王と王子
バルメリア王国王城。位置上は王都タラス・メリアの片隅にあるだけだが、敷地の面積はタラス・メリアの約三割を占めるほど巨大である。その敷地内に大小の城と政府の建物が多いが、やはり最も巨大なのは国王が起居して政務を見る本城だ。
その本城の秘密の空間、普段は使うことがほとんどない小規模応接室に私――ケイン・ダイナスト・バルメリアともう一人の王族が向かい合って座っていた。
「こんなにお前と話をするのはかなり久しぶりだな、ケイン」
「父上は息子にも簡単に時間を割いてくださることがない御方ですからね」
バルメリア王国国王、ネブラスタン・ダイナスト・バルメリア。
この国の頂点、そして私の父上。しかし国王の父上と第二王子の私、二人ともいろいろあって忙しい。そのため業務的に交流する場合は多くても、個人的に私語を交わしたことは多くなかった。
「そういうお前も父のために時間を割いてくれることがほとんどないのではないか」
「兄弟の中でも父上と一番似ていると言われていますからね」
「お前の図々しさだけは譲った覚えがないぞ」
父上は豪快に笑った。それだけでも空気が震えるような気がした。
ライオンのたてがみのような金髪と筋肉が充満した肉体。バルメリア王家は先頭で敵を圧倒する戦士の姿を目指す王家であるだけに、魔力と肉体の鍛錬は基本素養だ。
でも王子様の私も服の下は筋肉質だとしても一応表ではほっそりしていると言われるんだけど、父上の方は少しひどい。
そんなくだらない考えをしていたのがバレたのだろうか。父上は突然にニヤリと笑った。
「変わったな」
「いきなりどういうことですか?」
「昔のお前はもっと冷静に仕事ばかり見つめる感じだったからな」
私がそんな感じだったか?
心当たりは……ある。まぁ、以前はその性格のせいで人にあれこれ迷惑をかけたりもしたし。
そういえば、いつからか私自身が少し変わったようだ。自覚はなかったが、言われてみれば以前の私と比べるとかなり感じが違う。
父上はソファーの背もたれに深く身を沈め、豪快に笑い出した。
「はは! まぁ、以前のお前について考えるところは多少あるが、不満はない。王族には必要な姿だからな。今はもっと少し違う感じだが、あの時の姿も完全には消えてない。もっと発展したと言うべきだろうな」
「高評価ありがとうございます」
「何を今更。お前の能力と実績は以前から子どもたちの中で最高だったぞ。余が何も言わなかったのにお前が次期国王だと言う奴らが一番多いのではないか」
父上は前のテーブルに置かれた酒瓶を手に取った。私はすぐに意図に気づき、グラスを差し出した。
父上は酒瓶の酒の四割ほどを私のグラスに注ぎ込んだ後、酒瓶の口を差し出した。そして私がそこにグラスをぶつけて乾杯をすると満足げに笑い、酒瓶ごとに酒を飲んだ。
私も続いてグラスに口付けしたが……うぐっ。度数が六十は超えそうだね。相変わらず何気なくこんなものを召し上がるんだね。
私が二口をやっと飲み込んだ時はすでに父上の酒瓶が空っぽだった。
「ハハハハ! 相変わらず弱いな」
「もっと普通の酒なら普通に飲めますが」
「平凡ではない業績を積み重ねていく奴がこんな場所だけで平凡なものを探すんだな」
父上は魔力で二本目の酒瓶のふたを開けた。匂いを嗅ぐだけでさっきのよりもっときつい奴だね。
で、酒瓶のラベルに描かれた模様が見覚えがあるんだけど。
「こいつは先日お前が救った領地の特産物だ」
まるで私の考えを読んだかのように、父上は静かに言った。
「正直、余が特に好きな一品の一つだ。その点に関しては率直に感謝しているぞ」
「……ありがとうございます」
「これだけではない。お前はもともと聡明で秀逸な奴だったが、最近の活躍……特に安息領と関連した先見の明と討伐実績は独歩的なほどだ。お前のおかげで騎士団の効率と安息領被害抑制も大きく進展した」
これか。
まれにも父上が先に私を呼び出した。その理由が何なのか見当もつきなかったが、これが本論なのだろう。
確かに父上の言葉通り、最近の私の実績は独歩的なほどだ。しかしそれは私一人だけの識見と判断でなされたものではない。
グラスを置いて父上の目を直視した。いつものように豪快な目。だがあの眼差しの前で過ちを見せて食べられた者が数え切れない。王族でさえ例外ではない。
もちろん私はそんなに愚かな者ではない。
「そういうほどではありません。すでに報告したと思いますが、安息領に関する情報はオステノヴァ家のテリア嬢の助けが大きかったです。言葉だけで聞いたオステノヴァの情報力を直接経験してみたらすごかったですよ」
「そう、お前の報告書は全部読んでみた。なかなか面白かったぞ。この余も学ぶ点が多かったな」
「ありがとうございます」
「だが父として、そしてこの国の王として心配なことがあってな」
父上が左手を上げると魔力が輝いた。次の瞬間にはその手に書類の束が握られていた。父上はそれをテーブルに投げた。
ふむ。どうやら私の報告書の一つのようだが。
「オステノヴァ家の令嬢から莫大な情報を得たな。その情報は正確だったぞ。正確過ぎるほどにな」
「テリア嬢を疑っているのですか?」
「別にあの令嬢が安息領と内通していると思っているわけではないぞ。そう見るにはあの令嬢が安息領に与えている被害が莫大すぎる。欺瞞のためにあれほどの被害をもたらすよりは他の方法を使った方が賢明だろう」
「だが情報の出所が疑わしいとでも?」
父はニヤリと笑った。失笑に近い感じだね。
「それも気になるが、正直オステノヴァを相手にそんなことを疑うのは時間の無駄だ。コストが問題なだけで、ルスタンが決めたら衛星魔道具でいくらでも得られる情報だったぞ。衛星は運用コストが非効率だが、まぁ他の手段もあり得るだろう」
父上は酒瓶をテーブルに置き、私を見た。
真剣で重い、王の眼差しだった。
「気になっているのはお前の方だ、ケイン」
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そして新作を始めました。本作とは雰囲気が結構違いますが、興味があればぜひご覧ください。
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