出陣寸前
よりによってそうなるのね。そんな気がして歯を食いしばった。
状況Dは単純な暗号だ。けれど意味が単純だからといって、それが指す危険度まで簡単なわけではない。
なぜなら、それはディオスのラスボス化を指す暗号だから。
正確には状況D自体はディオスが現れたという意味に過ぎない。でもすでにラスボス化のための物を確認した以上、ディオスが現れたということはすぐにラスボス化するという状況だと判断した。
安息領の立場でもラスボス化していないディオスは役に立たないだろう。すでに安息領とのつながりによって逮捕され脱獄した彼であるため、政治的な使い道もあまりないし、個人の能力は言う必要もない。
この前投獄された時、密かに彼の魔力を測定してみた。リディアに早く敗れたことが刺激になったのか、『バルセイ』のこの時期より強くなった。けれど依然としてリディア一人でも圧倒できるほどに過ぎなかった。
そのような彼を安息領が有意義に活用できる方法はラスボス化だけだ。
私は頭の中で素早く計算を終えた後、口を開いた。
「申し訳ありません。急用ができました」
「安息領が現れたようですね。全国的に……いや、我が国だけでなく国外まで。そうですよね?」
「……よくご存知ですわね」
思念通信を盗聴したのかしら? それともトリアの耳打ちを盗み聞きしたのかしら?
瞬間的に私の眼差しが鋭くなったけれど、エリエラさんは穏やかに笑った。
「我が神様が教えてくださいました。テリア様と話をするとなると、途中でテリア様が忙しくなると」
「それも神託ですの?」
「似たようなものです。私たちが神託と呼ぶ以外にも、神様のお言葉を聞くことがあります。細かい仕分けは話が複雑になりますけれども」
それが何なのか率直に気になるけど、今はのんびりと知識を蓄積する場合じゃない。
「しばらく私たちだけで話をします」
了解を求めた後、私の友達全員に思念通信を繋げた。まず取り急ぎ状況を要約した内容を一度に伝送した後に話した。
[みんな、聞こえるのかしら? 急いでいるから簡単に話しますわ。想定していた中でほぼ最悪ですの。状況Dまで出ました。ディオスの方は私が対処するから、みんなそれぞれのポイントで――]
[ちょっと待って]
割り込む声があった。リディアだった。
リディアの声には思念通信なのに分かるほど感情が滲んでいた。
[リディアがディオスの方に行くよ。テリア、貴方は呪われた森に行ってね]
[え? 何言ってるの。今のディオスはラスボス化の準備を終えたはずだもの。私が……]
[いつまでもラスボスを貴方にだけ任せておくわけにはいかないじゃない。それに今の呪われた森は『バルセイ』にもなかった件じゃないの? リディアたちの中で一番強い貴方が行くのが正しいでしょ。あ、もちろん罠とかにはまらないように探索は徹底的にしてね]
リディアの言葉はありがたいけれど、私としては困った発言だった。
[ディオスはジェリアやトリアの時とは違うわ。私さえも一人では手に負えないもの]
リディアは確かに強い。『バルセイ』のこの時期よりも。でも今の彼女は『バルセイ』の最終局面の彼女ほどではない。
ラスボスと戦う最終局面では、すべての攻略対象者が世界権能を覚醒する。そして五人の勇者の血統ではないロベルを除いて、主人公のアルカを含めた皆が各家の二つの始祖武装をすべて覚醒する。
けれど今のリディアはまだ世界権能に至っておらず、始祖武装も過去ディオスとの決闘の際に覚醒した『武神の指輪』だけ。最終局面の攻略対象者でさえラスボスとの一対一は不可能なのに、今の彼女がディオスを一人で相手にできるはずがない。
それを説明しようとしたけれど、その前にリディアが首を横に振る気配が伝わってきた。
[大丈夫。秘策はある。……リディアも命を捨てようとしているわけじゃないもの。そしてリディアがディオスの奴を倒せなくても、時間を稼ぐだけでも意味はあるじゃない? だから大丈夫。シドも連れて行くつもりだし]
[はぁ? ちょっと待って、なんで俺?]
[怖い?]
[いや、そうじゃないけど。ただ驚いただけだよ。……まぁ、危ない所にお前一人だけ送るつもりはないからいいんだ]
いきなり初々しい反応を見せるシドが少し面白かった。状況さえなかったらゆっくり見物したはずなのに。
[……本当に大丈夫?]
[ええ]
リディアはためらわなかった。
言い争う時間もないし、リディアはむやみにあんなことを言う人ではない。彼女があんな風に言うということは確かな秘策があるということだろう。
それにシドが同行すればもっといい。
[分かったわ。じゃあそっちは任せる。でも肝に銘じてね、絶対に死なないで。ディオスはラスボス化しても自我がそのまま維持されるし、むやみに破壊だけを日常的に行うことはないだろうから逃げてもすぐに問題が生じることはないわよ。シド、いざという時は貴方の能力でリディアを連れて全力で逃げてちょうだい]
[分かった。リディアも死ぬつもりはないから貴方の言う通りにするよ]
[いい。リディアは俺が守る]
よし。最も重要な部分は任せた。
残りのポイントについてはケイン王子に分配を任せ、私は呪われた森にまっすぐ向かおうとした。
思念通信ネットワークに誰かが割り込んでいなかったら。
[緊急報告です! テリア様、北部のネグラス山脈でピエリ・ラダスの姿が目撃されました]
ちっ、本当に二人同時なのね。
イライラが込み上げてきたけれど、ネグラス山脈なら予想内だ。
[ピエリについてはこっちで対処するわ。もう方法は考えておいたから大丈夫]
短く伝えた後、私は立ち上がった。
「エリエラさん、ごめんなさい。話は次に続けてすることにしましょう」
そう言ったけれど、エリエラさんはなぜか真剣な顔で私を見た。
「申し訳ありませんが、私も同行してもよろしいですか?」
「え? 貴方がどうして?」
「私たちの神様がおっしゃったことを直接確認したいです。私自身は自分で守ることができますので迷惑はかけません」
私は無礼を押し切って『看破』の魔眼でエリエラさんを確認した。
そして頷いた。
「わかりましたわ。ただ、危険な行動はしないでください」
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