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エピローグ テリアの準備

「あちらは終わったようだな」


 公爵はディオスの方を見ながら静かに言った。


 彼にも私にも全身に傷が刻まれていた。致命傷というほどのものはなかったが、対等な力で剣を取り交わしながら次第にダメージが累積したのだ。


 しかし公爵の勢いは全く衰えていない。いや、むしろもっと喜んでいる様子さえあった。


「ふむ。あちらは勝者ももう力尽きたようだ。邪魔に来る可能性はあるまいだろう」


「先ほどの軌道爆撃は油断できない威力だけどね」


「こちらに撃つ可能性はあるまい。ただ撃ったところで避けるだけだ。それはルスタンの奴も知っているだろう。そして下手にわしの邪魔をすればもったいない衛星を失うだけだとよく知っているはずだ」


 公爵も、今の私もこの場で超長距離攻撃で衛星を破壊することぐらいは難しくない。オステノヴァ公爵もそれを念頭に置いているという意味だろう。


「貴様こそ意外と平気だな。あちらの小僧は貴様と仲間ではなかったのか?」


「なぜそう思う?」


「似たような魔物の力が感じられたからな。貴様ら安息領が最近運用しているというキメラと関連があるのではないか?」


 まぁ、その程度は簡単に分かられる部分なのか。


 私は鼻で笑った。


「安息領の協力者というのは否定しないが、仲間というには語弊があるね。たまたま才能があっただけの駒などを味方にした覚えはない。利用するだけだ」


 実はもっと活躍できると期待していたので、むしろがっかりした。実質的には何もできずたった二人の未熟な子どもたちに敗北して封印される格好だなんて。


 あのようなことなら、むしろディオスにあげたものを他の者に与え、都市の真ん中で暴走でもさせた方が良かったはずだ。


「ふむ。構わないだろう。どうせわしとは関係あるまいことだ」


 公爵は重剣をもって私を狙った。大小の傷がその腕にもいっぱいあったが、彼の気迫と魔力は少しも衰えなかった。


 彼の多くを占めるのは戦い好きの好戦性。だがその中に私への敵意も確実に存在した。


「今のバルメリアについてはわしの力で壊して再建すべき部分が多いが、それ以前に安息領は討伐すべき罪人の連中だ。そんな奴等と一緒にいる以上、貴様を見逃すことはできぬ」


「笑わせるな。人をゴミのように切り捨てる貴様が今になって正義感を前面に出そうとしているのか?」


「これが正義感に見えたのなら貴様の見識が狭いのだ」


 公爵は険悪に笑った。


「貴様らが何をしようがわしの知ったことではあるまい。だが貴様らのすることはわしの支配の美学に反するぞ。だから貴様らを討伐するのはわしにも必要なことなのだ。まぁ、趣味も兼ねていることだ。貴様はここで逃さず確実に終わらせてやろう」


「貴様らしい言葉だね。どうせこちらも貴様をこのまま逃してやるつもりはない」


 あちこちに傷を負ったのはお互いさま。そして戦闘力に何の問題もないのも同じだ。


 この戦いに介入しようとする気配がないということだけを確認し、私と公爵は同時に互いへと突撃した。




 ***




「状況はどうですの?」


 呪われた森での件が一段落した後、私はラースグランデとミッドレースオメガ部隊を逮捕して帰ってきた。


 現在、オステノヴァ公爵邸は一種の対安息領活動の本部のような感じで使われている。いろいろな理由があるけれど、何よりも父上の魔道衛星とあらゆる情報収集手段を一度に管理し収集できる所が我が家だけであるためだった。


 先に来ていたトリアが私に挨拶した。


「いらっしゃいましたか、お嬢様」


「トリア。そっちは終わったの?」


「向かった所は片付けました。おっしゃったことを準備するために戻ってきたところです」


「いいわ。私たちは皆暇じゃないからすぐ状況だけ見るわ」


 魔力で具現化された数十のスクリーンが配置されていた。あるものは場所を直接見せていて、あるものはいろいろな情報が表示された地図だった。


 私はそれらの中の一つに視線を向けた。


「リディアは成功したわね。本当によかった」


 リディアとシドが本当にディオスを倒すことができるだろうか。受諾した後も心配が本当に多かったけれど、結局成功したようで嬉しい。成功した以上は二人にとっても何か成長のきっかけになったはずだし、無事に帰ってきたら休ませてあげよう。


 そしてもう一つの重要なところは。


「ピエリ・ラダスとフィリスノヴァ公爵はいまだに互角に戦っているのです」


 トリアが先にそちらを指してくれた。


 ピエリとフィリスノヴァ公爵の戦い。そこは魔道衛星の精密撮影機能でリアルタイムで監視している。


 ……やっぱりまともなラスボスの力はすごいわね。


 ディオスの方はどのように戦ったのか見ていないのでどうだったのか分からないけれど、ピエリとフィリスノヴァ公爵の戦いは凄かった。私があの場にいたら、果たして耐えられただろうかと思うほど。


 表面的な破壊の規模はそれほど大きくなかった。しかしそれは芸術的なほど力を圧縮して製錬したからであるだけだ。その魔力をむやみに解放すれば、すでに大陸が海に沈んでもお釣りが来るほどの力だった。直接感じたのじゃなく衛星が測定したものを数値で確認しただけだけれども。


 けれど彼らは私の計画通り着実に互いに消耗していた。


「他の場所の状況は?」


「難しいです。安息領の活動範囲と規模に王国の対応が完璧についていけないのが実情です。ですが成果はあります」


 今安息領はバルメリア王国全域であらゆる事件を起こしており、甚だしくは外国からも安息領の活動が報告されている。


 でもそれは安息領側でも莫大な人材と資源を投入しているということだ。これでも大きな成果を上げることができなければ、安息領側が危険になる諸刃の剣なのだ。


 そしてそれは私にも……私たちにとっても重要な瞬間だということだ。


「トリア。〝あの作戦〟を実行するわ。準備してちょうだい」


「かしこまりました」

これで第12章が終わりました。

最近になって頻繁に更新ができなくなってしまうことが多かったのにこんなことを申し上げるのは少し申し訳ないのですが、第13章を始める前に短い休載をしたいと思います。

第13章が本当に重要なターニングポイントになる予定ですので、プロットをもっと整理してから始めたいと思います。

このために最近の更新問題を少し無理してでも2回更新で補いたいと思いました。


作業がいつ終わるか定かではありませんので再開日を確言することはできませんが、休載日数は最低2日から最大5日程度と予想しています。

つまり更新復帰は早ければ来週の水曜日、遅ければ来週の土曜日くらいになる予定です。


第13章からもよろしくお願いします。

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