経験したことの話
ロベルの胸に手を当てた。ロベルは顔を赤らめながら少し戸惑ったけれど、私の顔を見るとすぐに落ち着いてきた。多分私の表情が真剣だからだろう。
手のひらを起点にロベルの体を検査した。さっきからかすかに邪毒の気がしたけど、検査してみたらはっきりわかった。何か邪毒の影響を受けるようなことがあったに違いない。
「ロベル。何があったの?」
「それは……」
ロベルは口を開いたけれど、彼が何かを言う前に突然大きな魔力の反応が感じられた。わずか十歩ほど離れた所に突然光の柱が出現したのだ。私とロベルは直ちに警戒態勢を取った。
しかし、その中から現れたのは知り合いの顔だった。
「ケイン王子殿下?」
「ちょうどおられたんですね。良かったです。話したいことがあって参りました」
ケイン王子が空間転移で現れた。
それはすぐに理解したけれど、護衛をたった二人連れてこうやって現れたというのは急な用件ということかしら。表情も何か焦って見えるし。
王子である彼を外に立たせたまま話をすることはできず、ロベルの話も長くなりそうなので、とりあえず中で話をすることにした。
***
「邪毒神たちの本体に会ってきたんですって!?」
ケイン王子の爆弾発言を聞いて、私は持っていたティーカップを落とすところだった。
ケイン王子からもかすかに邪毒が感じられたので、ロベルと似ているかもしれないと思って人員を制限した。今応接間にいる人は私とロベルとケイン王子、たった三人だけ。
その判断は正解だったようだけど、相談の内容が想像を絶してしまった。
「いや、どうしてそんなに!? 分身じゃなくて本体!? 本当ですの!?」
「テリアさん? とりあえず落ち着いてください」
「あっ………ごめんなさい、見苦しい姿をお見せしましたわ」
思わずテーブルの上に身を乗り出したまま急き立ててしまった。
恥ずかしくて咳払いをしてまた座ったけど、ケイン王子は優しく笑った。
「いいえ、むしろ意外な一面が可愛かったですよ」
「お世辞は結構ですわ。それよりどうしてそんなことに?」
ケイン王子は最初から詳しく説明してくれた。王城の禁書庫についてまで話したことには驚いたけれど、その後の話に驚きすぎて正直禁書庫などは頭の中に残らなかった。
「『隠された島の主人』の領域にいらっしゃったって……それでも生き残られたのが本当に幸いです」
「私でも奇跡だったと思います。ですが彼らの姿を認識できなかったのは残念です」
「それは仕方ないですわ。それよりトリアの位置を教えてくれたのは正直ありがたいですの。でもフィリスノヴァ公爵がもうすぐ動くって……」
「彼が『バルセイ』のラスボスだったとは聞いたのですが、具体的にどのように行動したのかは聞いていませんね。どんなラスボスでしたか?」
その言葉に私はフィリスノヴァ公爵について詳しく反芻した。
パロム・フュリアス・フィリスノヴァ。ジェリアの父であり、自分の子どもたちを互いに殺し合う関係に追い込んだ者。そして『支配』の特性で他人を思いのままに操り、力を奪って自分のものにする〝最強の人間
〟。
でもそのすべての以前、彼は四大公爵の一角であるフィリスノヴァ公爵であり、月光騎士団の団長でもある。
「『バルセイ』のフィリスノヴァ公爵の歩みは……簡単に言えば月光騎士団の反乱でしたわ」
「最初から尋常でない単語が出てきましたね」
ケイン王子は眉をひそめた。
まぁ、そういう反応も当然だろう。この国の六大騎士団は皆が優れた精鋭だけど、各騎士団が担当領域を厳密に分けている。五つの騎士団がそれぞれ東西南北と中央を担当し、残りの一つが空を担当する空軍の形態。
そのうち、月光騎士団は王国の北部を担当する。すなわち月光騎士団の反逆ということは北部の兵力が反逆するということであり、治安や国防などいろいろな部分へ問題が発生する。
「月光騎士団はほとんど常にフィリスノヴァ公爵家の人が団長を務めてきました。それだけ騎士団の中に公爵家の勢力が強固に構築されていますけれど、だからといって全体を飲み込んだわけじゃありません。割合では六割くらいでしょう」
「その六割が反乱を起こすということですか?」
「消極的な賛同者まで合わせて実質的には八割程度でしたわ。けれどストーリーが進むにつれ反乱軍は瓦解し、フィリスノヴァ公爵と近衛隊だけが残ることになりましたけど……その場でフィリスノヴァ公爵は自分の力だけで討伐軍を全滅させ、反乱軍の裏切り者や脱走兵まで虐殺しました」
まるで「軍勢などいらない」と言うような暴挙の中で生き残ったのは主人公と攻略対象者たちだけ。そしてその場でいきなりラスボスバトルが始まった。
「その反乱が三ヶ月以内ということですね」
「邪毒神の言葉が事実ならそうでしょう。『バルセイ』よりずっと早いですけど、変なことはありません。フィリスノヴァ公爵の反乱はもうずいぶん前に準備が終わりましたから。ただ好きなタイミングを狙うだけ」
「対処法はありますか?」
「……なくはないですが、かなり難しいと思いますわ。反乱軍を瓦解させることも難しいことですし、自分の力だけでラスボスになる化け物を力で制圧しなければなりませんから。考えておいた方法はありますけれど三ヶ月以内だとかなりギリギリですわよ」
その上、その方法は人の協力が必要だ。すでに説明して協力を要請した状態ではあるけれど、そっちも準備を終えるには時間がかかる。それに正直いい方法とは言い難いし。
ケイン王子は口に指を当てたまましばらく考え、ふと思い出したように頭を上げた。
「そういえば、フィリスノヴァ公爵はなぜ反乱を起こすのですか? 彼に足りないことはないと思いますが」
まぁ、当然の疑問だろう。彼は将来この国の王になる王子だから……いや、王子でなくてもフィリスノヴァ公爵程度の立場の者があえて反乱を起こすということは納得し難いだろう。
この国の公爵とは〝すべてを持つ者〟と別段違わない意味だから。
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