リディアの未来
人間を巨大化したようなバケモノがいた。
全体的なシルエットは人間と大同小異だった。けれど筋肉が充実した体全体が鋼鉄で覆われており、顔には目鼻立ちの跡はあったけれど鼻の穴と口がなかった。その上、身長が十メートルを超えるほど巨大で、体のあちこちに生えた鋼の棘が脅威的だった。
映像の中でそのバケモノに立ち向かうのは、私だった。
周りの姿が大きなクレーターにはまったように見えるのを見ると、戦いの途中で落ちたのだろう。その前には何人かいたかもしれない。けれど映像の中の状況は私とバケモノの一対一だった。
バケモノの姿は初めて見るけど、似たような見た目について聞いたことがあった。
「あれは……ディオス?」
私の兄であるゴミクズ。『バルセイ』の私のルートでラスボスになったってテリアが言ってたよね。
テリアはラスボスになったディオスの姿も語ってくれた。巨大な肉体、鋼の皮膚、槍よりも鋭い棘。その時聞いた特徴と映像のバケモノの特徴が一致する。
それにテリアは言っていた。私のルートの場合、ラスボス戦の途中で地形が変わって私とディオスが一対一で戦うフェーズがあったって。そして『隠された島の主人』は『バルセイ』を作った人かもしれないって。
『息づく滅亡の太陽』は『隠された島の主人』の仲間だったって? それはつまり……。
「これ、『バルセイ』でのリディアのラスボス戦なの?」
【そう。あんたの未来をたどった時、あんたが到達する可能性の一つ】
映像の私は大きな鋼鉄の翼を率いていた。『無限の棺』と似ているけど、もっと細いものがいくつも並んで翼のような形状を作った。あらゆる武器はもとより、『結火』の魔弾までその翼から絶えず飛び出してきた。
まるで『無限の棺』がさらに進化したかのように……まさか。
「あれはリディアの固有武装なの?」
始祖武装に自分の魔道具を融合させた固有武装。ジェリアの『冬天覇剣』がそうであるように、私にもその可能性くらいはあるだろう。
けれど始祖武装さえも一つを覚醒させるだけで歴史に名が残る。固有武装はあまりにも別格なので、ジェリアを見た時もすごいと思っただけだった。私自身が固有武装を覚醒した姿なんて想像もしたことがない。
しかも映像の私の別格な部分は固有武装だけじゃなかった。
『はああっ!』
咆哮しながら突進する私。ディオスの攻撃を片翼で防ぎ、その翼から飛び出した無数の銃口が魔弾を吐き出した。さらにディオスの周辺、というよりもクレーター全体から無数の〈爆炎石〉が生まれた。それらは様々な効果を持つ魔石となって爆発するだけでなく、〈爆炎石〉自体が銃や剣のような武器に変わったりもした。
そのすべてを手に取り、時には魔力で振り回し、一寸の引き下がることもなく立ち向かう姿。ディオスはラスボスの名に相応しく圧倒的な力を発揮していたけれど、それに堂々と立ち向かう私もまた別格の存在だった。
『リディアの〝世界〟の中でリディアに立ち向かうことができると思わないで!!』
映像の私が叫んで手を上に伸ばした。
――『結火世界』専用技〈結火の地獄道〉
クレーターの地面全体が巨大な『結火』の宝石に変わった。ディオスが踏んだところから猛烈な炎が上がった。鋼の皮膚が溶けてディオスが苦しむ音を立てた。
けれど、私を驚かせたのは別の部分だった。
「結火……世界……?」
頭の中に浮かんだ権能の名前。そして目に見える特徴。それは明白な世界権能だった。
固有武装と世界権能。能力の面ではこれ以上望むことはないほどだ。しかもこれは……テリアと同じレベルまで上がったジェリアと同じ領域でしょ。
「とても……すごくて……正直実感がわかないね。あそこまでどうやって上がるかも分からないし」
【まぁ、その気持ちは理解できるよ。どれ一つも一生努力しても届かないのが当然だから】
邪毒神の言う通りだ。
でもあれを見ていればふと、心配ではないんだけど………思い浮かぶものがあった。
「でもね。ジェリアもそうだし、あれが本当に『バルセイ』での私だったら……まさか『バルセイ』の攻略対象者全員が世界権能と固有武装を覚醒する……とか……そう?」
そうなればテリアにとって本当に大きな力になるだろうけど、難度は非現実すぎる。しかも客観的にそれくらいなら私たち同士で世界征服も可能な戦力だ。正直ちょっと、何て言うか……あれこれ考えるようになるもの。
【ロベルは始祖武装の血統じゃないから固有武装を持つことができない】
「じゃあ、ロベル以外は?」
邪毒神が苦笑いしたような気がした。……それだけでも答えは十分だね。
一方、映像の私が何か大きな力を発散するようだった。おそらく世界権能の権能発現だろうか。でも実体を確認する前に映像が消えた。
「何よ、なんで見せてくれないの?」
【世界権能のことは覚醒するやいなや分かって理解できるはずよ】
「それは確かにそう聞いたけれど……」
強い力は必然的に面倒なことを呼び込むものよ。
そんなことを考えながらグズグズしていると、邪毒神が再び口を開いた。声が歪んで感情を聞き取るのは難しかったけれど……奇しくも悲しそうな感じがはっきりと伝わってきた。
【強くなることだけを考えて。できるだけ早く。守るものを失った後になってようやく守る力を得て後悔するのはかなり悲惨なことだもの。守り抜いた後にトラブルに巻き込まれた方がむしろマシだから】
「それは経験談?」
【いや、目撃談。誰よりも大切な友が苦しんでいるのを傍で見守るしかできなかったんだ】
邪毒神にもそんな経験があるのかしら。
その友達が誰なのか、何があったのか気になるね。でも聞いてみても答えてくれそうにないし、個人的な好奇心だけなので意味もない。
私が黙っていると邪毒神は小さく鼻を鳴らした。
【あんたの友があんたをとても心配しているようだから、もう帰してあげる】
「友? シドが?」
【まぁ、目の前で急に気絶してしまったから、そんなこともあるよね】
……何よ、あいつ。
少しもくもく浮く気分だったけれど、それを吟味する前に邪毒神が私の意識を追放してしまった。
……手伝ってくれたのはありがたいけど、これくらいは少しでも配慮しなさいよ。
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