを置いているため」
「ふむ。まぁ構いませんが」
魔力が爆発した方をもう一度見た。
あの独特な形態の術法は五大神教の『火』の宗派が使用するもの。そして魔力の波長が聖騎士たちの先頭に立つ男と一致した。彼らの仕業だと見ても問題はなかろう。
ボクがそれを確認している間に魔道兵団の将校が前に出た。
「五大神教の聖騎士隊がどのような用件でいらっしゃったのですか? 確かに聖騎士隊は軍の作戦行動に協力する場合に限り参戦を許可されていますが、それは事前に議論がなされた時の話。今回の作戦に関与するという話は聞いていませんが?」
「失礼しました。急な用件でしたので」
男はあまり申し訳なさそうでない様子で軽く言うと、その口調に似つかわしくない鋭い視線をボクに向けた。
妙な敵意の籠った眼差しで。
「テリア公女に用件があります。自分をあの方に紹介していただけますか?」
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