帝国の首都
帝国の首都の結界に吸い込まれてきた僕が見たのは、神秘的で不気味な大都市の姿だった。
街や建物は攻撃されたり壊れた跡が全くなくきれいだった。そしてその中を数多くの幻想が徘徊していた。空想の神秘的な動植物、絶えず動いて美しく輝く虹、飛び回る宝石と自分をアピールしながら歩き回るデザートなど。非現実的だが夢幻的な光景だった。
しかしその中に人の姿が全くないというのがぞっとした。
まるで幻想が人間を追い出して都市を占めたような姿。そう思ったからか、都市を支配する幻想が僕を注視するような錯覚さえ感じられた。
「これは……」
ちょうど近くにあった薬缶の幻想に手を伸ばした。実体のない幻想であるため触れることはできなかった。しかし僕の手が幻想を通過する瞬間、妙な魔力の感触が感じられた。慣れながらも不慣れだという矛盾した感想が同時にあった。
何より都市全体に幻影の魔力が充満したため、人間の気配を感じることができなかった。本当にないのかは目で直接確認しないと。
そんな思いであちこち歩き回ってみた。店や事務所などにはやはり人がいなかった。だけどやや忌まわしい心を抑えて住居地に入ってみればついに人の姿を発見した。そして都市がなぜ幻想だけの幽霊都市になったのかも知ることができた。
一言で言えばみんな寝ていた。その上、家にも最近人が動いたような生活の痕跡がなく、掃除とかはすべて実体化した幻想が代わりにしていた。ということはかなり長い間眠っていたのだろう。
幸いにも眠っている人々の肉体は強大な魔力が健康に維持してくれていた。しかし魔力は人々の肉体を維持するだけでなく、その人たちに強力な影響を行使していた。
「これは……夢だな」
倒れた人に近づいて調べてみた。虚像の魔力に酔っていた。おそらく都市全体を掌握した幻想の魔力が人々にも夢を見せてくれているだろう。虚像が最も大きな影響を及ぼすのは夢の中だから。
おそらく都市を幻想が支配していることには何の意味もないだろう。邪毒神の目的は人々をこの状態に保つことであり、都市の幻想はその目的のために都市を埋め尽くした魔力が勝手に作り出したことに過ぎない。実体化して掃除をしている幻想は邪毒神の故意かもしれないけど。
大まかに現象は分かった。しかしこのすべてに何の意味があるのかは分からない。
ここを掌握した者は邪毒神。でも人を眠らせたまま肉体を維持させ、覚めない夢を見せることが邪毒神に何の意味があるのだろうか。このようなやり方では都市を掌握しても何もできない。
しかも邪毒神の魔力であるにもかかわらず、邪毒ではなかった。普通は幻想だとしてもそれを構成する邪毒自体が人を傷つけたはずなのに。
「夢を通じて何かをする? いや、そんな気配はない。夢を媒介に魔力を吸い込むわけでもないと思うし」
わざと独り言も言いながら考えを整理したが、結局答えは分からなかった。
もともと『バルセイ』で帝国は皇室が安息領の誘いに乗ってバルメリアを攻撃すると聞いた。もし邪毒神の首都掌握がそれと関連があるなら、皇城から手がかりを得ることができるかもしれない。
そう思いながら建物の外に出た。そして皇城の方を見た瞬間、突然都市の幻影が変化した。
「何だ!?」
突然幻影の石材が積もるかと思ったら大きな通路が作られた。皇城からここまで一直線に。
「僕を呼ぶってことか?」
露骨な光景だった。当然警戒心が先に頭をもたげた。
そもそも僕がここに来たのも、結界に接触しただけなのに突然吸い込まれてきたのだった。結界が物理的な接近を遮断する力を帯びていたことを考えると、僕が結界の中に進入したのがイレギュラーケースであることは確かだ。それにこうやって皇城に行く通路だなんて。意図が疑わざるを得ない。
しかし今のところ手がかりがないのも事実だ。『バルセイ』になかったイレギュラーに関する情報は多ければ多いほど良い。
僕は慎重に通路に足を踏み入れたが――その瞬間、すでに目の前の光景が変わっていた。
「!?」
豪華な部屋と片隅に置かれた玉座、その前に敷かれたカーペット。帝国の謁見の間だろう。ということは、すでに皇城の中だという意味だ。……目の前の光景が幻覚でなければ。
謁見の間にも人間の姿はなかった。しかし人間ではない存在ならあった。謁見の間の玉座……ではなく、その前の広い空間。皇帝を謁見しようと来た者たちが立つ所の真ん中に平凡な椅子が置かれていた。そこに全身が真っ黒な邪毒でできている何かが座っていた。
強大な魔力などは感じられなかった。それも当然だろう。あの何かは実際の邪毒神や分身ではなく、幻影の魔力が作り出した映像に過ぎないから。
玉座に置かれているのも同じだった。何か銅像のようなものらしいけど、目に見える幻影にすぎず実体はなかった。
構図はまるで椅子に座った何かが玉座の偶像を守っているように見えるけど……。
「おい。お前は邪毒神か? それとも質の悪い幻覚か?」
【それを言語で聞くのがお前の未熟さの証拠だ】
試しに話しかけてみると、露骨に皮肉るような答えが返ってきた。
声は幻影の何かからではなく、頭の中に響く感じだった。強いて言えば幻聴というか。そして何かが意志を表現するように動いて腕を組んだ。
僕も幻影系の特性保有者だから分かる。幻影を操作して望む姿を見せ、言葉を聞かせることだ。自分の分身体を直接出して動かすより、幻影で外見だけを見せる方がコストが効率的だろうから。
僕をここに呼んだこと。あえてあんなに見せるための幻影で自分を表現すること。奴の目的は明らかだ。
「なぜ邪毒神が僕をあえてここまで連れてきたのかよ?」
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そして新作を始めました。本作とは雰囲気が結構違いますが、興味があればぜひご覧ください。
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