襲撃の謀議
「え? ラスボスですか?」
思わず唖然とした声がこぼれてしまった。
ラスボスだなんて。今まで出てきた人たちだけでも大きな問題だったのに、今後もそのような怪バケモノがさらにいるという事実に呆れてしまった。
それにDLCってのも一つじゃないって言ってたよね。まさかそのDLCごとにラスボスがいるってこと?
質問の意味を込めてお姉様を眺めた。横をちらっと見るとロベルも少し当惑した表情だった。多分私も似たような感じだろう。
お姉様は私たちの方を振り向いたことはないけれど、私たちの疑問を感じたように口を開いた。
「DLCごとにラスボスがいるのは確かだけれど、全部が本編のラスボスのようなバケモノだけだったのじゃないわ。ストーリー展開があるだけでラスボスの力は足りない場合もあったし、今じゃなく遠い過去の話を扱ったものもあったからね。五人の勇者とイシリンの決戦とか」
「そのDLCは私がラスボスだったわね。そういうケースもあるから、ラスボスがどんどん増えるって心配する必要はないわよ」
イシリンさんが横で補充してくれた。
それは幸いだけど、結局お姉様の言葉は脅威がないという意味じゃないんだ。お姉様はバケモノだけじゃないと言っただけで、バケモノが全くいないとは言わなかったから。
その上、テシリタへの反応を見れば明らかだった。
「イシリンの言う通りよ。DLCで本編のラスボスほど警戒すべき対象は一人だけの。……前世の私が死ぬ前に発売されなかったDLCがあったけれど、一応それはさておいてね」
「その一人がテシリタってことですか?」
「ええ」
お姉様が映像に魔力を注入した。すると映像のテシリタの姿が変わった。
外見はそれほど変わっていない。けど服と髪の毛と瞳などの色が金色に変わり、何か光輝のようなものを噴き出していた。
ハイレース……じゃないかな。オメガになれなかったディオスは言うまでもなく、完成体のオメガに到達したピエリもあんな姿じゃなかった。本来の姿を維持したものの、そこに魔物の特徴が混ざった形状だったから。
けれど映像のテシリタの姿からは……どこか神々しささえ感じられた。
「テシリタが正確にどんな存在になったのかは私もよく分からないわ。けれども、その力が凄かったことだけは確かなのよ」
「『バルセイ』ではどうやって倒したんですか?」
「倒せなかったわ。ただテシリタの弱点を利用して世界の外に追放しただけ。おそらく師匠である筆頭から何か力をもらった代わりに、この世界とのつながりが弱くなって邪毒神に近い何かになったようね。だから世界の外に追放するって手段が可能になったのでしょ」
「対処はできる。でもとても難しいし、あのテシリタが起こす被害も莫大なのよ。だからそうなる前に倒す。それが今回の目的ね」
イシリンさんがそのように補充してくれた。
「趣旨は理解しました。そのテシリタがどこにいるのか、確かな情報はありますか?」
ロベルがそう聞いた。
確かに、いざテシリタの居所が分からなくては意味がない。以前の工場襲撃はそもそもターゲットがテシリタじゃなかったし、その場に彼女がいたから出くわしただけだから。
お姉様は魔力の映像を操作した。テシリタの姿が消え、簡単な地図が現れた。バルメリア王国の外、もっと言えば全く別の大陸のどこかだった。
アカデミーで教養として習った気がするけれど、正確に思い出せないね。
地図の真ん中に小さな光点が現れた。
「所在を把握することはできなかったわ。でもテシリタのラスボス化を早めるつもりがあるなら、彼女をここに配置したはずよ」
お姉様がそう言って、隣でイシリンさんが手伝うために再び口を開いた。
「事情があってテシリタがラスボス化できる場所は決まっているの」
「つまりその場所を攻撃すればいいのですか?」
ロベルが尋ねるとお姉様は頷いた。
「そうよ。そこにテシリタがいたら、すぐに倒すべき。もしそこにいなければ、少なくとも術式を設置できないように徹底的に破壊して結界を設置しておかなきゃならないでしょ。すでに術式が設置されていたら当然破壊すべきだし」
お姉様は魔力の映像を破棄した。真剣な、けれど今後すべきことへの心配は少しも染み込んでいない眼差しが私たちに向かった。
成功しなきゃならないというプレッシャーは依然として残っていても、成功できるかという不安はない。いつもそうだったけど、今は特に。
「いつ攻め込むおつもりでしょうか?」
今すぐにでも飛び出しそうな臨戦態勢の緊張感が魔力で漏れる中、ロベルが淡々と質問を投げかけた。
するとお姉様はニッコリと笑った。
「今」
お姉様が胸の中から魔道具を一つ取り出した。
転移の魔道具だった。
***
転移の光が消えた後。目の前に広がるのは鬱蒼とした森の情景だった。
「いきなり引っ張ってくるのはちょっとアレだと思うけど?」
イシリンは呆れた顔でそう言った。
「あはは、それだけ緊急なことだって意味でしょうね」
「お嬢様はいつもこうでしたから慣れています」
アルカはなんとか私を弁護しようとしたけれど、ロベルがきっぱりと言い切ってしまった。
まぁ、あんなこと言われても何も言えないという自覚くらいはあるんだけど。むしろこのような扱いにも慣れているので、今はさっぱりと笑って済ますことができるようになった。
「行くわよ。この森の奥なのよ」
まずはできる限り接近するために、魔力を隠したまま素早く森をかき分けて進んだ。
安息領の魔力はそれなりに隠されていたけれど、それほど念入りな隠蔽じゃなかった。集中して睨みつければ、流れ出る魔力がかすかにでも目に見えた。
森でも何でも、あんな確かな道しるべがあるなら見逃せない。
まっすぐ行った私たちはあっという間にその場所が見える場所に到着した。
外見は森の中の小さな建物だった。けれど魔力をよく観察すれば、地下に広大な施設が建築されたことが分かった。地上のあれは本来の姿を隠す覆いであると共に、地下に通じる関門だろう。
ここまで来たなら、もはや隠蔽は必要ない。
「すぐに突入するわよ」
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