邪魔と苛立ち
全力で行く――そう決心して突撃する直前、突然魔力の閃光が目の前を横切った。
まるで狙ったかのように、私とフィリスノヴァ公爵の真ん中を斬り裂く一撃。恐ろしい威力が衝撃波と爆音を作り出し、巨人の指が大地をかすめたように巨大な傷痕が刻まれた。
もちろん私も公爵もこの程度の余波でダメージを受けることはないが、風圧が私たちを押し出した。
「未熟極まりぬ。せいぜい巨大な力を持っていても扱い方が分からないなら意味がないぞ」
公爵は突きが飛んできた方向を見ながら舌打ちをした。
かなり変質してはいるが、この魔力の波長はディオスだね。あの御方の言う通り、ハイレースへの進化を遂げたのか。やはりオメガではないようだが、感じられる力の大きさだけを考えると今の自分とも肩を並べることができる。
だが公爵の言う通り、未熟極まりない。確かに当然だろうか。その年齢にしてはいい腕を持ってはいたが、あくまでも年齢の割に優れているだけ。テリアさんやその周辺のような規格外の実力者ではなかった。
そんな彼が急に大きな力を得ただけだから、扱う腕がつまらないのは当然だろう。
そちらもそちらなりに誰かと戦っているらしいから、こちらに割り込む気配はなかったが、あんな巨大な力を見境なく振り回すとこちらにも届いてしまう。さっきみたいに。
公爵が不愉快な様子であるのもそのためだろう。
「この楽しい戦いをあんな未熟者が邪魔するかもしれぬと思えばたまらぬ。貴様もそう思わぬか?」
「あいにく私は戦いがそんなに好きではないからね。共感できない」
私がそう言うと、公爵は面白くないかのようにため息をついた。
まぁ、そうだとしても嬉しくないのは私も同じだ。自分の手であいつの息の根を止める機会を余計なおせっかいで失いたくないから。
――蛇形剣流〈八頭の演舞〉
神妙に変化する軌道の斬撃を八回。奇襲と迂回を兼ねた超高速で公爵のあらゆる方向を狙った。
しかし公爵はたった一度の大きな振りですべての斬撃を相殺した。
「それだけの力を得ながらも小細工は相変わらずだな」
「あいにく一生この剣術を使っていた。急に力を得たからといって剣術を変えられるわけではないんだ」
そして貴様が小細工だとあざ笑うその剣術が今日、貴様の首を切るだろう。
それを言葉にする代わりに、莫大な魔力を集束した斬撃で明らかにした。
――蛇形剣流奥義〈たった一つの毒牙〉
〈一頭竜牙〉と違い、たった一度の斬撃にすべての魔力を集中した奥義。
公爵は好戦的に笑いながら剣を振り回した。剣と剣が正面衝突した。
本来なら単なる力比べになっただろうが、そうはならなかった。
「む?」
公爵は異変を感じ、片方の眉を上げた。
激突の瞬間、私の剣に集束された魔力が公爵の重剣に浸透した。まるで毒が広がるように重剣の魔力を破壊し、重剣の刃まで直接攻撃したのだ。
その正体は目に見えないほど小さな単位で暴れる斬撃の束。直接触れた時にだけ徐々に浸透するように敵を破壊する毒の刃だ。
公爵は突然笑い、私の剣の刃を左手で握った。〈たった一つの毒牙〉の力が奴の手のひらをめった斬りにしたが、圧倒的な魔力がそれを擦り傷レベルに抑えた。
しかし私も無力に負けてばかりいる立場ではない。
「はああっ!」
刹那の瞬間に剣に大量の魔力を注入した。〈たった一つの毒牙〉の微細な斬撃が増幅された。公爵の手を破壊することはできなかったが、剣身を握った手の中を離させるほどになった。
――蛇形剣流奥義〈無数の一閃〉
――パロム式狂竜剣流奥義〈圧制の一剣〉
二つの異なる一閃が激突し、魔力を散らした。
一つは極限の加速の末に時空さえ曖昧になり、無数の斬撃が一つの一撃で重畳した絶技。一つは単純に巨大で圧倒的な力を剣一本に閉じ込め、力と重さですべてを圧殺する暴挙。
どちらも勝利を豪語できない激突は……あっけなく中断された。
再びディオスの方から飛んできた攻撃。外れたのか、それとも防御された攻撃の余波なのかは分からないが、中途半端に固まった魔力がここまで飛んできて撒かれたのだ。そのせいで一撃と一撃の激突が曖昧に終わってしまった。
「……これはムカつくぞ」
公爵はこめかみに怒りの証を見せながらディオスの方を振り向いた。
私たちにとっても肉眼で見える距離でもなかったし、途中で視界を遮る景色もあったが、あの巨大な魔力を錯覚するはずがない。
「大陸を海に沈める力があるとしても、それを精製して圧縮し、たった一人の個人に浴びせることこそ真の強者の尺度。見たところ最大出力もこのわしより弱そうなくせにつまらぬ腕で邪魔までするとはな。そんなにも自分の死を急き立てたいのか」
公爵はそう呟くとすぐに魔力を解放した。
莫大な魔力をただ解き放つだけの行為。よほどの人間や魔物ぐらいはこれだけで圧殺できるだろう。もちろん私には有意義な攻撃にはならないが、津波のようにあふれ出る魔力でしばらく押し出すほどの効果はあった。
そのように余裕を作っている間、公爵は本格的に体をそちらに向けて剣を上げた。
「小僧に戦いとは何なのかを教えてやろう」
――パロム式狂竜剣流奥義〈覇王の注視〉
巨大な重剣が真っすぐに崩れ、圧縮された魔力の線が空間を横切った。
極度に圧縮されただけでなく、芸術的なほど精製され柔軟に流れる魔力だった。巨大な力を凝縮したにもかかわらず、驚くほど衝撃波がなくきれいな突きだった。
まっすぐ伸びて行った突きがディオスの魔力に向かって進んだ。
もともと今日2回更新する予定だったのですが、個人的な用事ができて2回更新を明日に持ち越すことになりました。申し訳ございません。
最近、ずっと言っていたことを守れず、何度もこうなってしまい本当に申し訳ございません。




