公爵たちの準備
「おっしゃることは理解しました」
慎重に言い出す。
団長の方針に異議を申し立てるのではない。私も団長の意見には同調するところがあるから。だがそれは結局力で他国を征伐する行為であり、それにともなう反発と名分の問題が我々を妨害するだろう。
完璧ではなくても、それを乗り越えるには最低限の言い訳が必要だ。
「しかし他国の主権を侵すのは敏感な問題でございます。特に民族主義が強い国なら民の反発も非常に激しいでしょう。たとえバルメリアの恩恵を与えようとしたとしても、いざそれを受ける民の反発が深刻ならば効果がないかもしれません」
「今すぐはそうするしかない。だがそれは永遠ではないぞ。その地域の支配層を既存の王侯貴族として適当に維持し、名目上の自治権をある程度認め、この国の恩恵をゆっくりと浸透させれば良い。結局民というのは自分の口に入る恩恵に違いが生じれば、自然にもっと大きい方に向かって傾くものだ。その最も大きな証拠がまさにわしの目の前にあるのではないか」
団長が私に近づいてきた。巨大な体格が近づいてくるだけでも威圧感があった。
しかし団長の雰囲気は全く重くも怖くもなかった。むしろ一抹の暖かさが感じられた。
「バルガ・ルーデンス・アルマンスト。お前の故郷であるアルマンスト辺境伯領――旧アルマンスト王国を征伐して吸収したのが我が父の代のことだった。わしがちょうど公爵になった時もアルマンスト辺境伯領はまだこの国への反発心が強かった。だが今はどうだ? わしよりもお前の方がよく知っているはずだ」
「はい。私が覚えている限り、アルマンスト辺境伯領の民のうちにバルメリアに対する反感を強く持つ者は、私が幼かった頃の老人階層ぐらいでした」
「そしてお前はこの国の忠直な騎士だ。それがわしの答えだ」
「……はい」
「どんな目的があろうと、戦争は血を流すことになる。だが我々の力で庇護できる民を庇護できなければ、彼らは他の国や魔物の侵略で苦しむことになるだろう。アルマンスト王国が併合された後に死亡者数がむしろ減ったという統計資料がこれを証明する。違うか?」
「いいえ。おっしゃる通りです」
「良い。他の疑問はあるか?」
「ありません」
団長の言葉を結果論だと言うこともできる。後の人々のために今の人々を苦痛に陥れることだと非難されても否定はできないだろう。
だがその先に存在するのは確かな大義。それを改めて感じ、私は身震いした。少しでも疑いを抱くのが恥ずかしい。
「三時間後、第二番万人隊の全兵力を連れて出征する。第一番万人隊と第三番万人隊は待機するように伝え。準備しろ」
「御意」
その気持ちを抱いて、私は軽くなった足取りで団長室を出た。
「……あまりまっすぐすぎるバカは利用されるものだ。バルガ、お前も早く気付くようになるのが方がいいぞ」
最も忠実な部下が出て行った後、わしは再び窓の外に視線を向けた。
バルガに言ったことに嘘はない。しかし本心を余すところなく明らかにしたわけでもない。公爵たる者として本心を生半可に明かす愚行を犯すのは当然禁物だが、それ以上に言ってはならないことがあるからだ。
相手を完全に支配して操り人形にすることだけが『支配』ではない。時には雄弁と共にほんの少しの思考誘導を混ぜるだけでも相手を自分の思い通りに動かせるものだ。
「わしの特性が『支配』であることを知りながらも、わしの前に立つことにあんなに疑いがないとは。年を取っても心が相変わらず表と変らないように若い奴だな」
部下を思う上司としてバルガの純真さが心配になるのは本気だ。しかし利用価値のある駒を使わずに捨てておくバカなことをするつもりはない。
わしもそろそろ準備をするようにしようか。
***
「……そうか。フィリスノヴァ公爵がついに動いたんだね」
邸宅の執務室でいろいろな資料を読破している最中に入ってきた報告。予想通りの内容であまり感興はなかった。
「閣下、よろしいですか?」
「もう予想したから。むしろ予想しておいた可能性の中では三番目の速さだね」
「やはりすごいですね。さすが世界のあらゆる情報を握っているオステノヴァ公爵閣下らしいです」
「いったいその誇張だらけの評価はどこから出てきたんだ? 負担になるからやめてよ」
報告してくれた部下を軽く叱責する一方、魔力の映像を目の前に召喚した。
軌道に浮かぶ衛星魔道具で月光騎士団の駐屯地映像を撮影し続けていた。もちろん映像を監視する役割は交代で専担する人員を別に選んでおいた。今報告してくれた者が現時間の担当者だが、このように報告が入ってくれば僕の方でも映像を直接見られるようにしておいた。
「ふむ。第二番万人隊だけか。事前資料としてはもう少し動員できたはずなのに」
「中央の戦力を見下しているのでしょうか?」
「それはないだろう。もちろんフィリスノヴァ公爵はたった一人でも反逆の目的を果たすことができる化け物だが……ふむ」
僕はしばらく考えてから横を向いた。僕の愛らしい妻のベティが準備をしていた。
「どう思う?」
「バックアップのための兵力でしょう。おっしゃる通り、フィリスノヴァ公爵は決心さえすれば単身でも目的を達成する能力を持つ者。ですが、いくら彼だとしても一人で広範囲の領域をすべて制御することはできません。周辺を制圧し、〝敵〟の行動を制限するための軍でしょう」
「ふむ。僕も同意する。それに加えて、反逆の意思をはっきりと誇示しようという意図もあるかな。でも……多分反発もすでに予想しているはず」
ベティは眉をひそめた。
「テリアが邪毒神から伝言を受けたのはわずか数日前ですわ。予想より圧倒的に速い挙兵自体が抵抗を最低限に抑えようとするためじゃないですの?」
「それでも抵抗があるということは予想しているだろう。四大公爵家をよく知っている人だからね」
衛星魔道具の映像をずっと見ながら、僕は思わず冷たくなった声で話を続けた。
「多分、後に残したのは予備だと思う。第二番万人隊が全滅した時のための」
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