それぞれの役割
要約された話ではただ〝安息領がムラヒム国壁に手出そうとしている〟ということしか聞かなかった。でもシドの気配を見ると、どうやら安息領が何をしようとしているのかもわかっているようね。
次の言葉はその予想通りだった。
「安息領の奴らが既成の魔道具と術式を変調する魔道具を搬入したことが確認された。それもかなり大規模でややこしいことまで可能なものをね。そして強力な魔力砲を撃てる魔道大砲もあったんだ。その他に魔力を増幅するものもあったけど、おそらくそれを利用してムラヒム国壁の力を増幅するって騙したんだろね。いや、実際にその用途に使うと思うけど」
「ムラヒム国壁を改造して大砲で撃つってこと?」
「多分。国壁の力を変換して大砲に供給すれば強大な超長距離砲を撃つことができるから。直接攻撃の他にも砲弾に物を乗せて撃つことも可能だし。安息領の奴らならレースシリーズを砲弾に乗せて撃っちゃうんじゃないかな?」
「テリアが言ってたよね。もともとは東の海から魔物の大軍が殺到するはずだったって」
かつて行っていた、東の海を掌握した『息づく滅亡の太陽』の領域の中心地だった島。『バルセイ』で安息領はその島の魔力で異界の門を開けて魔物の軍勢を呼び出したと聞いた。
バルメリア王国はムアルタ公国へ騎士団を派遣して防御戦を繰り広げたけれど、邪毒獣まで含まれた軍勢だった上に他の所でも同時多発的に問題が起きた。結局ムアルタ公国は廃墟となり、バルメリア王国の東の地域まで侵攻された、とテリアが言っていた。
「擬似的にそれを再現するかもしれないってことね。おそらく『バルセイ』での召喚に比べれば規模は小さいだろうけど、バルメリア国内の被害はさらに大きくなるかもしれない」
「え? なんで?」
「『バルセイ』ではムアルタ公国での防衛戦の後、本土でも騎士団が備えて防衛を繰り広げたから。騎士団の被害は甚大だったしムアルタの犠牲も大きかったけれど、バルメリア国内だけを見れば民間人の被害は少なかったでしょ。テリアもそう言ってたし。けれど安息領が本当に超長距離砲で本土を直接打撃して魔物を配送するなら、本土の民間人被害が途方もなく大きくなるでしょ」
「言われてみればそうだね。そこまでは考えられなかった」
シドは騎士科じゃないから、これは思いもよらなかったみたいね。テリアのせいで魔物と直接戦うことは増えたけれど、もともとこのような大規模な戦闘のことはハセインノヴァの特技じゃないから。
「本国に知らせて支援を受けるのが最善だろ。けど本国でもいろいろなことが起きていて遅れるんだ。もう少し時間があれば支援が派遣されるはずだけど」
「その前に行動するしかないわね。まぁ構わないよ。そのためにリディアが来たんだから」
ちょうど目的地に到着した魔道車が止まった。私とシドはすぐにドアを開けて降りた。
私たちの目的地であるルアルーム基地はムアルタ公国の北方地域の高原へ設置された基地だ。北の国境防衛軍の司令官が留まる基地らしく、石で積み上げた城壁を魔道具の力で堅く強化した所だ。出入りするためには衛兵だけでなく魔道具を使った検閲まで通過しなきゃならない。
もちろん私たちもそのまま入るのはできないので、魔道車が止まった所は基地の高原の下側。今私たちは身分と正体を隠している上、基地に入るための言い訳もない。
「シド。基地にバレず潜入できるの?」
「多分無理なんだ。すでに部下が一人潜入中ではあるけど、彼自身は発見されなかったけど外部から誰かがこっそり入ってきたってこと自体が早くバレて警戒態勢に入ったと聞いたんだよ。潜入した要員も最初の報告だけした後に連絡が途絶えた。バレてはなかったはずだけど慎重に隠れているだろ。基地の防護壁が強化された状態だから、今潜入を試みたらすぐバレるよ」
「こっちからその人に連絡する方法は?」
「侵入を感知した後に基地の防護壁が思念通信を遮断したから無理。潜入した要員もそれに気づいて遮断直前に報告をしたんだ」
「ふぅん」
今すぐは私たちが直接潜入したり内部の要員と連絡する方法はないということね。
私は自分の武器であるアーマリーキットを地に置きながら質問を続けた。
「基地の防護壁の性能は?」
「すべての機能を常に最上に保つわけではないんだ。潜入した後になってようやく気づき機能を強化したのもそうだし、潜入した部下が報告した内容の中に防護壁を略式分析した内容もあったんだよ。多分九十パーセントくらいは確実だと思うよ。強い火力で打撃するなら、直接的な防御力を高めるために他の機能を弱めるしかないだろ」
「決まったわね」
シドも私が何をしようとしているのか知っているから、ああ言ったのだろう。
予想通り、彼は苦笑いしながらも私の行動を妨げなかった。代わりに頼みの言葉を残すだけ。
「くれぐれも怪我しないように頑張ってね。こっちはお前一人だから」
「適正なラインがどれくらいかは知っているよ」
――リディア式多重可変兵器『アーマリーキット』、開放
「ムアルタ公国の基地なんかがリディアを防げると思う?」
シドの苦笑いがさらに深まった。
「あっちは安息領と協力しているかもしれないから。本当に気をつけてほしいよ?」
「あんたこそリディアを守ってあげたいならちゃんとしてね」
私は火力担当。外で華麗に暴れ回り、壁を突き破って視線を集める。その間に潜入して様々な工作を行うのがシドと部下たちの役割。
その配分さえきちんとやり遂げれば、私もシドも全く問題ない。
――『アーマリーキット』具現兵器・火力投射用増幅火砲『黄色い虎』
「第一歩から華やかに行くわよ。ちゃんと仕事しなさい」
「心配するなよ」
『黄色い虎』に『結火』の魔弾を装填した瞬間、シドの姿が私の目の前から消えた。それを確認するやいなや口元が荒々しく上がった。
……気兼ねするわけじゃないけど、こんな表情をシドに見せるのはなんだか嫌なんだ。
「一人攻城戦は新鮮な経験だね。――さあ、あっさりとぶっ飛ばしちゃおうか!!」
叫びと同じくらい勢いよく華麗に、『黄色い虎』が火を放った。
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