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フィリスノヴァ公爵

 月光騎士団万夫長。


 国を守るために騎士団という名誉ある組織に入団して昼夜を問わず努力した結果、この職位に到達したことは私の誇りだ。


 各騎士団のトップである団長と、その補佐であり有事の際の代理人である副団長のすぐ下は五人の万夫長だけだ。傲慢なことを言うつもりはないが、私の努力が報われたと思えば自負心があった。


 そんな私なので、守るべき民の一部に剣を向けることに抵抗感があった。


「団長。準備ができました」


 団長室のドアを叩くやいなやドアが自然に開いた。


 最近団長室をよく訪れているが、見るたびに慣れない。広い部屋の中に物は机と椅子一つずつだけで、飾りも何一つない。唯一生活感のある要素はほこり一つないという点だけ。それさえなかったら実使用をするのかさえ疑っただろう。


 だがこの部屋の主がここにいる時は、そんなことなど何の関係もなかった。何よりも部屋の主の存在感が圧倒的だから。


「来たか」


 椅子の後ろに立って窓の外を眺めていた男が私を振り返った。


 人間であるかどうか疑わしいほど背が高く、筋肉が充満している以上に爆発しそうな肉体。ハンサムだがごつい野性的な顔が藍色の髪の毛と瞳に会えばとても冷たい印象を与えた。オーダーメイドの騎士団長服がなかったら胡乱者と疑われるかもしれない。


 パロム・フュリアス・フィリスノヴァ。この月光騎士団の団長であり、バルメリア王国を治める五人の〝王〟の一角であるフィリスノヴァ公爵である。


「準備をできた、か。その準備がどこまでを意味する?」


「ご指示の通り、私の第二番万人隊は今すぐにでも出征可能です。そして第一番万人隊と第三番万人隊はそれぞれ千人隊を一つずつ借り出せる状態で、各万人隊全体が動けるようになるにはあと半月程度が必要になると予想されます」


「素晴らしい。ご苦労だった」


 団長はすぐにドアに向かって動いた。しかし私がその前を塞ぐように片方の膝を屈し、団長は冷たい視線で私を見下ろした。


「どうした」


「僭越ながら団長。一つお伺いしてもよろしいでしょうか?」


「なぜ我々の剣が民を狙うのかを問うのか」


「……はい」


「ふむ」


 団長は再び振り向いて窓に向かった。


 今は真夜中で、窓の外から見えるのは明かりの消えた騎士団の施設風景だけ。その中で何をご覧になっているのかは私にも分からない。


 何か意味深い思索をしていらっしゃるのか、それともただ眺めているのか。この御方の頭の中が分からないのはいつものことだ。


 しかし騎士団長として本分に忠実な御方だということだけは疑ったことがなかった。


 ……無論、いつも理想的なことばかりあったわけではない。


 騎士団も常に完璧であるわけではなく、守れなかったことも確かにあった。特にアルキン市防衛戦は我ら月光騎士団の汚点として歴史に残った。大英雄ピエリ・ラダスの変節要因ということが明らかになった今はなおさら。


 だがそのアルキン市防衛戦でさえ、騎士団がレアメタル鉱山に兵力を投入した理由は明らかにあった。


 単なる利権の問題ではなく、そのレアメタル鉱山が大きな打撃を受けていたら国のすべてに影響を及ぼしただろうから。特に医療魔道具と騎士団の兵器魔道具の主材料のほとんどがそこから生産されている。鉱山の生産が途切れたら医療と魔物討伐および国家防衛の両方に巨大な悪影響がもたらされるしかない。


 私が万夫長になったのはつい最近のことだが、月光騎士団に所属するのは古い。自分で言うのはちょっとアレだが、私はアルキン市防衛戦にも参戦した古参だ。そのため、団長の決断を長い間近くで見守ってきた。


 団長は長い思索の末、再び口を開いた。


「この国はもっと大きくなり伸びていかなければならない。わしがそう言ったことがあった。覚えているか?」


「新入の入団式のたびにおっしゃることじゃないですか。忘れたくてもそんなに頻繁に聞くと忘れられません。会食の時におっしゃったこともありました」


「その理由が何なのかも知っているか?」


「バルメリアの強い国力でより多くの人を庇護すべきだ。いつもそうおっしゃっていましたね」


 団長が頷いた。表情は依然として硬かったが、少なくとも不愉快にした返事ではなかったようだ。


 だがそれがすべてだったら最初から口にも出さなかっただろう。そう思って次の言葉を待った。


「それは事実だ。だが十分ではない」


 団長が腕を上げた。そして窓に向かって伸ばし拳を握った。まるで窓の外の風景を手に握るように。


「豊富な資源。強力な人材。レベルの高い教育。この国は祝福された。完璧ではないが最も完璧に近い国だ。そのような我が国の甘い汁を吸うために同盟という形で阿る国も多い」


 これもよく耳にした話だ。


 でも今日はどうやらその後の話があるようだった。


「そんなくせに危急な時だけ我々の力を借りようとする者が多い。ムアルタ公国だけを見てもそうだ。自主と自治を主張するくせに、自分たちに手に余る時だけ我々の義務を主張する。そうするなら、いっそすべての統治と守護を我々が引き受けるのがより良い道だと思わないか?」


「……そうです」


 民の暮らしの結果だけを見ればその通りだ。治安も生活水準も格が違うから。


「それにもかかわらず為政者共は自分たちの民は自分たちが治めると言いながら合併を拒否する。まったく笑わせる論理だ。民族や国のアイデンティティなどが民を満腹させ安全にすることはない」


「お話は理解しました。ですがそれが今回の出陣と何の関係がありますか?」


「かつてバルメリアは積極的に膨張し、多くの人間を受け入れていた。だがある瞬間からそれが止まった。わしはそれを再開しようとしたが、これに反対する者が多い。そしてその反対の声が最近急激に大きくなる兆しが見える」


 団長はその部分で私を振り返った。恐ろしいほど強い意志が込められた視線だった。


「わしはその臆病者共を一掃し、この国が再び本来の義務を果たすことができるようにするつもりだ」

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