トリアと筆頭
どれくらいここにいただろうか。
光は天井に設置された魔力の照明一つだけ。明るさも暗い上、ごつい洞窟のような場所にずっと閉じ込められているだけのため時間の感覚がない。
いや、実は外とつながっていても意味はなかっただろう。
「うっ……ああぁぁあッ!」
まるで体の奥深くから炎が燃え上がるような激痛に身もだえる。
とても我慢できない激痛だったが、それ以上に我慢できないのはこの炎が外に噴き出すことだろう。
「わ、私は……私は……」
私の名前はトリア・ルベンティス。誇り高きテリアお嬢様のメイドたる者。
なんとか自分自身を忘れないために何度も自分が誰なのかを繰り返したが、これもどんどん限界に達している。
ドクン、ドクンッと。体内で脈打つ巨大な力。すでに私自身が本来の姿をどれほど維持しているのか、どれほど怪物の因子に侵食されたのかも分からない。
「よく粘ってるね。正直、驚異的だよ」
「……?」
急に聞こえてきた声に辛そうに振り返った。あの声は……。
「安息……八賢人の……」
「はい、筆頭でーす。それより話す力も残っていた? 素敵なもん」
力が入りにくい顔で何とか筆頭を睨みつけると、筆頭は露骨に笑いを爆発させた。
「貴、様……」
腕をなんとかせいぜい動かす。右手で床をついて、続いて左手を床に当て、立ち上がろうとするように構える。しかし腕に力を入れた瞬間、体の中の鼓動が大きくなった。私は血を吐いてまた床に倒れた。
筆頭は私の前にしゃがんだ。
「無理しないでよ。すぐにでも暴走しそうじゃない」
「貴様が……そうなるように……」
口だけの反抗は意味がない。その事実を痛感して歯を食いしばった。
『バルセイ』で私がラスボスになったのは安息領のレースキメラの素材を大量に吸収したから。私の『融合』でなんとか巨大な力を受け入れ……それでテリアお嬢様に復讐するためだったと聞いた。
その時すでにテリアお嬢様は亡くなった状況だった。でも取り返しのつかない所まで行ってしまった私はその事実を知る前にその道を選んだ。
それが可能だったのは……私の特性が『融合』だから。
違いは『バルセイ』では自らそんなことをしたけど、今の私は当然自発的にそうはしない。でも人の魔力を強制的に活性化させる方法はいくつかある。安息領はそれで私にレースシリーズの因子を大量に注入した。
筆頭は必死に抵抗する私を見てプッと笑い声をあげた。
……深くかぶった頭巾のせいで顔は見えないけど、音だけでも人を怒らせる才能があるね。
「でもジェリアみたいになれるっていう期待も少しはしてたよね?」
「……」
その言葉には反論できなかった。明白な事実だったから。
人の魔力を強制的に活性化させるのは自らするよりは力が落ちる。だからレースキメラの因子が注入されても私が抵抗したら融合力が劣り、力をある程度残したまま元に戻るかもしれない……という期待も少しはあった。
もちろん暴走を避けることはできず、その後始末をお嬢様に任せる最悪の選択肢だが……その借金はお嬢様の大業を助けることで返せばいい、と。本気で思っていた。
でも実際に経験してみたら分かった。これは私が耐えられるものではない。
暴走した私の力がどの程度になるかは分からない。でもお嬢様に余計な苦労をかけるというのは同じだろう。そして私が元に戻れるとは思えない。体の侵食が続けば根本まで変質するという予感がする。
そんな考えをしながら頭を下げていた私のあごに筆頭の指が触れた。
「……それでもこれは予想外だよ。ここまで耐えられるとは思わなかった」
「じゃあ、諦め、ろ……!」
「それはダメだよ。正直に言えば結果がどうなるかは関係ないけど、結果を出すこともできず可能性を捨てることはできない」
筆頭はそう言った後、懐から何かを取り出した。視界がぼやけてよく見えないけど……漆黒の宝石、か?
「また……魔物を入れるという……のか?」
私の侵食を加速するために魔物の因子を注入すること。すでに何度も経験した拷問だ。でもそれとは別に、私は緊張した。
安息八賢人の筆頭たる者があえて直接来てこのようなことをする。ということは前と同じレベルではないだろう。暴走を誘導する方式が違ったり、注入する因子の格が違ったり。
筆頭は楽しそうな声で話した。
「実はテリアが邪毒獣を討伐した時、その遺体の一部をピエリがこっそり回収してくれたんだよ」
「!?」
見なくても分かった。私の顔が青くなったということを。
筆頭はそれが面白いように笑いながら宝石を誇示するように差し出した。
「心配しないで。とても小さな欠片だし、すでに死んだから生前の力にははるかに及ばない。まぁ……それでもこの世界の魔物の中でこれより優れた素材はないけど」
「貴様は……」
自分で意識するよりも先に口が勝手に動いた。
あれを私に注入するつもりだということはあえて聞かなくても知れた。あれを注入されたらもう耐えられないということも。
でも諦めるつもりはない。暴走を拒否するのはもう不可能になっても……その後を準備するのは別物だから。たとえこの後があるかどうかわからないとしても、終わるまで全力を尽くさないとお嬢様に面目が立たない。
「何のために……こんなことを……やるんだ?」
「ふむ。別に好きでこんなことをしているわけじゃないよ。嫌いなわけでもないけど。強いて言えば……そうね」
筆頭は魔力で私の体を持ち上げ、黒い宝石を私の胸元に突きつけた。
魔力のスパークと共に宝石が自分の体に吸収される感覚。そしてそれに合わせるように意識が遠ざかっていく中で、筆頭の声が最後に耳の中に響いた。
「ここでするすべてのことは目的のための手段であるだけだけど……どうせなら悲劇が大きくなればなるほどいいんだよ」
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