未来の準備
「うん? なんで急にそんなこと聞くの?」
「当たり前じゃないですか。お姉様はいつもそんな感じでしたから」
断定的に言ったらお姉様は苦笑いした。
……実は先日『隠された島の主人』の啓示夢を見た。
お姉様には話さなかったけれど、あの邪毒神が私に言った。いつまでもお姉様だけに頼っていては、この世界が救われる資格なんてないって。
正直それを聞いた時は私も頷かざるを得なかった。今までお姉様は一番重要なことを一人で引き受けてきたから。おそらく『隠された島の主人』もそれを指摘したのだろう。
そして……そんな冷静な考えの他にも、何かわけのわからない不安と確信があった。このままお姉様にだけすべてを依存してはいけないって。
「お姉様は強いです。私たちの中で誰よりも。でもそれがお姉様一人ですべてを抱え込む理由にはなりませんよ。私も他の人たちも頑張っていますよ」
「心配しないで。本当にそういうわけじゃないから」
「それをどうやって信じるんですか?」
「……まぁ、信頼がないのも仕方ないと思うけれども」
お姉様は力なく笑ってまた私の頭を撫でてくれた。
うーん。頭を撫でてくれるのは嬉しいけど、それを利用して私の不安と疑いをごまかそうとするのじゃないかなって気がしてきたんだけど。
お姉様も私の疑いに気づいたかのように苦笑いしながら手を引いた。……だからってするなって意味じゃなかったけれども。
「証明する方法はないけど、これは本気よ。むしろ私一人ですべてを抱え込まないために、貴方にその情報を渡したのだから」
お姉様の視線が私の手の書類を指した。
「これを?」
「ええ。正直に言うわ。隠しルートのラスボスは私一人では対処できないの。構造的に不可能なのよ。そしてそのラスボスの攻略に一番重要な人は貴方よ」
「私がですか?」
お姉様の表情は真剣だった。適当にごまかそうと無造作に言ってるのはないってよくわかった。
でもどうして私が重要なのかはよく分からない。私の『万魔掌握』は確かに強力な能力だけど、まだ私自身がその力を十分に活用していないから。
しかも『万魔掌握』の特徴である無尽蔵の魔力と多様な特性はすべてお姉様も持っている能力。素直には能力の特徴という観点で私に差別点なんて全然ない。
お姉様は私の心を察したように首を横に振った。
「能力の大きさや熟練度の問題じゃないわ。貴方じゃなければできないことなのよ。具体的なことは今すぐ教えることはできないけれど、その資料で見られる部分だけを見ても何が必要なのかは分かるはずよ。貴方は聡明だから」
「本当にこれがお姉様を確実に助けることができる道なんですよね?」
お姉様は言葉での返事の代わりに強く頷いた。
それで納得してあげることにした。
「わかりました。お姉様がそうおっしゃるなら信じます」
「ありがとう。さぁ、最初の用件は終わったし……」
あれ、用件がそれだけじゃなかったのかな。
お姉様が指パッチンをした。お姉様の体から赤い光の粒子が流れ、イシリンさんの姿に変わった。そしてロベルがドアを開けて入ってきた。
「どうせ私は貴方の中で話を聞く立場なのに、私は最初から出ていてもよかったんじゃないの?」
イシリンさんが面倒くささがありありと表われた顔で話した。
「お話はお済みですか?」
ロベルはいつもの態度で私を外に案内しようとした。
「待ちなさい、ロベル。まだ終わってないわ」
「そうなのですか? それなら僕は外で……」
「いや、そのままでいてちょうだい。今回は貴方も含まれるから」
お姉様は飛び回っていた紙の一つをつかんだ。お姉様の手から魔力が流れ込むと、紙から小さな魔力の映像が流れ出た。
「単純なのよ。今までと同じように安息領と戦うためのプラン。今回はこのメンバーで行くつもりなのだから」
「変わった組み合わせですね」
もう一度、集まった面々を見比べた。
イシリンさんはお姉様と離れることがほとんどない。先日別に行動したことがあるけれど、イシリンさんの本体である邪毒の剣はお姉様の体内にある。特に、邪毒の剣の本来の力を使うためには必ず、イシリンさんが本来の姿に戻らなきゃならない。だから重要な戦いなら個別行動は不可能だ。
お姉様とイシリンさんに私とロベルって。こんな風に人員を構成したことがあったのかな?
「正直、今回はできるだけ戦力をたくさん連れていきたいけれど、他の所にも人数が必要だから。必要な戦力と状況を考えて人員を配置したの」
お姉様が話している間、紙から流れてきた魔力の映像がはっきりとした形を描き出した。
それは……。
「テシリタ?」
見たことのある顔だった。筆頭を除いて実質的な安息領のリーダーである安息八賢人のテシリタだった。
以前は厳密にはテシリタ本人を攻撃するのじゃなく、彼女が管理する工場を破壊するための襲撃だった。けれど私たち皆がその時より強くなったし、今になってまたあの時のように管理区域を破壊するくらいでお姉様が満足しそうになかった。
じゃあ。
「今度はテシリタを直接打つんですか?」
「そうよ。テシリタはまだ活動が目立っていないけど、できれば今テシリタを倒すのがいいんだもの」
お姉様の表情はとても悲壮だった。
テシリタは強敵ではあるけれど、今のお姉様ならそこまで緊張するほどの相手じゃないと思う。イシリンとロベルと私まで一緒なら、もちろん簡単な戦いじゃないはずだけど、勝算を真剣に予想する水準にはなるはず。
それなのにお姉様の態度があんなに真剣だというのは……ひょっとしたら。
「今テシリタを倒せなきゃ、これから大変なことになるんですか?」
「そうよ」
お姉様の代わりにイシリンさんが答えた。
イシリンさんはテシリタの映像を睨みつけながら不快という顔で話した。
イシリンさんが特定の対象にあんな態度を見せるのは珍しくて少し不思議だった。安息八賢人の筆頭と何か悪縁があるようだったし、おそらくテシリタがその筆頭の弟子のような存在だからかな。
テシリタの映像を見て何か物思いにふけったお姉様の代わりに、イシリンさんが続けて話した。
「あいつ、どうやらDLCの一つのラスボスらしいわよ」
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