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会談と突発状況

「……良い評価はありがたいのですが」


 私は苦笑いを抑えきれないまま、少しため息をついた。


 こんな人をちゃんと納得させるには、やっぱりどういう事情があってどういうことが起こっているのかを少しは話した方がいいよね。


 しかし私の行動原理には『バルセイ』が深く関与しており、『隠された島の主人』についても簡単には言えないことがほとんどだ。秘密だらけの状態ではエリエラさんを納得させることはできないだろう。


 そう思っている間、私の傍でイシリンが口を開いた。


「敵の敵は味方って話があるでしょ。それと似たようなものよね」


「貴方は……?」


「イシリン。そう呼べばいいわ。テリアの協力者」


 イシリンはそう言っただけだ。


 不十分な説明だったけれど、あれこれたくさん言ってくれる気などないってのが露骨な態度だったためだろうか。エリエラさんも多くのことを質問しようとはしなかった。


「『隠された島の主人』の信奉者たちを利用しているという意味ですか?」


 エリエラさんの視線が抱いた疑問はイシリンよりも彼女の言葉に向かっていた。イシリンは視線に込められた疑問に頷いて答えた。


「結局『隠された島の主人』も邪毒神という点は違わないものね。私たちもそれをよく知った上での利用なのよ。奴らの助けを受けることはあっても、私たちが奴らの力を育てるようなことはしないわ」


 そう言うイシリン自身も邪毒神なのに。


 そんな気がして危うく失笑するところだった。やっとの思いで我慢してから代わりに穏やかな笑みを浮かべて見せたけれども。


「イシリンの言う通りですの。ある程度役に立つ部分があって彼らの力を利用する面はあります。けれど、私が邪毒神の信奉者たちに力を与えるようなことはしませんでした」


 嘘ではない。


 いろいろなことを経験し、今は『隠された島の主人』が協力者であることをある程度受け入れているけれど、そうすることができた背景には私が一方的に助けを受ける立場だという点もあった。


『隠された島の主人』の基本方針はあくまでも私を助けること。信奉者たちにも無条件の援助を何度も指示した。私が受けるだけの立場なら、少なくとも奴の勢力が大きくなるのに役立つわけじゃないので大丈夫だと思った。


 このような状況で、奴らが得られる利益はせいぜい討伐を避けることぐらい。それも悪くない収穫だけど、ギブとテイクを比べてみると採算が合わない。


 念のためその立場を利用して何か良くないことをしてはいないか裏調査もしてみたけれど、そんなこともなかった。


 エリエラさんの顔に興味の色が広がった。


「テリア様は『隠された島の主人』やかの邪毒神の信奉者たちがどんな者かよくご存じですか?」


「詳しいというほどじゃありませんけれど……どうしたんですの?」


「個人的にも、私たちの宗派でも興味を持っています。五大神教は邪毒神を無条件排斥すると誤解する方もいますが、実際はそうではないんですよ」


「あら、そうですの?」


「はい。好意的と言うほどではありませんが、普遍的な者たちとは違う姿を見せる邪毒神があれば研究してみるほどの意欲はあります」


 エリエラさんは「まあ、むやみに否定して憎む人も結構多いですけれど」と言って苦笑いした。


 ふむ。あの言葉が本気なのか、それとも私を欺くための罠なのかは分からない。でもどっちにしても私の対応が変わるわけじゃないので別に関係はないのだろうか。


 どうせ私がエリエラさんに詳しい話ができないのは別に彼女を信用していないからではない。誰にも言えないことが多いからだ。


 でもエリエラさんがせっかくやってきたのだから、これを五大神教とのコネクションの機会にするなら――。


「うむ?」


 その時トリアが小さな声を出した。私が振り向くと、彼女はすぐに手と頭で謝罪の意を表し、視線を逸らした。


 私に背を向けるためではなかった。突然魔力通信が入ってきたためだった。


 かすかな魔力の線が感じられた。気配と波長は私たちの邸宅の人だね。おそらく使用人がトリアに何か報告をしようとしているのだろう。


 ところが、トリアの表情を見ると、良い内容ではないようだ。


「申し訳ございません、お嬢様。ちょっとよろしいですか?」


「あら。ごめんなさい、ちょっと失礼しますわ」


 エリエラさんに了解を得て耳を傾けると、トリアが近づいてきて耳打ちをしてきた。


「安息領が活動を再開しました」


「状況は?」


 顔がこわばるのを自覚した。


 安息領がテロ活動を行うのはありふれたというほどじゃないけれど、トリアがこのように割り込むほどのことではない。私を敬愛し尊重してくれるトリアは大抵のことでは私に手間をかけないから。


 言い換えれば、トリアがあえて失礼を押し切ってこうしているということは大抵のことではないという意味だ。


 予想通り、トリアの表情は深刻だった。


「テリアお嬢様が伝えてくださった〝主要ポイント〟たち。そのすべてで同時に安息領の活動が観測されました」


「え?」


 反応は抑えたけれど、内心では心から驚いた。


 トリアが言った〝主要ポイント〟とは『バルセイ』で安息領が犯した事件の場所と、安息領のパターンおよび現状などを基にして、『バルセイ』とは関係ないけれどこの現実では何かを起こすかもしれない場所の総和。そのすべてで安息領が活動を始めたということは……。


「すべてのことを同時に進めるってこと?」


「情報収集の方ではその可能性を高く見ているようです。……そしてもう一つ」


 トリアはただでさえささやき声だったのにさらに声を低くした。念のため漏出まで繊細な魔力操作で遮断しながら。


 トリアの次の言葉は私をさらに緊張させた。


「おっしゃった〝主要ポイント〟の一つは、状況D。そしてリストから外されていた呪われた森にも奴らが現れたそうです」

読んでくださってありがとうございます!

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