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呼び出しの目的

 バルメリア王国は魔道具を活用した情報や映像伝送技術がかなり発達している。


『放送』と呼ばれるその媒体の役割は様々であるが、重要なのは情報を発信する主体が必要であること。しかし一つの発送用魔道具が発する情報は届く距離が限られている。そのため、それを延長する仲介所が随所に設置されている。


 そうした仲介所の役割を、『孤独な無数の軍団長』の結界が果たしているのなら。


「あんたたちが世界に干渉する橋頭堡なのか?」


【やはりバカではないね】


「なるほど。王城の禁止区域に巣を作った理由も分かった」


 バルメリア王家は結界術のスペシャリスト。王として国全体を治めるため、様々な用途の結界の起点が王城に存在する。そのうち何かを利用して啓示夢をまき散らしたり、人間に干渉したりするのだろう。


「現状は分かったが、どうして私にそんなことを教えてくれる?」


【それは……】


『軍団長』が何かを言おうとした時、突然邪毒神の一体が動いた。まるで眠りについたように椅子の背もたれに体をもたれたままじっとしていた者が、突然気がついたように体を起こしたのだ。


 その者は起きるやいなや私を見た。


【本当に連れてきたな。どうするためにこんなことをしたんだ?】


【そういう君もついさっきまでバカなことをしてきたじゃない?】


【意味のないことをしたことはない。それより……ふむ】


 その者は椅子から立ち上がり、私の方へ歩いてきた。物理的に少し近づくだけでプレッシャーがより強くなった。しかしその者はそんなことなど気にとめず、結界のすぐ前まで迫ってきた。


【ふむ。手を出したら結界が壊れてしまうぞ。うっかり握手でも頼んだら大変なことになりそうだな】


「私を邪毒で殺すつもりか?」


【愚問だな。邪毒というのはそちらの世界が外部の異物を自分のものと認めない拒否反応だ。その世界を抜け出したここにはそもそも邪毒の法則なんと存在はせぬ】


「……そういえばそれを忘れていたね。でもそうでなくても直接接触したら力に押されて死ぬ」


【ハハハ、正直なのは気に入ったぞ。こんな形の挨拶はとても気に入らないが一応紹介しよう。『凍りついた深淵の暴君』と呼べ。よろしく頼むぞ】


 何か想像していたのとはずいぶん違う反応だった。あいつが特異な性格と言うべきか、私の先入観が問題と言うべきか分からない。


 そんな悩みが表情にあらわれてしまったのだろう。『暴君』はまたもや笑い出した。


【クハハハ、面白い反応だぞ。さっき打ちのめした奴とは違う味がする】


「打ちのめす?」


【そうだ。ジェリア・フュリアス・フィリスノヴァ。貴様の友人だったな?】


「! 彼女に何を……!」


【唐突にこの『暴君』の片鱗を奪いに来たので、きちんとした方法を教えただけだ。帰ったら友人として忠告でもせよ。無駄に変なことするなと】


『暴君』は一方的に言葉を吐き出してまた席に戻った。『暴君』が椅子に座ると『主人』の視線がそちらに向かった。


【欲しいものはちゃんと分かりましたか?】


【ああ。確かに。彼女の影響力はすごいと思うぞ】


『暴君』が『軍団長』の方へと視線を向けた。


 姿をまともに認識できないため、表情や眼差しをまともに読み取ることはできなかった。


 もどかしいな。位置もそうだし、まるで檻の中の見せ物になったような感じだ。


 幸いなことに、奴らは私を長く放置しなかった。『暴君』が再び私を振り返ったのだ。


【この場に連れてきたのは『軍団長』の奴の独断だが、おそらく奴の目的は『主人』を除いた奴らの不安を払拭させるためだろう】


「不安? 邪毒神にもそんなことがあるのか?」


【自我があり、感情があり、喜怒哀楽がある。それなら不安の気持ちくらいはあってもおかしくないだろう】


『暴君』が再び『軍団長』の方に顔を向けた。まるでバトンを渡すようなジェスチャーを見て『軍団長』がため息をつく音が聞こえた。


【『暴君』の言う通り。『主人』の目的が何なのか知ってる?】


「疑わしいことは多いけど、表面的にはテリアさんを助けるということに見える」


【信じるかどうかは自由だけど、『主人』の目的はあの女を助けることだ。……ただし、我々皆が同意するわけではないんだ】


 どういうこと? 内部分裂でも起こすということか?


 いや、内部分裂ならこんなに平和な雰囲気で円卓を囲んで談笑することはないだろう。あくまでも人間の感性に基づいた判断なので違うかもしれないが。


【あの女を信頼する者は誰もいない。『主人』と『君主』は友好的だが、そちらも信頼とはちょっと違う。最初から友好的でもなかった立場なら言うまでもない】


「それが私をここに呼んだことと関係ある話か?」


【もちろん。その信頼のためにここに来させたんだよ。あの女が周りの皆に影響を及ぼしているということは明白だから。力と心、両方ね】


 そうか。そうなったのか。


 おそらく奴らの言うテリアさんのイメージは『バルセイ』の彼女のことだろう。奴らが何のために『バルセイ』の姿を警戒しているのか分からないが、そのゲームの彼女は現実の彼女とは多くのことが違うから。


 彼女に直接対面して経験してきた私は『バルセイ』のイメージと現実の彼女が全く別人だということを実感している。しかし遠くから見物するだけの奴らなら、彼女の本心を疑うのも仕方ない。甚だしくは邪毒神たちは彼女の一挙手一投足を見守ることができる立場でもないし。


 すなわち『軍団長』は私を通じてテリアさんがどんな影響を及ぼしているのか確認しようとしたということだ。


「それで? 感想はどうだ?」


【『暴君』は満足したようだよ。もともと『暴君』は協力的な方だったが……直接見たら分かるね。私もその判断を信じられる】


 まずは幸い……なのか?


 世界にむやみに干渉できず、干渉しても価値観が乖離した存在が肩を持つのが良いことなのかは分からない。でも少なくとも悪意を持って妨害するよりはマシだろう。


 そう思ったが、その考えに反対するような声が割り込んだ。


【さぁね。そう判断するのはまだ時期尚早じゃないかしら?】

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