ジェリアの推論
氷城の内部は以前来た時と同じだった。その時に壊れた部分も、濃く感じられる邪毒神の魔力と冷気も。
この程度の力が依然として残留しているなら氷城を修理したり、さらに拡張することも可能なはずなのに。いや、むしろこれくらいの力なら外観なんかあえて気にする必要がないかもしれない。
とにかくボクの感想なんて重要ではない。重要なのは他のすべてがそのままなのかではなく、ここの核が依然として存在するのかだけだから。
北方の大陸を占拠した邪毒神の片鱗――圧倒的な魔力を放ち、ここを支配する魔剣。ボクの目的はそれに再び向き合うことだから。
「あるんだな」
邪毒神の剣は依然としてその時のその場にあった。
邪毒からなる真っ黒な形状と、シルエットを隠す邪毒の霧。だがシルエットをほぼ完全に隠す『隠された島の主人』の分身体と違い、こちらは剣のシルエット自体はよく見えた。
しかし、その時とは違う。
「聞いているんだな。な?」
外見も魔力の大きさもその時と同じだ。だが何の意志も感じられなかったその時とは違って、魔力の流れに方向性が感じられた。
見守っている――邪毒神の意志が今ここを注視していると。
「話す気がないのか」
さっきからわざわざ声を出していたが、邪毒神が声をかけてくる気配はなかった。『隠された島の主人』みたいな奴らは望まなくても勝手に声をかけていたが、いざこいつは無口だな。
邪毒神を刺激するのは得策ではないが……こいつには必ず確認しなければならないことがある。
「答える気になったら言え。それまでは勝手に騒ぐぞ」
背中に背負った『冬天覇剣』を抜いた。そしてそれを邪毒神の剣の横に力強く突き立てた。二つの剣を並べて見ることができるように。
目ではその様子を確かめながら、思っていたことを一つずつ口にした。
「最初に貴様の剣を見た時、妙な既視感を覚えた。それが何なのかはすぐに分かったぞ。そして貴様の修飾語を考えれば一つ、面白い推測が浮び上がった。とんでもない妄想だったが……テリアはそれを笑い飛ばしながらも、どこか見当がつくようだった」
『冬天覇剣』を手で撫でながら、隣にある邪毒神の剣と比較する。
同じシルエットの二本の剣を。
「そしてボクの固有武装『冬天覇剣』を覚醒した時に考えた。この前見た貴様の剣とシルエットが同じだと」
過酷なほどの冷気と気候を支配する力。発現した形態は少し違うが、ボクの『冬天世界』と類似した能力だ。
そして何よりも――。
「猛暴な冬天の主、『凍てついた深淵の暴君』」
ボクの『冬天世界』。
「果てしない虚像を作る者、『偽りの万物の君主』」
ロベルの『虚像世界』。
「結火を結ぶ者、『息づく滅亡の太陽』」
リディアの『結火世界』。
「無限を証明する者、『孤独な無数の軍団長』」
ケインの『無限世界』。
「地伸を体現する者、『広闊な大地の心臓』」
シドの『地伸世界』。
ボクはすでに世界権能に達しており、ロベルは今頃到達しているだろうとテリアは言った。そして残りも『バルセイ』ではすべて世界権能に達した――テリアがそう言っていた。
そして。
「万魔を支配する者、『隠された島の主人』」
アルカの『万魔掌握』。
『バルセイ』には存在しなかったという六体の邪毒神。この世界でも名前が知られたのはそれほど昔のことではない。一番古い者も二十年も経っていないだろう。
「あいにく『バルメリア聖女伝記』の攻略対象者たちと主人公。奴らの名簿と一致するぞ」
主人公と攻略対象者の特性。邪毒神の修飾語。
その中に重なるキーワードがある。そしてボクと重なる『凍りついた深淵の暴君』の剣のシルエットは『冬天覇剣』と同じだ。
「それに今までボクたちは同じ名前を背負った邪毒神の魔力と共鳴したことが何度かあった。ボクがこれをただの面白い偶然だと思うようなバカに見えるのか?」
邪毒神は今ボクを見守っている。その意志が確実に感じられる。
それが何を意味するのか、奴がボクを注視する理由が何なのか。それを確実に引き出すために言い続けた。
答えは……来た。
【斬新な妄想だな】
邪毒神の剣から声が出た。ひどく変調されて感情が分かりにくい声だったが、言葉の意味ははっきりと伝わった。
最初からボクの話をあざ笑っているんだな。だがひとまずやり取りの余地はあるようだ。
「ボクの話を否定するのか?」
【直接考えてみろ。何を考えているのかは分かるが、その考えが実際になるには障害物がとても多い。それを理解しているのか?】
「……もちろんだ」
あの邪毒神たちがボクたちとよく似ているということは確かだが……それ以上の同一性を確信することはできない。問題は山ほどあるが、何よりもボクたちは普通に生きてこの世界に存在しているから。
しかし、完全に不可能なわけでもないはずだ。
「テリアは自分の分身を世界の外に送り出した。その分身で前世の自分が住んでいた世界を訪れた。……前世の自分が生きていた時間帯に、な」
【同じことが起こったと言いたいのか?】
「可能性はあるだろう。テリアは世界を渡った時、前世の自分が生きている時間帯を〝選択〟したという。つまり世界同士が同じ時間の流れが保障されるわけではない」
正確に言えば、テリアが主導的に選択できる時間帯がそれだけだったが。
世界に入る時、希望する時期を自由に選ぶことができなかった。唯一主導的に選ぶことができたのは前世の自分が道しるべになってくれる時間帯だけ、とテリアが言ってたな。
神なら好きな時間帯を選べるかもしれないが、それとは別にあの邪毒神たちがボクの思った通りの存在なら……テリアのと同じ方法で現れることは可能だろう。
邪毒神は愉快そうに笑い声を上げた。
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