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突然の介入

「キャオオオオ!」


 邪毒獣が巨大な魔弾を放った。魔弾というよりも魔力の波と呼ぶのがいいほど圧倒的な破壊だった。


 私とシドは視線だけでお互いの意思を確認し、行動を開始した。シドは『地伸』の力で地下に避難し、私は『無限の棺』を盾にして防いだ。火器を全部魔力の怒涛の外に避難させておいて。衝撃が私を吹き飛ばしたけれど、そうやって距離を広げながら火器を使った射撃で邪毒獣の注意を引いた。


[シド。ここから邪毒獣を出した理由は何だと思う?]


[多分バルメリア王国軍の人員分散だろ。ムアルタ公国の宗主国である以上、バルメリア王国はムアルタの危機を座視できないんだ。邪毒獣をバルメリア王国本土に配送できなくなったのは奴らにも残念だろけど、ここで邪毒獣を暴れらせてバルメリア王国軍を派遣させるだけでも戦力分散に効果的だから]


[大体私と同じ考えだね。……抜け出せないというのがムカつく]


 ムアルタの人々のためにも、そして私たちの生存のためにも王国軍の派遣は必要だ。死にたくないからでもあるけど、公爵家の令嬢令息である私たちがここで死んでしまったらムアルタとの新たな火種になっちゃうかもしれない。


 もし安息領もそれまで予想して王国軍の派遣を強制できると判断したのかもしれない。本当にムカつく。


 ――アルケンノヴァ式射撃術『結火』専用技〈紅玉星獄〉


 火器の一部が近くまで近づいてきた邪毒獣に魔弾を発射した。全部微妙に直撃しない軌道だった。魔弾が作り出した熱線がまるで星のような形で邪毒獣を取り囲んだ。それらが共鳴しながら強力な熱気の結界を具現した。


 邪毒獣が暴れるだけで結界が壊れ始めたけれど、ほんの一瞬なら邪毒獣の足さえ引っ張ることができる。そしてそのほんの一瞬こそ今の私に必要な時間だった。


『無限の棺』で巨大な狙撃銃を一つ作った。まだ開発中の未完成兵器だ。不安定すぎて一発撃って壊れる物だけど、どうせ私の目的はその一発だけだから。


 横たえた『無限の棺』を支えに銃を乗せ、あらかじめ用意しておいた魔弾の中で最強のものを装填した。そして魔力を注入して銃と魔弾を同期させて最終調整に入った。


 邪毒獣が結界を完全に抜け出した時はすでに準備が終わっていた。


 ――リディア式射撃術奥義〈天空穿孔〉


 たった一発の強力な魔弾が邪毒獣の顔に向かって飛んでいった。奴は残りの二本の右手に魔力を集中して防御した。魔弾と手のひらが衝突し、魔力と熱気を激しく撒いた。


 これまで貫かれなかったものがいなかった奥義だったけど、邪毒獣の手のひらは皮膚を少し焦がしたに過ぎなかった。けれど魔弾の力を抑えるために邪毒獣も集中しなければならず、魔弾は十分に時間を稼いでくれた。


 その間同じ狙撃銃をもう一つ作り、残ったすべての魔弾を一つにまとめて作り出した一発を装填した。魔力を使った同期化と調整もあっという間に終えた。


 魔弾も銃もまだ未完成の欠陥技だけど……私の前に繰り広げられるすべての宿命を貫く至高の一発を。


 ――リディア式射撃術終結奥義〈ディオス殺し〉


『バルセイ』で私のルートのラスボスになったというディオスを、この現実で同じことが起こった時絶命させるための切り札。


 邪毒獣よりも圧倒的なバケモノであるラスボスを討伐するには、たとえ未完成だとしても邪毒獣などに苦労してはいけない。


 もちろん私一人だけの使命ではない。


 ――ハセインノヴァ式暗殺術終結奥義〈黒線一文字〉


 邪毒獣の後ろから飛び出したシドが再び奥義を放った。


 今度は前後から必殺の一撃。邪毒獣も一方に力を集中することは不可能だ。


「バオオオオオ――!!」


 邪毒獣は莫大な魔力を凝縮した魔弾を生み出した。それが〈ディオス殺し〉と正面から衝突した。力比べは〈ディオス殺し〉の勝利だったけれど、激突の途中で軌道がずれた。


「ギャオオオオ!!!」


 邪毒獣は体をひねりながら魔弾に干渉してさらに軌道を逸らした。魔弾の威力と余波が残った二つの腕を完全に粉砕した。けれどその見返りに魔弾の軌道が完全に外れちゃった。


 シドに向かう形で。


「わっ!?」


 シドは〈黒線一文字〉で魔弾を斬った。それでも軌道を少し逸らすのが限界だった。直撃は避けたけれど、魔弾の魔力が彼を燃やした。


「シド!!」


「大丈夫、だ……! それより気をつけろ!」


 助けに行く余裕はなかった。腕を失った邪毒獣が私の方に突進してきたのだ。果てしない魔力で腕に代わる触手を振りながら。


 しまっ、魔弾の残量がない。避けらなきゃ――。




【情けないね】




 それは、誰の声だったのかしら。


 判断する暇もなかった。突然感じられたあまりにも強大で暴力的な魔力にすべての感覚が飲み込まれちゃったから。邪毒獣でさえ突進を止め、その圧倒的な魔力をぼんやりと眺めた。


 巨大な太陽を目前にしたような熱気と威圧感。私なんか一瞬にして燃えて消滅し、今この場にいる私はただ死にさえ気づいていない幽霊のような錯覚。手足の感覚が消えたのは圧倒的な魔力に押さえつけられたためだろうか。それとも激しい恐怖で頭が狂っちゃったせいだろうか。


 ただ一つ明確なことは、この巨大な魔力の震源地が燃える海だということだけだった。そこに巨大な太陽が降臨したような幻想さえ見えた。


「……『息づく滅亡の太陽』……」


 思わずその名を呟いた瞬間――小さく鼻を鳴らすような音と共に、滅亡の太陽からたった一発の魔弾が発射された。


 まるで一筋の陽光が放たれたような一撃。それが邪毒獣の体に直撃した。奴は抵抗すらできないまま絶命した。上半身が完全に消滅し、下半身も七割がきれいに蒸発したのだ。


「いったい、なぜ……?」


 突然の介入に驚いて余裕がなくなったのか。それとも自ら自覚していない何かに惹かれたのか。私自身も理由の分からない衝動に包まれたまま、魔弾の残像のように残っている太陽光の魔力に手を伸ばした。


 それに触れた瞬間、その中に宿った雄大な意志の片鱗を感じた瞬間――私は気を失った。

第十一章が長くなって、章を上下に分離しました。

明日から第十一章 下が始めます。


読んでくださってありがとうございます!

面白かった! とか、これからも楽しみ! とお考えでしたら!

一個だけでもいいから、☆とブックマークをくだされば嬉しいです! 力になります!


そして新作を始めました。本作とは雰囲気が結構違いますが、興味があればぜひご覧ください。

https://ncode.syosetu.com/n4192in/

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