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一つの決着

 最初から私がディオスに勝つことは不可能だった。


 ジェリアのラスボス化の時はテリアでさえ〈五行陣〉に到達できなかったら勝てなかったって言っていた。ところが今のディオスはあの時のジェリアより強いし、私は〈五行陣〉に到達する直前のテリアに匹敵するくらい。シドが助ける程度では真っ向勝負で勝てるはずがない。


 それなら真っ向勝負じゃない別の方法を使えばいい――それが私が下したシンプルな結論だった。


「シド」


「信号は送っておいたんだ」


「やっぱり判断が早いね」


「貴様ら、何を……」


 ディオスが私たちのやり取りに割り込もうとしたけれど、彼は言葉を終えることができなかった。


 突然上空から噴き出した恐ろしい魔力に視線を奪われたから。


 その直後。空が燦爛と輝いた。


「オステノヴァ魔道衛星の最大出力。今のあんたでも耐え難いはずよ」


 天上の光が降臨した。


「ぐああっ!?」


 正確にディオスだけを狙った魔力の光。彼の全身を燃やす爆撃が彼の力と肉体を削った。


「ちく、しょう……!」


 ディオスは回避も防御もできなかった。何をしようとしても体内に埋め込まれた魔弾に阻まれていた。


 戦術魔弾『太陽色の麻酔弾』。特殊な火炎が魔力の流れと神経信号の伝達を燃やして遮断する。


 無力化に特化したそれを、私は魔力が万全の状態の時にすべての魔力を注いで作った。それを二回繰り返して二つの魔弾を用意し、作戦と共にシドに託した。


「……本当にテリアの言う通りになったね」


「そうね」


 シドの言葉には率直に同感するしかなかった。


 テリアが語ってくれた『バルセイ』の展開と、先日邪毒神が見せてくれたもの。今回の戦略はそれらを基に立てた。


 今の私がラスボスのディオスを倒すことは不可能。しかし鋼鉄の肌を溶かすのはギリギリでできそうだった。


 だから皮膚を破壊し、露出した皮膚に『太陽色の麻酔弾』を打ち込むこと。私たちがすべきことはそこまで。あとはオステノヴァ公爵閣下に頼んで、私たちに足りない攻撃力を最大出力の軌道爆撃で補うだけ。


 ……でも本当に驚くべきだね。


「一人の人間だけにピンポイントで爆撃できるオステノヴァの技術力も、あの圧倒的な爆撃を個人の体でしのぐディオスも。正直、両方とも話にならないって気持ちだよ」


 シドの言葉に苦笑いで応じた。


 魔力の軌道爆撃はディオスに大きなダメージを与えていた。しかしディオスもやっぱりラスボスってことかしら。『太陽色の麻酔弾』を二発も打ち込んだのに、無理やり魔力を動かして耐えていた。燃え尽きゆく体を必死に再生し、鋼鉄を少しでも作って威力を削いでいた。


 ――『アーマリーキット』実装兵器・超長距離狙撃小銃『鷹の目』


 わずかながら回復した力で武器を具現し、他の戦術魔弾を装填した。


 力の入らない手でなんとか銃を持ち上げようとしていたら……シドが手を伸ばして銃を支えてくれた。


「ありがとう」


「どういたしまして。片付ける必要があるから」


 頷いて、照準をディオスに合わせる。その時ちょうど軌道爆撃が終わった。


 最大出力の爆撃でもディオスを始末することはできない。そして魔道衛星は直ちに他の所にも使われなければならないため、ディオス一人にだけ爆撃を繰り返すことはできなかった。


 ラスボスは未曾有の脅威だけど、ディオスが唯一の脅威というわけじゃないから。


 だからこそ片付けるのは私たちの力でやり遂げなきゃいけない。


 ――リディア式射撃術奥義〈紅蓮の鎖〉


 発射された魔弾がディオスの体に着弾した。正確に彼の体内にある『太陽色の麻酔弾』に。


 その瞬間、三つの魔弾の魔力が一気に爆発した。


「ぐぁはあ……!?」


 ディオスの胸は爆発し血が噴き出した。


 膨大な魔力が体内で炸裂することに結局耐えられず、ディオスは後ろに倒れた。


「あれでも死なないって話だったね?」


「ええ。心臓をぶっ飛ばしても再生するはずよ。だから早く」


「わかった」


 シドはあっという間にディオスの傍に移動して宝石と魔道具を取り出した。ディオスの体が光って宝石に吸い込まれた。


 無力化された隙にディオスを封印し、彼が抜け出す気配がないことを確認した後、シドは再び私の傍に戻ってきた。


 私はディオスが封印された宝石をじっと見て、思わず唇を動かした。


「……どうしてこうなったのかしら」


「何が?」


「このバカがリディアに優しかったことはなかった。お兄様ってはいつも怖くてリディアを痛くさせる人だけだったから。でもどうしてリディアをあれほどいじめたのかしら」


 ディオス自身の言動も、テリアが語ってくれた『バルセイ』の物語も。多くのことがディオスの動機について説明してくれた。それが間違ってはいないと思う。幼い頃から傲慢なクズだったと聞いたし。


 けれど……それにしても、家族としてもう少し仲良くやってみる道はなかったのかしら。


 高位貴族家の権力に家族の情が割り込む余地はない。それが一般的な常識であり、私たちだけでなくフィリスノヴァ公爵家も同じだった。


 でもオステノヴァ公爵家を見ていると、本当にそうなのかなって少し懐疑的になった。


 別にディオスに同情するわけじゃない。これはむしろあれほどいじめられた幼い頃が悔しい気持ちに近いだろう。


 シドはそんなことを思っていた私の肩に手を置いた。


「お前がやられてきたことを報われる方法なんてないだろうけど。これからのアルケンノヴァを変えていくのはどう? ……まぁ、結局お前自身が報われるのとはちょっと違うかもしれないけど……」


「……これからのアルケンノヴァ、ね」


 私は突然シドを振り向いた。


 予想より顔が近いことに少し驚いたけれど、シドの方が私よりも驚いた反応をしてくれて少し落ち着いた。


 何だか楽しい気持ちもあった。


「あんたが手伝ってくれる?」


「は?」


 シドは目を丸くした。私の話がどういう意味なのか見当がつかない表情だった。


 そうして私が彼の手をそっと握ると、ようやく別の意味で驚愕した顔になった。


「はあぁ?」

今日も2回更新の予定ですが、あと1回は夕方にアップロードすることにします。


読んでくださってありがとうございます!

面白かった! とか、これからも楽しみ! とお考えでしたら!

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