未来と力
【見ているともどかしくてな】
即答だった。しかし言葉はそれで終わって意味不明だった。
思わず感情が先行して前に一歩踏み出した。でも僕の位置は変わらなかった。虚実を反転する権能が空間の秩序をおかしくした――それに気づいて足を止めた。僕の力では邪邪毒神の力を破ることはできない。
「何がもどかしいのかよ?」
【お前。弱すぎる】
「……それはそうだけど、最近はかなり強くなったけど」
ちょっと言い訳のようになってしまったけど一応本気だ。とりあえず世界権能を覚醒したから。僕自身のことだと言うのはちょっとアレだけど、世界権能を覚醒しただけでも絶対的な力を持ったと言える。
でも邪毒神は小さく鼻を鳴らした。
【確かに世界権能は強力だ。でもいくら強大な能力でも種類や扱い方によって違うものだよ。お前が仕える主人の力が世界権能そのものの力ではないだろう?】
それはそうだ。テリアお嬢様の『浄潔世界』はそれ自体が物理的な力を提供する特性ではないから。それでも『虚像世界』の〈虚実反転〉は十分に強力な影響力を発揮するんだけど。
……いや、ちょっと待って。
「僕が能力を扱うのが未熟だという意味?」
【覚醒したばかりの能力を上手に扱うのがもっとおかしいだろう】
慰めるような言葉だけど結局未熟であることは否定しなかった。
……うむ。覚醒したばかりの力をうまく使うにはもっと鍛錬が必要だということは理解するけど、それでもこの程度の〈虚実反転〉ならかなりうまく活用したと自負していたのに。
でも都市の姿を思い浮かべれば反論はできなかった。幻影の力を扱う邪毒神が見るには、僕なんかいくらもがいても子どものように見えるだろう。
「で? 僕を非難するために呼んだ?」
【失礼だな。助けになろうとしているんだよ】
「助け? どうやって? ……いや待って。それより先に聞きたいことがあるんだ」
【なぜここを占拠したのかと?】
僕は頷いた。
僕の帝国行きの第一目的は帝国軍の無駄な行動を防ぐこと。しかし奴らが勝算の低い賭博に出ようとしたのはこいつが首都を占拠したためだった。その原因を調べるのも僕のすべきことだ。
邪毒神はあざ笑う声を出して指パッチンをした。小さな映像が現れた。
広大な大地と多くの人々。一目で見ても戦争中であることが分かる光景だった。一方は徹底的に先端の魔道具で武装した軍勢で、他方は強力な魔道具と個人の魔力を兼ね備えた軍勢だった。帝国軍とバルメリア軍だ。
戦況はバルメリア軍の優勢。しかし帝国軍の規模と力が僕が見た奴らより上だった。そして双方とも大きな被害を受けた。
あれはまさか……。
「それ『バルセイ』の光景か?」
【そうだよ。見た通り、両方とも無駄な被害を受けたんだ。特に帝国は安息領の奴らのことまで重なって回復不能の被害を受けた。人を破滅させる虚しい夢の末路というか】
「人を破滅させる邪毒神が人の破滅を論じるなんて、お笑いだな」
【あいにく夢と現実を行き来する権能を持っているからな。無駄な夢は夢だけで終わるのがいいんだよ】
『偽りの万物の君主』。そのような名前の奴だから、それなりの誇りや基準のようなものがあるというのか。
そんな考えをしていたら、邪毒神が見せてくれる映像が変わった。
今回その中にあるのは……僕だった。巨大なバケモノを相手に戦っている姿だった。単なる映像なので魔力は感じられなかったけど、目に見えるだけでも今の僕では近づけない力と力の対決であることが分かった。
相手のバケモノはおそらく『バルセイ』のラスボス。その中で僕のルートといえば、……トリア姉貴って言ってたよね。トリア姉貴があんな姿になるということには少なからぬ拒否感がある。
しかしその光景から目が離せないほど、映像の僕の戦いは美しかった。
力が強いわけではない。今の僕よりは強いけど、ラスボスに届くほどではない。それでも自分には手に余る強敵を相手にもほぼすべての攻撃を受け流したり反撃を試みていた。
使うのは〈虚実反転〉だけど、熟練度も活用方法も今の僕などとは格が違った。
「なんでこんなものを見せる?」
自然に浮かんだ疑問を口にした。すると邪毒神は椅子の肘掛けに頬杖を突き、しばらく頭を下げてから口を開いた。まるで何かを悩んだかのように。
【守りたいものを守る力を適時に得られなかったバカはみっともないんだ】
「……何だと?」
【聞き取れなかったか? このままではお前がそうなるという意味だ】
こいつ今僕を呪ってるのか?
一瞬かっとなってそう言い放つところだった。拳を握って我慢したが、ただじっと聞いてあげるにはイライラする。
「僕の未来をお前の勝手に裁断するな。そんなことしていいのはこの世に一人だけだ」
【……一人だけ、か】
邪毒神は首を軽く動かした。後ろを見るような感じだが、実際に後ろを見るには首がそれほど回らなかった。まぁ顔なんか見えないから、もしかしたらあれだけでも見れるかもしれないけど。
それより奴の後ろにいるのは玉座にある偶像だけだけど。
あの偶像も邪毒神と同じく真っ黒な邪毒で構成されているので具体的な姿は分からない。しかしシルエットは一応人の姿を模したようだった。
【……まぁ、頑張ってみろよ。お前の主のためにもな】
「言わなくてもそうするつもりだ」
鼻で笑いながら背を向けた。邪毒神は僕を呼び止めなかった。
互いの用件は終わったようだし、もう出かけても構わないだろう。結界の外に出られるか少し心配だけど、入ってくる時も邪毒神の意図通りに連れてこられた。僕を無駄に捕まえておこうとするのでなければ出かけることもできるだろう。
……ただ、邪毒神が見せてくれた映像だけは心の中に強く残った。
圧倒的な強者を相手にも退かない様子。美しいほど巧みな虚実操作。まるで僕の理想のような姿だった。
いつか、いやなるべく早く。僕もその姿に到達しないと。
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