ムアルタの噂
「じゃあ行こっか。俺たちは市街地を回ってみよう」
「ただ遊ぼうってことじゃないの?」
「遊ぶのは正しいけど、ただ遊ぶだけじゃないんだ」
私は歩き始めたシドの傍について行った。
「知ってるだろ、ムアルタ公国は今内部が複雑だよ。状況が極秘裏に展開されるわけでもなく、不穏な雰囲気を平凡な民も感じて不安に思っているから。こういう状況では人と接するだけでもいろんな話を聞くことができるんだよ」
「どういう意味かはわかる。でも民が知っている程度の話が今リディアたちに有益かしら? しかもそういうのも部隊の人たちが収集してくるでしょ」
「直接聞くのは感じが違うからね」
「いくら考えてもただの言い訳のようだけど……まぁいい。休息も重要だから。どうせ今すぐは他にやることもないし」
そう言うと、シドはまた苦笑いした。
「テリアのように言うね。そうしたらいつか余裕のない人になるんだよ」
友達として長い間一緒にいたから。テリアの影響を受けたことは否定できないね。否定するつもりもないけど。
「で? どこに行くの? まさか計画もなしにむやみに勧めるのじゃないよね?」
「もちろん考えておいたよ。ついてこい」
シドの案内に従ってあたりを見回した。
街の雰囲気は普通かしら。ここはムアルタ公国の首都だけど、バルメリアのタラス・メリアに比べると建物の高さや密集度が劣っている。けれど人々の活気は変わらなかった。店も客も元気よく生きていたし、シドの言う通り観光で来たような人も多かった。
けれど、不安そうな雰囲気も確実にあった。
「北防衛軍が戦争を主張するって?」
「戦争を主張しているわけではないんだって。でも独立を宣言したら結局戦争になるんじゃない?」
「そんなはずが。バルメリア国王陛下はいい御方だもん」
「人が良くても国のことは違うんだぜ」
「ムアルタ公が許すはずがない」
今耳に入っている話だけど、似たような話がどこに行っても聞こえてきた。もちろん私とシドは一言も逃さなかった。
「核心は今ムアルタ公国で独立を主張する人たちがいるということだよね?」
「そうらしいよ。そんなことを主張する一派はもともといたけど、どうやら安息領が奴らを刺激したようだね」
ムアルタ公国は遠い過去にバルメリア王国に挑戦して敗れたけれど、公国の地位になることで自治権を保障された国だ。そもそも先に侵略した側でもあり、バルメリア王国が防衛と経済などの分野で多くの支援をしてくれたため、バルメリアへの世論は悪くない。独立を主張する勢力がごく少数派だったほど。
「内部的にどうだったかは分からない。少数派というのはただ表向きには表現できなかっただけで、実際には共感する人が多かったかもしれない。あるいは本当に少数派だったけど安息領の暗躍で同調者が増えた可能性もある」
「シド、あんたはどう思う?」
「両方とも可能性はあると思うけど……まぁ、個人的には後者かな。ムアルタが公国になったのは四百年ほど前のことで、現代のムアルタの民はほとんどバルメリアに好意的だから。ムアルタ公も同じだし」
「でも公国になった当時に抵抗を主張していた人たちの末裔はまだその基調を引き継いでいると聞いたよ」
「まだ残っていた独立主張派がそちらだろ。安息領は彼らを刺激したはずだし」
シドはしばらく口を止め、隣の店に顔を出した。平凡な果物屋だった。彼は何か楽しそうな雰囲気で店主と雑談を交わし、リンゴを二つもらって一つをかじった。
「おお、これ美味いよ。一つ食べてみる?」
うっかり私もリンゴをもらって一口食べてみた。……美味しい。公爵家に納品される最高級品に比べると物足りないけれど、アカデミーに通学しながらタラス・メリアの一般店の味にも慣れている私には気に入った味だった。甘みが口の中にほのかに広がるのが気持ちいい。
シドはリンゴを食べる私の顔を見てニッコリと笑った。
「やっぱこういうの好きなんだね。そんなに笑っていると可愛いよ」
「リディアをそんな目で見ていたの?」
「もちろん。違うと思った?」
シドを困らせたくて言ったのだけど、彼はむしろ平然と言い返した。至極当然と言うような……いや、本当に私が何の意図で言ったのか分からないような表情だった。
あんな顔で出てしまったら言うことがないね。それで言葉の代わりにため息が出た。
「はいはい、お世辞でもありがとう。ところで今こういうの食べてもいいの? もうすぐお昼の時間じゃない。リディアは食事量が少ない方なんだけど」
「それくらいは大丈夫じゃん」
挨拶して店を出た後、シドはいろいろな所に私を連れて行った。気がつくと私は後で食べるおやつやムアルタ公国の伝統衣装まで買うようになった。
でもシドはその一方で噂のキャッチに長けていた。独立を主張する勢力に対すること以外にもあれこれ聞くことができた。それはいろいろな情報が分かるようにしてくれたし……あることについての話は全く聞こえないというのが情報でもあった。
「安息領の話は全然ないね」
今、ムアルタ公国内部の噂の中に安息領と関連があるものは一つもなかった。私とシドさえも安息領が今回のことと関係がないのかとしばらく疑うほどだった。でももしそうならハセインノヴァの諜報部隊が手がかりを探すだろうから、今はその可能性は排除することにした。
「まったく……変だね。安息領は根本的に似非宗教であり、テロを布教活動だと言う奴らだから普通秘密がほとんどないのに」
密かに何かをする場合もあるけど、最終的には自分たちの存在を現す。それが安息領の方式だけど、今回はそのような気配が全く見えなかった。このようなことなら、すべて終わった後に「実は背後に私たちがいました~」って言うはずもないし。
「やっぱり『バルセイ』のことを起こすのが目的なのかしら?」
「少なくとも筆頭はそうだろ。すでに筆頭の私兵集団同然の奴らになっている」
本当に気持ち悪い。
でも私が何と言おうと、奴らが止まるはずはない。だから今はできるだけ多くのことを突き止めた方がいい。
調査の主体は私じゃないけれども。
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