化け物と奥の手
「ふむ!!」
指揮官の奴は驚くべき速さで魔弾の前を手で塞いだ。莫大な魔力が手のひらに集中した。魔力と魔力が衝突し、強烈な衝撃波と魔力光を散らした。それだけで周りの魔物と安息領の兵士たちが吹き飛ばされるほどだった。
けれど指揮官は手がボロボロになる見返りに魔弾を防御した。それなりに戦術級魔弾を使った奥義級の一撃だったのに片手を犠牲にする程度で防ぐなんて。やっぱり高位幹部を名乗るほどの力はあるね。
でもあいつは歯を食いしばって低い声で言った。
「〝奴〟を解放せよ」
「!? で、ですが! ソレは今回の作戦の最重要核心です! こんな場所で消耗したら――!」
「責任は負う。作戦の内容を変更するようにしよう。バルメリアではなく、ここムアルタを破滅させることで。テシリタ様が怒っても、それくらいなら指揮官一人の命で終わるだろう。だからやれ」
「わ、わかりました!」
指揮官の命令を受けた部下が走った。いや、走ろうとした。でも足を動かす直前に首から血を噴き出しながら倒れた。その隣にシドが立っていた。
「させると言った覚えはないんだけど?」
「貴様の許可など要らん、小僧」
一人ではなかった。動ける敵のほとんどが一斉に大砲の方に走ったのだ。その分かりやすい動きを放っておくシドじゃなかったけれど、彼と部下の力だけですべてを防ぐには手一杯だった。私も射撃でサポートをしようとしたけど魔物たちが再び私に押し寄せてきたため、まともにできなかった。
結局彼らの一人が大砲に到達した。奴が中から大きな玉を取り出して魔力を注入した。
見た目は異界の魔物を閉じ込めた玉と同じ。でも大きさがはるかに大きかった。他のと同じ用途の玉なら……まさかあの大きさは。
「避けて、シド!」
私が叫ぶまでもなく、すでにシドは危機を察知して大きく後退していた。
安息領の奴は魔力が注入された玉を床に投げて逃げた。注入された魔力が玉の中で渦巻いて爆発するように膨らんだ。明らかに注入された量以上だった。よほどの物なら魔力に耐えられず崩壊するほどだったけれど、玉は見た目は平気だった。
でもそれはより大きな存在の解放のための前兆に過ぎなかった。
玉についにひびが入った。そこから光が漏れ出し、魔力がさらに大きく膨張した。シドの接近も、私の魔弾もその濃い魔力に阻まれた。
そして結局――玉の中に閉じ込められていた〝それ〟が解放された。
巨大な体格。そして圧倒的にねじれた醜い形。基本的な形状は馬の下半身に人間の上半身を合わせた形だったけれど、大きさと形がまちまちの足が十本もあり、上半身は左腕なしで右腕だけ三本だった。ワニに似た顔には八つの目が勝手についていた。
忌まわしい形相と巨大な体。そして何より――恐ろしいほど圧倒的な魔力。それがどんな存在なのか本能的に悟った。
異界から流入した至高の化け物、邪毒獣。
今の私たちにとって明らかに手に負えない超越者だった。
「ギャアアアアアアア――!!」
不潔な咆哮が響いた。目に見えるほど濃い邪毒が込められた咆哮だった。半分壊れた建物がそれだけで爆散し、邪毒獣に近くにいた魔物の体が粉砕された。シドと部下たちは慌てて避難し、私は近くにいた魔物を盾に直撃を避けた。しかし邪毒が宿った音が体を痺れさせた。
安息領の奴らはすでに逃げていた。異界の魔物とローレースアルファを大量に解放しておいて。
「クッソ、あいつら……!」
「気をつけろリディア! 今はあっちのことを気にしている場合じゃない!」
「リディアも知ってる! ――シド、本気で行くわよ!!」
邪毒獣は私とシドが力を合わせても相手にできない化け物。力を惜しんでおく余裕などない。
そのように判断し、私は長い間修練しながら秘密裏に準備してきた切り札を解放した。
すでに右手にはめている始祖武装『武神の指輪』と同等の魔力を放つ秘宝。邪毒獣の注意が一瞬私に向けられた。シドが驚く中、莫大な魔力が固まって形をなして現れた。取っ手のついた銀色の巨大な棺だった。
「リディア、それは……!?」
「始祖武装『無限の棺』。先日発現に成功したよ」
バルメリア王家と四大公爵家の始祖武装は家ごとに二つ。そのうちの一つを覚醒するだけでも歴史に名前が残るほどだと言われているけど、二つとも覚醒することも不可能なことではない。
私の能力はテリアに比べると明らかに不足している。しかもラスボス化以降はジェリアも手の届かない所に行ってしまった。それをきっかけに、以前から挑戦していたことをもっと真剣に掘り下げた。その結果が私が握っているこの『無限の棺』だった。
「油断しないで。この程度じゃ邪毒獣を討伐できないの」
「俺も知ってる。火力お願い。代わりに一人もお前に到達しないように守ってあげるから」
邪毒獣の威勢のためか、魔物たちが凶暴になった。しかしシドと部下の刃は厳しかった。強い魔物がもっと凶暴になったのに私に近づく魔物がなかった。
けれど彼らの刃でも邪毒獣を阻止することはできない――だからこそ私の出番だ。
――『無限の棺』権能発現『進軍宣言』
銀色の棺が開いた。複雑な構造の中に無数のスロットがあった。
『無限の棺』は入力された設計図の武器を作り出す始祖武装。もちろん魔力の限界はあるけど、魔力さえあればその名の通り無限だ。
強力だけど数の少ない武器でさえ、『無限の棺』があれば単なる量産品と変わらずに作り出すことができる。
――『進軍宣言』武具作成『黄色い虎』二百丁
『無限の棺』が吐き出した二百本の『黄色い虎』が一斉に火を放った。
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そして新作を始めました。本作とは雰囲気が結構違いますが、興味があればぜひご覧ください。
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