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エピローグ 真の激動の予兆

 オレがなぜこいつをあの御方のもとへ案内しなければならないのか。


 どうすることもできないほど不満だった。この不満がつまらない部下によるものだったらそいつをずたずたに引き裂いて殺すことで解決できただろう。


 しかし今回の相手――歩く人間型の邪毒の塊にはそうはいかない。


【テシリタ・アルバライン。安息領の実質的なトップであるあんたが案内役だなんて、本当に贅沢だね】


「黙れ。そして我々の真の指導者はあの御方だけだ」


【あいつは安息領の運営に関与しないでしょ。実質的に安息領を率いる首長はナンバーツーのあんただし】


 あの御方にあいつだなんて。このような妄言を吐く者を切り裂くことができないのが本当に恨めしい。


 しかしオレにできることはただ怒りで震える拳を抑えることだけだった。


「貴様はオレを挑発しようと来たのか?」


【あら、ごめん。別にそんな意図はなかったけれど、あいつを狂信するあんたにはストレスだったものね】


「分かったら黙れ。そもそもなぜ貴様がここに来た?」


【黙れって言いながら質問に答えろってこと? そんな矛盾したこともワタソなら不可能じゃないけど、正直不合理だと思わない?】


 チクショウ。一言も負けないな。


『隠された島の主人』。偉大なるあの御方をうんざりするほど妨害してきた憎らしい邪毒神。奴の分身体が突然ここに現れたのはわずか数分前だった。


 邪毒神とはいえ、本体の力のごく一部に過ぎない分身体。その上バランスがリセットされた今なら奴が使える力は大したものではない。この分身体くらいなら一撃で破壊できるだろう。


 だが些細な分身体を破壊しても意味がない。それに今回の案内は他の誰でもないあの御方の指示。あの御方が直接指示した以上、こいつはあの御方の客になる。


 そのような事情を知るはずがないのに、奴はまるでオレを挑発するようにずっとくだらないことを言い続けた。


「……到着した」


 ずっと無駄に声をかけていたくせに、いざ到着すると奴は何も言わずにあの御方が待っていらっしゃる部屋に入った。


 ……あの御方にあの生意気な邪毒神を早く打ち殺すべきだと進言しなければならないようだな。


 決して、決して個人的な感情のためではない。沸き上がる怒りのためではない。


 ……実はオレの手が震えている理由が怒りだけではないということを、認めたくないが切実に実感した。


 オレが崇める神はただあの御方だけ。『隠された島の主人』など、あの御方の格に及ばない下等な神に過ぎない。


 ……そのようにずっと自分を説得するように繰り返していなかったら、案内という簡単な役さえ果たせずに座り込んでいただろう。


 怖かった。


 数百年間オレが感じた恐怖はあの御方から捨てられたくないということだけ。それ以外のことを恐れたのはもう覚えてもいない昔のことだ。


 あの御方の格に比べようがないとしても、神は神。まるでその事実をワタソに周知させるかのように、奴は終始恐ろしい威圧感を発散した。


 オレが案内役を引き受けることになったのもその威入感がすべての部下を気絶させたためだった。


「……凄まじい奴め」


 そのように吐き出して虚勢を張ることだけがオレにできる最大の抵抗だった。




 ***




「突然やってきて乱暴を働くなんて。らしくないことをするね」


【世界に暴悪を働いている奴には聞きたくない】


 冷たいねぇ。


 ワタソに対する感情が良いはずがない奴だし、ワタソはどんな感情をぶつけて来ても別に構わないけど。


 しかし、このように堂々と歩いてきてやり取りを試みたのは初めてだ。長い歳月の間、直接的な交流とはお互いを殺し合うための戦いだけだったから。


「で? 急にやらなかったことをした理由は?」


【何のつもりでトリアを暴走させた?】


「たかがそれを聞くために直接来たって?」


 半分は戸惑い、半分はドン引きする気分だった。質問の内容も、その質問のために来たという事実も見慣れない。


 でも『隠された島の主人』の態度は真剣だった。


【この質問の答えを満足に得られたら、今日はこのまま帰るよ】


 目の前の分身体に目に見える目鼻立ちはなかったけど、まるで鋭い眼差しがワタソをじっと睨んでいるような気がした。


 これは本気みたいだね。


「まぁ、いつもと同じよ。今さらワタソの行動原理が変わるわけがないじゃない?」


 率直に言ってくれる理由はないけどね。


 実はもう計画を変えたけど、敵にそれを教えるわけがないじゃない。


 そのように心の中で密かに笑っていたけど、『隠された島の主人』はそんなワタソをじっと眺めて短く話した。


()()()()()()をまた作るということね】


「!」


 間違えた。反応してしまった。


『隠された島の主人』は【ふっ】と短く笑って立ち上がった。そして別れの一言もなく煙のように消えた。


 奴がいなくなるやいなや口を開いた。


「テシリタ」


「はい」


 呼ぶやいなやテシリタが空間転移で来た。


 テシリタはいつものようにひざまずこうとしたけど、ワタソの顔を見るとまれにも当惑した。


 鏡を見なくても分かる。今ワタソの表情が深刻だということを。


「計画を変更する」


「はい? 急になぜですか?」


「事情ができた。全信徒たちを準備させて。そしてピエリとディオス・マスター・アルケンノヴァを連れてきなさい。今すぐ」


 テシリタは直ちにワタソの指示に従って魔法を行使した。


 しかし戸惑いを隠せず、ちらちらと横目で見ていた。


 ワタソの目的と計画の全貌を知る者は誰もいない。でもワタソの代理人に他ならないテシリタにだけは一部を教えてくれた。


 だからこそワタソの命令の意味を知っている。そして知っているからもっと当惑するだろう。


「……一発食らったね」


『隠された島の主人』。うんざりする悪縁のあいつだから、ワタソの動きの違和感を見抜いたというのか。


 ワタシの動きに若干の違和感を感じる可能性は思ったけど、まさかこんなにピンポイントで核心をつくとは。やっぱり油断できない奴だ。


 しかし、だからといってワタソの目的を達成できないわけではない。


「ワタソの目的が分かったのは予想外だけど、それをワタソにバレたのは君のミスだよ」


 もちろん奴自身も知っているだろう。


 不本意ながらスピード合戦になってしまったけど、負けるつもりはない。

読んでくださってありがとうございます!

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