表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

570/891

思いがけない訪問

 いろんなことを経験して、母上の厳しい訓練に悩まされてからもう数週間。


 ある日、誰かが私を訪ねてきた。


「テリアお嬢様。お客様がいらっしゃいました」


「え? 今日の予定はないんだけど?」


 私に仕えていたトリアが外に呼び出され、しばらく後のことだった。帰ってきたトリアが私に伝えた言葉に私は首をかしげた。


「はい。当事者も予約なしに突然訪ねてきたことに謝罪しました」


 ふむ。急に誰かが訪ねてくるようなことはしていなかったけれども。


 トリアの表情が淡々としているのを見れば問題になるような人じゃないようだけど、話すのを見れば私がよく知っている人でもないようだ。私の知らない人が予告もなしに突然訪ねてきたことはほとんどないのに。ケイン王子の方の人なら事前に連絡をしたはずだし。


 まさか安息領が私を奇襲しに来たのじゃないと……いや、安息領の奇襲や暗殺の試みのようなものはあるかも?


「身元は?」


「自分を五大神教の司祭と名付けました」


「五大神教が? なんで私に?」


 気がついたら私は眉間にしわを寄せていた。


 五大神教。邪毒神と違い、この世界の正統な神と呼ばれる五大神に仕える宗教である。全世界に広がっており、宗教としては似非宗教である安息領よりはるかに勢力が大きい。


 でもここ、バルメリア王国は宗教色彩が弱い方なので、五大神教の勢力もまぁまぁであるだけ。私との接点もあまりなかった。『バルセイ』でも比重がほとんどなかった上、かの者たちに力を借りる余地もあまりなかったので私も関心がなかったし。


 なのにどうしてその五大神教の司祭が急に?


「ご用件は?」


「直接お会いして申し上げることがあるとだけ主張しました。突然の訪問なので無理でしたら今後の出会いの約束でも取りたいとのことですが、どうされますか?」


「ふーん。貴方たちはどう思う?」


 私は椅子に座って膨大な書類を見ていたイシリンとロベルに聞いた。


 今日はいろいろなことを処理するために二人に手伝ってもらっていた。


「五大神教の司祭というのが嘘でなければ会ってもいいんじゃないかしら?」


「約束もなく突然訪ねてきたのは気に入りませんが、それだけ重要な内容かもしれません。まずは僕が代わりに行って話を聞いてみましょうか?」


 イシリンとロベルが順番に話した。


 ……ふむ。


「いや、大丈夫。すぐに会ってみるわ」


「よろしいですか?」


「三人とも護衛を兼ねて同席してちょうだい。万が一一つのことが起こっても、その程度なら大丈夫でしょ。今すぐ呼んでちょうだい」


「ご用意のお手伝いをさせていただきます」


 トリアが提案したけれど私は断った。室内の仕事なので私も久しぶりに軽いけど公爵令嬢らしいドレスを着ていたし、急に誰かと向き合うことがあっても恥ずかしいことがないように身だしなみはいつもきちんと保っているから。


 この部屋に応接のためのソファーとテーブルがあるので、書類だけ片付けてここに呼ぶことにした。身分上使用人であるロベルは私の後ろに立ち、イシリンは私の隣に座らせた。訪問者を呼んできたトリアも、再び戻ってきた時はロベルの傍に立った。


 訪問者は予想より人が多いと思ったのか驚いた様子だったけれど、言葉で指摘せず大人しく私の向かいに座った。


 外見通りなら二十代前半ぐらいに見える女さんだった。五大神教の司祭という話だったけれど、今の服装は平凡で宗教色が感じられなかった。印象的なのは水色の髪の毛がきれいな美人だということぐらい。


「お会いできて嬉しいです。テリア・マイティ・オステノヴァと申します。私を訪ねてこられたんですの?」


「お、お会いできて嬉しいです。五大神教のタラス・メリア教区を担当しているエリエラ・メイスと申します」


 私は上辺では微笑みながら、一方では注意深くエリエラさんを見た。


 五大神教で教区を受け持っているということは、それなりに地位のある司教という意味。その上、いくらバルメリア王国が宗教色が弱いと言っても、世界でも最も強力な強大国だ。そこの首都であるタラス・メリアの教区を担当している人は……若くてお人好しのような外見をそのまま受け入れることはできないってことね。


 まぁ、若いといっても私よりは年上のようだけど。


「どんなご用でおいでになりましたか?」


「お聞きして確認したいことがあります」


 エリエラさんの表情や口調は淡々としていたけれど、しっかりした感じがした。


 一応敵意はないようだけど慎重になっているようね。


「ひょっとしたらオステノヴァ公女は『隠された島の主人』という邪毒神と関係がありますか?」


「ただテリアって呼んでください。いちいちオステノヴァ公女と呼ばれるのは長いですし、発音するのも面倒ですからね。私はそんな格式があまり好きではありませんもの。……で、質問内容についてですが、どうして急にそんなことを?」


 あれこれと『隠された島の主人』と関係があることは否定できない立場だけど、それが対外的に知らされたわけではない。私の友人たち以外に、私の活動に『隠された島の主人』が関与していることを知っているのは奴の崇拝者たちだけだから。


 まさかその崇拝者たちが五大神教と関連があるわけではないだろうし、たとえあるとしても今になってこのような質問をしに来ることはないだろう。来るならとっくに来ただろうし。


 エリエラさんは少し悩んでいるようだったけれど、もう一度言った。


「実は我々に神託が下されてきました」


「五大神が神託を下したということですの?」


「はい。珍しいことではありませんので、我々信徒たちは皆注目していますが……少し混乱している状況ですので」


 混乱? どうしたんだろう。


 正直に言って、五大神教については私もよく知らない。『バルセイ』でも五大神や信徒たちはほとんど比重がなかったし、私自身がこの世界で生きてきてもあまり接点はなかったから。正直五大神教については常識としてちょっと知っているだけで、内部事情とか構造とかも知らないしね。


 ただ心当たりならある。


 急に私を訪ねてきてこんな質問をした。少なくとも、その神託が私に関係していることは確かだろう。おそらく『隠された島の主人』についての内容もあるだろう。


 問題はそれが肯定的なのか否定的なのかだけど……どうして五大神教内が混乱するの?


 その質問の答えはエリエラさんが話してくれた。


「実は……相反する神託が同時に下されました」

読んでくださってありがとうございます!

面白かった! とか、これからも楽しみ! とお考えでしたら!

一個だけでもいいから、☆とブックマークをくだされば嬉しいです! 力になります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ