ロベルの今
西の帝国の首都。いや、正確には結界に閉じ込められた首都の付近に彼らがいた。
この地域は安全と偵察を名目に出入りが厳しく統制されている。過酷なほど。それは中で何かを密かにするのに良い状態だという意味でもあった。
僕は虚像の能力で検問と監視を避けて潜入した。
帝国軍の警戒は厳しかった。結界の魔道具が広範囲な臨時城壁を構築したし、出入りできる経路ごとに十人以上の警備兵がいた。
でも彼らの魔道具があっても今の僕を発見することはできない。
結界のため外部では内部の姿を見ることも不可能だったが、入ってみると状況は一目瞭然だった。
「部隊の準備状況は?」
「今のところ順調です。ですが首都の精鋭軍が丸ごと抜けているのが痛みますね」
帝国軍の将校たちがそのような話をしていた。そして彼らの後ろには大規模な軍勢が準備していた。兵士たちは強力な訓練を行っており、強力な火力と防御力を誇る魔道戦車や偵察などに使われる魔道具が整備されていた。
将校たちはそれを監督していたが、やり取りの表情はそれほど明るくなかった。
「よくない。上部の目標は結局バルメリア王国だろうが」
「首都の精鋭軍なしであの強大な国を打って勝算があるのか? あの国は個人が怪物のような力を持っているのに」
「精鋭化された個人の他にも、我が軍のように強力な魔道具を駆使する軍勢もあるそうだ」
これだけでもどのような状況なのかは分かったが、もう少し正確な把握のために首脳部を探してみた。時間はかかったけど首脳部のテントを発見することができた。
きれいに剃ったスキンヘッドに傷跡のある中年将校が長いテーブルの上座に座っていて、テーブルに沿って部下に見える者たちがいた。おそらく上座のスキンヘッドが司令官だろう。
「進行状況は?」
「現在集まった部隊の準備は順調です。しかし、首都の精鋭軍がない状況では我が国の全力の半分程度しかないでしょう」
司令官の質問に将校の一人が答えた。続いて彼の隣の将校が手をさっと上げた。
「司令官閣下。本当にバルメリア王国をこのまま攻撃するのですか?」
「そうだ。すでに臨時議会との調整も済んだ」
「我が帝国の覇道のためにいつかはしなければいけないことであることには同意します。しかし、今は客観的に我らの戦力が不足しています。万全の状態で全軍を動員して半分というのが本来の勝算予測だったのでしょう」
多くの将校がその言葉に頷いた。表情が明るくないのを見れば否定的に考える人が多いのだろう。司令官も理解するかのように重く頷いた。
でも彼らのうち誰も攻撃そのものを否定しなかった。ただ今は状況が不利だということを嘆くだけだ。
司令官は胸から小さな魔道具を取り出した。黒い玉に金色の飾りがついている形だった。初めて見る種類だね。
「不足する戦力は安息領が提供した魔道具で補充するようにしよう」
「それ、信じられるのですか?」
「実証は済ませた。個人の魔力と魔道具の出力を大きく増幅してくれた。首都の精鋭軍の不在を完全に補うことは不可能だが、この程度なら戦略によってはやってみる価値があるだろう」
「ではいよいよ我らの悲願が叶うのですか?」
笑わせるね。悲願といっても征服欲に過ぎないくせに。
もともとこの国は活発な征服活動で国の規模を拡大してた。しかし一度バルメリア王国に大敗して領土まで一部奪われた。その後の長い葛藤と繰り返された交戦の末に力の均衡が拮抗することになり、休戦をすることになったが、バルメリアの力のせいで他の方向の征服活動まで萎縮した。
奴らの主戦派は結局、昔のやり方を蘇らせるためにバルメリアを攻撃しようとする奴らなのだ。
「悪いけどそれはさせないんだよ」
僕は隠蔽の虚像を自ら取り除いて姿を現した。
「!?」
「何者だ!」
将校たちの反応は速かった。すぐ椅子を蹴って立ち上がり、それぞれ銃や剣を僕に向けたのだ。
唯一席に座った司令官は鋭い目で僕を睨んだ。
「バルメリアの人間か?」
「そうだよ。あんたたちが余計なことをしようとしているようでね」
「どういう意味だ? 私たちはただ、邪悪な邪毒神に支配された首都を取り戻すために集まっているだけだ」
僕はその言葉にあからさまなあくびで答えた。犬も騙されない言い訳にあえて答える必要さえないから。司令官も粗末な言い訳が通じないことに気づき、眉をひそめた。
司令官はゆっくりと立ち上がって剣を抜いた。
「愚かだな。いくらバルメリアの人間だとしても、一人で我らの陣営の真ん中に現れて無事に帰れると思ったか?」
「一人のはずがないだろうが……と見栄は張らないよ。要らないから」
「何だと?」
堂々と胸を張る。傲慢なほど自信に満ちて、まるでここの敵など何でもないかのように。
空威張りなんかしない。今の僕ならこの軍勢を一人で相手できるということを理解したから……お嬢様もそれを知っていたので僕を一人で送ったことを納得しての自信だ。
「もちろん僕一人であんたたちを全滅させるのはできないんだ。しかしあんたたちの強みを奪って侵攻の意志をくじくことは可能なんだ」
「それをどうやってするという話か?」
「それは――」
その瞬間、司令官は魔力だけで合図した。その合図を受けた兵士たちが一斉に僕に攻撃を浴びせた。
質問をブラフにした奇襲攻撃。しかし魔弾も魔力の斬撃も、すべての攻撃が僕の体に何の影響も与えず通過した。
「なッ!?」
「何を驚くのかよ? 実体もない幻想などで僕を攻撃できるはずがないじゃないか」
「たわごとを!」
彼らは攻撃を続けたが、全員が僕を通り抜けた。僕はその無駄骨を無視して魔力を解放した。
六ヶ月間の努力が集大成された力を。
――『虚像世界』侵食技〈虚像世界〉
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そして新作を始めました。本作とは雰囲気が結構違いますが、興味があればぜひご覧ください。
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