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『光』の宗派

「隊長! 出所不明の魔力が感知されました!」


「ああ、私も見ている」


 奇妙な魔力の光が水滴を包んだ。


 それが何であるか判断を下す前に、光が水滴を刺激した。水滴はこれまで通り魔力の爆発を起こした。しかし水滴を包んだ光が爆発の魔力を全て吸い込んだ。


「これは……」


「余計な助力だったのでしょうか?」


 その女は何の気配もなく、いつの間にか近づいていた。


 軍人として鍛錬を重ねた上に魔道兵団の強力な探知魔道具まで備えた私たちに奇襲はほとんど通用しない。


 それにもかかわらず、こんなに近くまで来て話しかけるまで何も感じなかったとは。並の者ではないということか。


 しかもその女は一人ではなかった。いつの間にか我が部隊のあちこちに女と同じ服装をした者たちが混じっていた。


 誰なのかは分からないが、あの服装の様式は知っている。五大神教の信徒が公式な仕事をする時に着る服だった。


 その女は私の警戒心を感じ取り、苦笑いを浮かべた。


「申し訳ありません。状況が切迫しているため勝手に割り込みましたが、害意はございません」


「害意がないのであれば所属と目的を明かしていただけますか」


「私はエリエラ・メイス。五大神教のタラス・メリア教区を担当しております」


 やはり五大神教か。


[全隊、五大神教と思われる者たちの動向を監視しながら防御態勢を固めろ。先に攻撃はするな。だが彼らが私たちを欺こうとしている者である可能性があるので警戒を怠るな]


 会話と念話を駆使している間も水滴は次々と生まれていたが、五大神教と思われる者たちの魔力が水滴を抑え込む光を次々と生み出していた。


 それを感覚だけで確認しながら、体は一旦エリエラ司祭との会話に集中した。


「テリア様を訪問されたという司祭様ですね。どういったご用件でしょうか」


「私たち五大神教としては安息領の暴走を座視できませんから。内部でも様々な意見がありますが……私を含む『光』の宗派ではテリア様に協力することを決定いたしました」


 怪しいな。


 その感情を込めて、わざと探るために露骨に不審者を見る眼差しを取った。


「テリア様を訪問された際は『光』の宗派内でも意見が分かれると仰っていたとお聞きしましたが?」


「テリア様との会談について詳しく共有されているのですね?」


「最近の作戦行動はテリア様と深い関わりがありますので」


 エリエラ司祭はちょうど良かったとでも言うように笑った。


「テリア様に直接お話しできましょうか?」


「申し訳ありませんが、まだ確実に信頼できない者をテリア様におつなぎすることはできません」


 五大神教の司祭を詐称する者である可能性もある。エリエラ・メイスという主教がテリア様と接触したことは知っているが、そのエリエラ・メイスを詐称した可能性もあるからだ。


 外見など幾らでも変えられるし、エリエラ・メイスと直接会ったことのない私としては彼女の魔力を見分けることもできない。


 エリエラ司祭は当然だとでも言うように頷いた。


「当然の反応です。誠実な御方のようで信頼が置けますね」


 エリエラ司祭は懐から何かを取り出した。


 一瞬奇襲の可能性を警戒したが、彼女が取り出したのは攻撃機能のない魔道具だった。


 五つの枝の星が刻まれた白金のメダルだった。星の中央に精巧に細工された純白の宝石が埋め込まれており、とても清らかで清浄な魔力が感じられた。


 エリエラ・メイスという人物は見慣れなくても、その品物は見覚えがあった。


「五大神教主教の証ですね」


「分かっていただいて感謝します」


 五大神教の証は独特の魔力を発し、正しい所有者の手でのみその魔力を発する。また証をそれらしく模造する技術はあっても、完璧に模倣する技術はまだ存在しない。


 元の持ち主から強奪したものであれば別の気配を漂わせていただろうし、安息領が偽造した証は見破れる。


 そんな私の目で見るに、あの証は本物だった。それも一教区を担当する主教級の証だった。


「少なくとも五大神教の主教であることは本当のようですね。テリア様におつなぎします」


「ありがとうございます。私たちの目的は安息領を阻止することですから、今回の戦闘にも協力させていただきます」


「五大神教の協力であれば信頼できます」


 見たところ、この場に来た信徒たちは聖騎士隊のようだな。


 本来軍の作戦行動に民間人が介入してはいけないが、聖騎士隊は一応兵力組織として法的に認められている。


 もちろん王国所属軍に比べれば制約が多いが、対安息領戦闘においてはより熟練した部分がある。安息領どもを討伐する際に五大神教の聖騎士隊と協力するのは現場の裁量だ。


 エリエラ司祭を通信兵に案内し、五大神教と共に攻勢に転じた。


 正体不明の水滴についても五大神教はすでに熟知しているのか、彼らの術式が水滴の爆発を封じ込めていた。安息領どもが慌てた様子を見ると反撃の反撃までは想定していなかったようだな。


 戦闘自体は順調だった。ただ……万が一のためにエリエラ司祭側の通信も一緒に聞いていたのだが、そちらで思わぬ事態が発生した。


「待って。何だって?」


 テリア様の声だった。


 エリエラ司祭や我が部隊に向けられたものではなかった。別の方から割り込んできた通信への反応だった。


 その通信も我々魔道兵団の部隊なのだが……この識別コードはジェリア様と共に作戦を遂行している部隊か。


 そちらがテリア様に何と言ったのかはまだ把握されていないが、エリエラ司祭の表情が硬くなった。どうやら心当たりがあるようだな。


 通信の状況と目の前の戦闘を分析し、素早く判断を下した。


「全隊、殲滅態勢に移行する。奴らの底は既に見えた。速やかに片付け、他部隊との通信及びテリア様の議論に集中する」

読んでくださってありがとうございます!

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