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王子と公女の議論

 放っておけばディオスも『バルセイ』でより早い時期にラスボスになっただろう。これは明白だ。さらにラスボス化しても『バルセイ』より弱かったジェリアやおそらく弱く出るトリアと違って、ディオスはさらに強くなる可能性さえあった。


 一旦は彼の体を浄化したけれど、『浄潔世界』さえも邪毒の影響ですでに変質したことを取り戻すことはできない。安息領がディオスを奪還したり監獄の中に密かに人を入れてディオスをラスボス化させようとするなら完璧に防ぐことはできない。


 まぁ、ディオスのラスボス化を完璧に封鎖できるとは思わない。ただできる限り遅らせ、時が来た時に討伐できるように準備するだけ。


 とにかくそれで尋問を終えた私は尋問室を出た。そして他の所で見守っていたケイン殿下と合流した。


「お疲れ様でした。で、何かわかったような気配だったのですが?」


「推測ですけれど多分九割くらいは実現すると思いますわ」


「ほう」


 ケイン殿下も尋問の過程はすべて遠隔で見守った。でも分かった情報を基に、私が心の中で下した判断まではわからない。


「トリアをどうするかはわかりましたか?」


「いいえ、残念ながらそっちは。ですが少し見当がつく部分はありますの。ただラスボス化させるだけならとっくにやっているはずでしょう。けれど今無理にそうしても十分な力を発揮できないはずですの。おそらくトリアの『融合』の魔力を抽出して利用する一方で、トリアを『バルセイ』と同等のレベルのラスボスにするために何か企んでいると思いますわ」


 安息領にとってトリアの利用価値は『融合』とラスボス化の二つ。トリアの立場を考えれば他の価値を安息領が考えている可能性はあまりない。


 ただ、こっちはあくまでも私の推測に過ぎず根拠は貧弱だ。そして事情がどうであれ、彼女を早く救わなきゃならないのには変わりがない。


「ただトリアとは別に、安息領が今何を狙っているのかは分かる気がしますわ」


「いくつかのことをやらかそうとしているという情報はありましたね。私には単純にテロ事件を起こしているように見えましたが、何か違うことを暗示しているのでしょうか?」


「おそらく『バルセイ』の大きな事件のいくつかを早く起こそうとしているのだと思いますの」


『バルセイ』の事件はいろいろあった。その中にはいろいろな原因と事件が累積した末にこそ起きるさらに危険なこともあった。そして当然だけどそのような事件は事前作業と他の事件が先行されなきゃならないため、前兆が見えざるを得ない。


「安息領の立場からも、今の時点で起こせることには限度がありますの。けれど大きな事件のいくつかは繰り上げることができます。それを狙っているのだと思いますわ」


「止められますか?」


「ある程度は。けれど奴らの行動を完璧に封鎖できなきゃ、遅らせることはできても完璧に予防することはできません。事件が起きた時、被害を最低限に抑えて防ぐしかないでしょう。少なくとも人命被害はほとんどないようにすることはできます」


「それはせめてもの救いですね。それにしても……」


 ケイン殿下は尋問室の方向をしばらく眺めた。目に見えるのは壁だけだけど目で見るのじゃなく、その中にいる人のことを考えるのだろう。


「ディオス公子はやはりラスボスに覚醒するのですか?」


「少なくとも安息領はそれを狙っていますわ。そしておそらく止められないでしょう」


「ラースグランデがここに残した標識はすぐに取り除きます。ディオス公子の体に植えられた魔道具と共に。それでも止められないのですか?」


「安息領が決心して乱暴な手段に出れば防ぐのは難しいでしょう。奴らの立場からも大きな犠牲を覚悟しなきゃなりませんけれど、その気になればこの監獄を保護する異空間結界自体を吹き飛ばすことができますから。もちろんそのような暴挙を行った人たちは騎士団に討伐されるでしょう」


「騎士団が来る前に侵入してディオス公子だけを他の場所に引き抜いたり、その場でラスボス化させることもできるということですね。ふむ……」


 ケイン殿下はしばらく熟考した後、再び口を開いた。


「いっそディオス公子を餌にするのはどうですか? 安息領の立場で彼は魅力的な道具でしょうから、逆に彼を前面に出して奴らの行動を誘導して一網打尽するのです」


「発想が怖いですわね。ディオスはそういう扱いを受けても言うことがない立場だとは思うんですけれども。……その方法は安息領を討伐するという観点では意味がないと思いますわ。どうせどこで何をしても備えさえしっかりしておけば討伐は可能ですし、ディオスをラスボス化させるのはどんな手を使っても防ぐことはできないでしょう。いいえ、防ごうとしても意表を突く方法を必ず使うというでしょうか。ただ……」


「ただ?」


「場所を移すという点では有効ですわね。この監獄は厳然と王都タラス・メリアの真ん中にありますから。もしここでディオスがラスボス化しちゃったら、タラス・メリアに莫大な被害が出るでしょう。そうでなくても安息領が彼を本格的にラスボス化させようとすれば大兵力を使うはずですし、それだけでもタラス・メリアに被害が出ますの」


「では私の提案に賛成ですか?」


「提案自体は。けれど今すぐやる必要はないでしょう。奴らが私たちの意図通りすぐ動いてくれるはずがないし、奴らもディオスを今ラスボス化させるつもりはないようですもの。そのつもりがあったなら他の所で事件をたくさん起こすより、今ディオスに投資するでしょう。奴らにも戦力の限度がありますから」


「それはそうですね。了解致しました。準備だけしておけばいいようですね。そして他の事件については?」


「別途リストを作成して差し上げますわ。父上にも申し上げておきますので、父上と協力して備えてください。私は父上と連携して動きます」


「わかりました」


 完璧な準備はそもそも不可能だ。でもできることはたくさんある。それをすべてきちんとやり遂げれば、奴らの意図を粉砕することは可能だろう。


 防ぐことは防ぎ、トリアを必ず救出する。当面の目標はそう決めた。

読んでくださってありがとうございます!

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