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現実と推測

 王家と四大公爵家。そのように区分してはいるけれど、王と公爵の間に絶対的な上下関係はない。


 そもそも彼らの起源はバルメリアを建国した五人の勇者。彼らのリーダーは始祖バルメリアじゃなく、我が家の先祖である始祖オステノヴァだった。そして王を決める時も始祖オステノヴァの一方的な譲歩の後、互いに合意で決めたに過ぎない。


 本来公爵という爵位は私の前世の世界である地球でも特別なものだった。この世界の公爵は地球のそれとは違うけれど、位相は大きく変わらない。いや、むしろ各自が自分の領地の王そのものだ。


 バルメリア王国はいわば王家と公爵家が集まって構成された連合国。ある意味、フィリスノヴァ公爵の反乱という言葉も合わないかもしれない。この国の公爵にとって、他の公爵領や王家直轄領を攻撃することは反逆よりは同盟国を侵略することに近いだろうから。


 もちろん、だからといって同じ国だという意識が全くないわけでもない。


「フィリスノヴァ公爵は意外と愛国心が強いですの。そして自分の祖国が強くなることを願っています」


 知らずに聞けば突拍子もないことにしか聞こえない言葉だったけれど、ケイン王子は核心を正確に読みこなした。


「つまりフィリスノヴァ公爵は自分の主導でバルメリアをより強めにしたい。その手段として周辺国を征伐する強力な力を求めるということですか?」


「その通りですわ。以前からかなり強硬な意見を提示しませんでしたの?」


「……言われてみればそうでした」


「まぁ、それにしても反乱という暴挙にはいろいろな理由がありましたけれども」


 実際に『バルセイ』ではいろいろなことがあったけれど、要は自分が主流ではなくなったためだった。


 本来フィリスノヴァ公爵は政界で最も声が大きい。そしてハセインノヴァ公爵が消極的賛同者という点に力づけられて最も強力な公爵だった。保守能力主義派を事実上一人で牽引するほどだったから。


 そんな彼が反乱を起こしたのは目の前の現実じゃなくもっと未来、自分の発言力がますます弱まることを予測したためだけど……その話は長過ぎるから今言う必要はないだろう。


「とにかく、この現実で彼が動く理由はある程度見当がつきますわ。対処は『バルセイ』の記憶に基づいて取っても大きな問題はありませんでしょう。具体的なことは資料としてまとめてお渡しします」


「ふむ。私はフィリスノヴァ公爵の方を引き受ければよろしいですか?」


「殿下が王子として持つ力と規模を最もうまく活用できるのはそっちの方でしょう。もちろん殿下が直接乗り出して公爵の反乱軍を防ぐことにはなりません。その役割は他の人がするから」


「フィリスノヴァの反乱軍を防ぐ役割……ふむ。誰だか分かる気がしますね。テリアさんはトリアを救出しに行くのですか?」


「ええ。おそらく私が訪ねる頃には安息領がトリアをラスボス化させておくでしょう」


「それにしては落ち着いていますね」


「……落ち着いてる?」


 その瞬間、私が持っていたティーカップの取っ手にひびが入った。ケイン王子はそれを見て苦笑いした。


 あら。思わず感情を抑えきれなかった。


 私は恥ずかしくて咳払いをして話題を変えた。


「ゴホン。それにしても、邪毒神の本体に出会う前に『バルセイ』の記憶を見たっておっしゃいましたでしょうね?」


「あ、はい。私の能力成長に刺激を与えようとする目的のようでした」


 ふむ。ケイン王子が対象なのは初めてだけど、あんな行為自体は初めてじゃないわね。


 そう思っているうちに、私の後ろでずっと黙って立っていたロベルが手を上げた。


「関係がありそうですので無礼を承知で申し上げます。僕も同じことを経験しました」


「貴方も?」


「はい。帝国軍を制圧した後に帝国の首都に入ることになったのですが……」


 ロベルは帝国での経緯を手短にまとめて聞かせてくれた。


 邪毒神が見せたのは大体予想通りだけど、その前後の過程や邪毒神の能力はかなり印象的だった。ケイン王子もそう思ったのか、曲がった人差し指を口に当てたまましばらく何か悩んでいるようだった。


 ロベルは私たちの反応を見て眉をひそめた。


「テリアお嬢様。その邪毒神たちについてですが……」


「私たちと関係のある者たちかもしれないって?」


「……はい」


 ケイン王子は目を上げて私を見た。言ってはいないけど、多分ロベルと同じことを考えていたんだろう。


 私は思わず目を閉じてうーんと短く呻いた。心当たりがないわけじゃないけれど、率直に言って微妙なんだよ。


「実はジェリアも似たような話をしていました」


「ジェリアが? いつですか?」


「初めて北方の大陸に行った時、邪毒神の片鱗である剣を見てからでした」


『あの剣、ボクの冬氷剣に似ている感じがするぞ。修飾語に冬天が入るのもそうだし、もしかしてボクと何か関連がある存在である可能性もあるのか?』


 ……正直、そのような可能性を考えていなかったわけではない。


『隠された島の主人』の連中は合わせて六人。『バルセイ』の主人公と攻略対象者の数は六人。その上、邪毒神の修飾語はすべて主人公と攻略対象者の特性の名前が含まれている。


 最初は深く考えなかったけれど、『隠された島の主人』が『バルセイ』について知っていることを知ってからは真剣に考えるようになった。


 そりゃあ……正直、露骨すぎでしょ。人数はありふれた偶然だけど、修飾語を露骨に表しているのは本当に意図的だから。その露骨な点のため、むしろ疑いが深まったほどだ。


 もちろんそれ以外にも現実的に彼らとの関連性を疑うような部分は多いけれども。


「露骨すぎてむしろ疑わしくもありますし、その他にもいろいろ問題がありますからね」


 たとえば、彼らがアルカと攻略対象者たちの未来の姿であり、何らかの手段で邪毒神の形を取ったまま過去に来た、とすれば。


 まず、アルカという攻略対象者全員が神になったという仮定自体が非現実すぎる。けれど理論上不可能なことではない。そして私が前世の私が生きていた時点の地球に分身を送ったことがあるから、過去に行くことも可能ではあるだろう。


 でも私が過去に行ったことがあるからこそはっきり言える。今のようにこの世界に干渉することは不可能だって。

読んでくださってありがとうございます!

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