安息領の秘めたもの
――と思ったが、安息領の奴らもただやられてくれるバカではなかった。
「情報にあったハセインノヴァの小僧だな。対応する」
指揮官の奴が床に向かって魔力を撃った。魔力が地下に潜り込んだ瞬間、建物全体の地下に強烈な波動が広がった。生物を分解して殺す波動だった。俺と部下は急いで建物の中に上がらなければならなかった。急いで上がってきたので部下五人のうち二人はこの中心部ではなく他の所に行ってしまったんだね。
地上に上がるやいなや指揮官の奴が俺に飛びかかった。魔力が凝縮された手のひらが殺到してきた。岩の小剣を交差させて防ごうとしたけど、手のひらの魔力に触れた瞬間小剣が粉になった。ギリギリ避けたけどかすめた裾が同じように分解された。
『分解』の特性らしいね。非常に強力な力だけど、特定の対象だけを分解するのは意外と非常に難しい。ところで、さっき生物だけを分解する魔力波を撃ったのを見ると制御能力もかなり優れた奴だ。
「よく避ける奴だ」
「それが生業だからねぇ!」
――ハセインノヴァ式暗殺術〈影隠し〉
〈エシオスの土人形〉を一つ立てて注目を集め、俺自身は姿を消した。〈影隠し〉は代わりに視線を集める対象を一つ指定し、自分自身は魔力で姿を隠す技。自分自身と同じ姿をした〈エシオスの土人形〉なら効果が極大化される。
一番良い点は対象が完全に消滅しない限り、破壊される程度では〈影隠し〉の効果が消えないということだ。
「面倒くさい」
奴は俺がどこから襲撃しても対応できるようにあらゆる方向に『分解』の魔力波を放出した。しかしそれは無駄だった。
だって、そもそも俺が狙ったのはテメェじゃないんだよ。
「ぐあっ!?」
「がはぁっ!」
四方から敵の悲鳴が響いた。
俺と部下が周辺を歩き回りながら、残った奴らの中で比較的弱い奴らを優先して間引きしていたのだ。〈静けさの証明〉でザコどもをほとんど倒したとしてもまだ数が多いから。
すると指揮官が舌打ちした。
「仕方ない。〝奴ら〟を解放せよ」
「で、ですがそれらは今回の作戦の核心です! 無駄に使うとテシリタ様の罰が……」
「最も重要な〝それ〟を使わなければいい。やれ」
「は、はい!」
一部の奴らが動いた。奴らは俺の部下の牽制を突破して大砲に接近した。大砲の下の部分が開き、その中に入っていた物が明らかになった。漆黒の玉だった。安息領が魔物を封印しておく宝石と同じ感じだったけど、もっと……不吉で否定的な感じだった。
「大地の魔力を使う小僧に集中せよ。残りのザコは直接始末する」
「はっ!」
奴らは玉を全部俺の方に投げた。俺がそれを迎撃する前に玉から魔力が噴き出した。
玉らが吐き出したのは魔物――ここまでは安息領が普段使っていたローレースアルファと同じだ。でも飛び出した魔物のレベルが違う。
「これは……まさか!?」
この世の魔物には見られないほどひどく歪んだ形状。邪毒そのものといっても過言ではないほど濃い邪毒を撒く肉体。不規則に歪んだ奴らなので見慣れた形は一つもないけど、その恐ろしい不規則性にむしろ見慣れた。
アカデミーの邪毒獣出現事件当時現れた異界の魔物たちの姿だった。
「安息領が狂った奴らだとは知っていたけど、これくらいだなんてねぇ……!」
おそらく東の海が『息づく滅亡の太陽』に占拠されたせいで、そこで邪毒獣を召喚できなくなったから直接召喚したのだろう。魔道大砲を利用してアレをバルメリア王国のあちこちに配送する計画だったのだろうか。
あれをここで消耗してでも俺たちを始末するという考えだろうが、甘いね。アカデミーの時も上位魔物を討伐した俺なんだ。
――『地伸』専用技〈剥製の石塔〉
魔物の中で強そうな奴らを岩柱に閉じ込めた。そして弱い奴らをスピードと鋭さで倒した。でも数もかなり多いし、弱いとしても簡単に瞬殺できるほどのザコではなかった。思ったより多く始末できず、その間に〈剥製の石塔〉に閉じ込められた奴らも柱を壊して脱出した。
でも魔力の塊である岩が砕け散ってほんの一瞬、俺の姿を敵の視界から隠してくれた。
――ハセインノヴァ式暗殺術奥義〈次元交差斬り〉
空間を越える斬撃で指揮官の奴を直接攻撃した。奴は素早く反応したけど、完全に避けられず胸を深く切られた。その間、再び地面の下に入った俺が奴の後ろから飛び出した。
――ハセインノヴァ式暗殺術〈筋肉切り〉
地面から出ると同時にすねを切った。今回も早い反応のせいで完全に切断はできなかったけど筋肉を深く切った。あれくらいの強者ならこれで足を奪うことはできないんだけど、しばらく反応を遅くする程度はできる。
「さっきの波動は結局一時的なものに過ぎない。俺はいつでも大地を利用できるんだよ」
「自分でそれを明かすとは。弱点をさらけ出すバカめだな」
「何で言ったと思う?」
奴は真剣に疑っているような目で俺を見た。
そう、相手はハセインノヴァだよ。もっと疑って気をつけろ。しかし、そうすればするほどハセインノヴァはさらに強くなるんだ。
俺の部下たちもまだやられた人はいなかった。今は姿を隠したままこっちの状況を見守っている。よし、これくらいならいつでも挟攻ができるよ。
一方、指揮官は舌打ちをして声を高めた。
「オメガ部隊。全員全力を発揮せよ」
安息領の奴らの魔力が膨らみ、身体が変形した。立っている奴ら全員がローレースオメガだったのか。指揮官の奴も魔物の特徴を現し、魔力を高めた。
「この力でテシリタ様の直属六位の座まで上がった。貴様のような小僧は犯せない光栄だぞ」
「ブサイクになったのが光栄? やっぱり似非宗教は頭がおかしい奴らだけだね。そういうのはお前たちだけで楽しんでよ」
指揮官の奴は不愉快そうに顔をしかめた。
……さぁ。威勢よく挑発したことまではいいけど、潜入と暗殺が得意な俺たちはこの状況を自力で打開することはできない。時間を稼ぎながらリディアの合流を待たなければならないんだよ。
リディアに思念通信を送った後、俺は奴らの攻撃に備えるために『地伸』の魔力を最大で展開した。
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